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ラプンツェル-第1部-無力という名の罪-

むかしむかし、町のはずれに情けない男がいました。妻が妊娠しているというのに、男は朝から晩まで酒場で呑んだくれ、家事も仕事も一切しようとしません。「俺は病気なんだ」「体が弱いんだ」と言い訳ばかりして、妻に甘えてばかりいました。


妻の体調が悪化し、乳が出なくなっても、男は「どうしよう、どうしよう」と泣き言を言うだけ。働きに出ようともせず、ただ部屋の隅で膝を抱えて震えているだけでした。「俺には何もできない…俺は無力だ…」そんな自分に酔いしれるように、毎日同じ言葉を繰り返していました。


妻が「お願い、何かして」と懇願すると、男は逆ギレしました。「俺だって辛いんだ!俺だって苦しいんだ!責めないでくれ!」そう叫んでは、また酒を飲みに出かけるのでした。


ある夜、酒場の帰り道で湖のほとりに人買いの女の馬車を見つけました。食料が山積みされているのを見て、男の目が光りました。「そうだ…盗めばいいんだ…俺は悪くない、仕方ないんだ…」


震える手で馬車に忍び込み、パンを一切れ、りんごをひとつだけ盗んで逃げ帰りました。家に着くと、まるで英雄のように胸を張りました。「見ろ、俺が食べ物を手に入れてきたぞ!」


妻は涙を流しながらりんごをかじりましたが、夫がどうやって手に入れたのか聞くのが怖くて、何も言えませんでした。数日後、また食料が尽きると、男は「今度は俺の番だ」と言わんばかりに、再び盗みに向かいました。


二度目の盗みで人買いの女に見つかった時、男は完全に情けない姿を晒しました。その場で失禁し、鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔で地面を這いずり回りました。「すいません!すいません!すいません!俺が悪いんです!でも、でも妻が死んじゃうんです!俺は何もできないんです!」


女は冷たい目で男を見下ろしながら、薄笑いを浮かべて言いました。「盗みの腕前は悪くないじゃないか。いいだろう、好きなだけ食料を分けてやる。ただし条件がある」


「な、なんでも!なんでもします!」男は狂ったように叫びました。


「お前の妻が産む子どもを、私によこしなさい。それとも、盗みの代償として、お前は死ぬまで炭鉱送り、妻は売春宿に売り飛ばされたいか?」


男は青ざめましたが、ほんの数秒考えただけで即答しました。「わ、分かりました!子どもは差し上げます!どうか、どうか妻だけは助けてください!俺たちを助けてください!」


妻は絶叫しました。「あなた!それでも父親なの!?お願い、やめて!うちの子を連れて行かないで!」


しかし男は妻の声を聞こうともせず、女の足元に這いつくばって感謝の言葉を述べ続けました。「ありがとうございます!ありがとうございます!これで妻が助かる!俺たちが助かる!」

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