次の進路相談いつだっけ?
高2の夏、俺たちは3人だった。
タカ、シュン、俺。気楽な男子グループって感じで、よく放課後にコンビニ寄って、パンとジュース買って、公園でくだらない話をしてた。
……はずだった。
4人並んで写ってる自撮りを、スマホの画像フォルダで見つけたとき、心臓が少しだけ重くなった。
「ユウ、顔死んでるぞ」とか、「翔ってばまたユウの肩に乗ってるしw」とか、俺のアカウントから投稿されてるSNSの記録。リプ欄にも、タグにも、ユウの名前が自然にある。
でも、ユウって誰だ?
覚えてない。名前も、声も、どんな顔だったかすら。
それなのに、スマホにはやたら写真がある。俺の隣に写ってることが多い。後ろから肩を掴まれて笑ってるやつもあった。
しかも──体育の時間、目が合った。
そいつは、俺の視線をまっすぐに受け止めた。
本能的にぞわっとした。やばい、こいつ、俺のこと見てる──そう思って、目を逸らした。
なのにその次の瞬間、俺は「よう!」って笑いながら、そいつの肩に腕を回してた。
……おかしい。警戒してたはずだろ? なんで、俺、笑ってる?
そのとき、俺の手が掴んだのは、ちゃんとした、温かい肌だった。確かにそこにいた。血の通った人間だった。
その夜、眠れずにシュンにLINEを送った。
『ユウって、いつからいたっけ?』
既読がついて、返事が来た。
『は?お前が一番仲いいだろ』
タカにも送った。反応は同じ。
『小学校のときからいたじゃん。なに、今さら』
……そんなはず、ない。
次の日、教室の席順表を見た。ユウの名前は普通にあった。
シュンの名前が、なかった。
誰も気にしてない。先生もクラスメイトも、シュンの存在なんて、最初からなかったみたいに振る舞ってる。
次の週には、タカもいなくなっていた。
そして気づいたら、俺とユウは2人で登下校していた。
昼飯も一緒、下校も一緒。部活帰りにコンビニ寄って、パンとジュースを買う。
放課後の空は、どこまでも薄い青だった。
風が吹くたびに、制服の袖にまとわりつく空気が、少しだけ湿っている。
どこからか草のにおいがした。近くの校庭では、誰かがサッカーボールを蹴る音が響いていた。
ユウと並んで歩く帰り道、アスファルトに伸びる影は、ぴたりと重なっていた。
「最近よく見る名前ってさ、気になるよな」
ユウが笑いながら言った。
「……そうだな」
俺も笑った。
胸の奥が少しざわついた。でも、その理由はもう、思い出せなかった。
──ああ、そうだ。
そろそろ進路を決めなきゃいけない時期だ。
みんな、バラバラになっていく。
仲がよかったやつとも、少しずつ、話す機会が減って、
気づけばLINEの履歴も遠くなって──それって、よくあることだ。
考えすぎなんだろう。
俺は、ちゃんと、前を向いてる。
そう思った瞬間、風が吹いて、どこかで誰かが笑った声がした。
誰の声だったか、もう思い出せなかった。