桃太郎─第3部:悪にかける情けは無し─
鬼ヶ島に到着した桃太郎一行は、意外な光景を目にしました。島には確かに鬼たちが住んでいましたが、彼らは畑を耕し、子どもたちと遊び、まるで人間と変わらない平和な生活を送っていたのです。
「あれ?なんか想像してたのと違うな…」
犬が首をかしげました。
「鬼って、もっと恐ろしい存在だと思ってたけど…」
猿も困惑しています。
「あの子鬼たち、人間の子どもと同じように笑ってるよ」
キジも戸惑いを隠せません。
しかし、桃太郎の表情は変わりませんでした。
「これこそが、鬼の狡猾さだ」
彼は冷たく言い放ちました。
「悪は常に善良な仮面を被る。この平和な光景こそが、彼らの邪悪さの証明なのだ」
「でも、桃太郎…」
犬が口を開きかけましたが、桃太郎は遮りました。
「悪を見抜けない者は、悪に加担するのと同じだ。僕が真実を暴いてやる」
桃太郎は躊躇なく攻撃を開始しました。村を襲い、家々に火を放ち、逃げ惑う鬼たちを容赦なく斬り伏せていきます。
「やめてくれ!私たちは何もしていない!」
「どうか命だけは!子どもたちだけは助けて!」
鬼たちの必死の叫びが響きましたが、桃太郎の耳には届きません。
「悪は必ず偽りの言葉で同情を誘う。その手には乗らない」
戦いの中で、仲間たちも傷つきました。鬼たちの反撃により、犬は牙を折られ、猿は腕に深い傷を負い、キジは翼を裂かれました。
「桃太郎!これはおかしいよ!」
犬が血を流しながら叫びました。
「彼らは本当に悪い鬼なのか?」
桃太郎の怒りは頂点に達しました。
「仲間を傷つけるとは…これこそが鬼の本性だ!やはり彼らは根絶やしにしなければならない悪なのだ!」
そして、最も残酷な瞬間が訪れました。一人の幼い鬼の子が、瀕死の父親を庇って桃太郎の前に立ちはだかったのです。
「お願い…お父さんを殺さないで…」
小さな鬼の子の目には、純粋な恐怖と愛が宿っていました。人間の子どもと何も変わらない、透明な涙を流していました。
犬、猿、キジは息を呑みました。
「桃太郎、その子は…」
しかし、桃太郎の心は微塵も揺らぎませんでした。
「偽りの涙で、この世の正義は変わらない。正義は冷徹でなければならない。情けは悪を増長させるだけだ」
桃太郎の刃が閃きました。
幼い命が絶たれた瞬間、島全体に絶望的な悲鳴が響きました。鬼たちの慟哭が空に響き、仲間たちは言葉を失いました。
「これが…正義なのか…?」
猿が震え声で呟きました。
桃太郎は血に染まった刀を振り払いながら、冷然と答えました。
「そうだ。これが真の正義だ。悪には一切の情けをかけてはならない。
たとえ幼子であろうとも、悪の血を引く者は将来必ず悪となる。予防することこそが、真の正義なのだ」
鬼ヶ島は焼け野原と化しました。生き残った鬼は一人もいません。桃太郎は満足そうに頷きながら、島に残された財宝を集めました。
「これで一つの悪が根絶された。正義の勝利だ」
しかし、仲間たちの目に映る桃太郎は、もはや正義の味方ではありませんでした。彼らが見たのは、冷酷な殺戮者の姿でした。
桃太郎の心は既に人間のそれではなくなっていました。正義という名の狂気に取り憑かれた怪物が、そこに立っていたのです。