明日も、よろしくお願いします
「男子高校生、いま、靴を脱ぎました」
動画は、毎日決まった時刻にスマホへ届く。再生数13、いいね0。コメント欄は閉鎖。アカウント名も表示されない。共有ボタンはない。運営報告もできない。
画面は真っ暗。時折、自分の生活音が微かに混ざっている気がする。合成音声は感情も抑揚もなく、ただ淡々と実況してくる。
「シャワーの温度は、39度です」
「男子高校生、いま、頭を洗っています」
初めは悪戯かと思った。盗聴かとも疑った。スマホを初期化しても、SIMを変えても、通知は来た。
「男子高校生、いま、小便をしています」
うんざりした。通学中にも届く。電車の中、廊下、トイレ、誰かと喋っているとき。常に“誰か”が見ていて、その“誰か”は俺にしか存在しない。
動画を開かなくても、内容はわかる。通知文が実況の全文になっているから。
『男子高校生、いま、通知に苛立っています』
「……うるせえよ」と思わず呟いた。
スマホが震えた。
『新着動画:男子高校生、うるせえよ、と呟きました』
もう誰にも見せられない。どうやって見せろっていうんだ。動画をスクショしようとすると画面が真っ黒になる。録画しようとすれば音が消える。
俺の生活は、誰かのショート動画として毎日保存され続けている。誰も再生しない。誰も知らない。通知だけが、毎日鳴る。
再生回数は今日も13。誰が見ているのかはわからない。いや──本当に「13人」なのかどうかすら、怪しい。
動画の最後には、決まってこのフレーズが入る。
「男子高校生、明日も、よろしくお願いします」