シンデレラ-前編-壊れゆく優しさ-
昔々、ある国に、シンデレラという名の少女がいました。
彼女は優しく、美しく、誰にでも微笑みを忘れない子でした。けれど、その笑顔の裏には、耐えがたい孤独が隠れていました。
実の両親を早くに亡くし、少女は継母と二人の義理の姉たちと暮らすことになりました。
けれどその家は、愛ではなく憎しみに満ちていました。
継母は冷酷な女でした。義理の娘を我が子としては見ず、ただ家事のための道具としか扱いませんでした。
「掃除は終わったの? なら次は洗濯よ。朝食は私たちが食べてからでいいわ」
「みにくい灰かぶり娘。鏡も割れるわね」
そう言って、彼女たちはシンデレラの頬を平手で打ち、髪を引きちぎり、ボロのような服を与えました。
日々、シンデレラは泣きました。涙が枕を濡らし、声を殺して夜を越えました。
けれど、時が経つにつれて、心は次第に冷たく硬くなっていきました。
涙は乾き、代わりに黒い想いが芽を出しました。
「なぜ私はこんな目にあうの…?」
「なぜ誰も助けてくれないの…?」
そして、ある日を境に、彼女は祈るのをやめました。
代わりにこう願ったのです。
――私に力を。
――私を嘲った者たちを、地獄に落とせる力を。
そんなある日のこと、国じゅうに舞踏会の知らせが届きました。
王子が花嫁を選ぶために催す、豪奢な宴。
継母と義姉たちは浮かれ、絹のドレスに身を包み、シンデレラを嘲笑いながら出かけていきました。
「お前なんかが行けるはずないでしょ。掃除でもしていなさい」
ドアが閉まった後の屋敷には、静寂と灰だけが残りました。
その夜、シンデレラは一人、庭の祠に跪きました。
母の形見の祠。その前で彼女は静かに、けれど確かに願いました。
「復讐の力をください。あの女たちを、苦しめる力を――」
風が止まり、空気が凍りつきました。
闇の中から現れたのは、黒いローブをまとった一人の魔術師。
「願いは聞き届けた」
「その代償は、お前の心。復讐を遂げれば、もう戻れぬぞ」
「それでいい」
少女は迷わず頷きました。
魔術師は、深紅のガラスの靴と、漆黒のドレスを与えました。
それを身にまとったシンデレラは、まるで闇夜の女神のように妖しく、美しく変貌しました。
彼女は静かに微笑み、夜の王宮へと馬車を走らせました。