見てるよ
「今日も“おはよう”ツイートに誰も反応しない」
べつにバズりたいわけじゃない。フォロワー数はたったの183。適度に相互がいて、たまに冗談飛ばして、たまに日常の写真をあげて──それでよかった。
けど、ある日から、全部変わった。
最初は1人だけだった。何の脈絡もなく、俺の投稿に「目目目」ってだけリプしてきたやつ。なにそれ。なんの意味? 気持ち悪いなと思いつつ無視した。
……でも、次の日には3件。翌週には、俺のリプ欄は「目目目」「目目目」「目目目」で埋まってた。
しかもそれだけじゃない。
フォロワーの投稿を見ると、どれもこれも「目目目」が大量についてる。いいねもコメントもなくて、ただ、じっと見られてるだけ。監視カメラに囲まれてるような気味悪さ。
「お前も見られてるぞ」って、そう言われてるみたいだった。
俺はそれでもツイートを続けた。「学校に遅刻する夢を見て飛び起きたけど、まだ五時半」「雨が止まなくて最悪」「誰かメガ盛りカレーチャレンジしてみようぜ」──意味のない、どうでもいい、何気ないつぶやき。
でも返ってくるのは、全部、「目目目」。どんな言葉も、全部飲み込まれて、「みてるよ」って一言に変わる。
DMもおかしくなってた。
久しぶりに連絡をくれた友達も、「久しぶり!元気?」のあとに、ぽつりと「目目目」を置いて、それっきりだった。
詐欺っぽい広告DMすらも、リンクの代わりに「目目目」を置いてた。
海外のbotも、怪しいアカウントも、みんな、ただ「目目目」を送ってくるだけ。
なんだよそれ。誰が誰かも、何が本物かも、もうわかんない。
俺は、スマホを放り出したくなった。でも、やめられなかった。気づいたら、過去の投稿を確認してた。
……全部、「目目目」になっていた。
俺がつぶやいた日常も、写真も、悩みも、うれしかったことも──
「目目目」
「目目目」
「目目目」
……それしか、残っていなかった。
なんで? 怖い? わからない?──そう思うべきだった。
でも、もう何も湧かなかった。
やれやれ、って呟いた声すら、自分のものじゃない気がした。
どうせ誰も言葉を返してくれないなら、俺も、そうするだけだ。
画面の向こうで誰かが投稿していた。
「最近、部屋の時計が全部少しずつズレてる気がするんだけど」
俺は、その投稿を見て、リプを開いた。
指が、勝手に動いた。
「目目目」
それしか返せなかった──だから、今日も誰かの投稿に送る。