第八話
「なんであんた、こ、こんなところに!
と、というか・・・それっ!」
ぷるぷると手を震わせながらも稲村は叫んでディルドを持つ手を指さした。
なんだか愉快で面白い気もする。
普段柔道ではつらつと清らかな精神を持つと評判の美少女が
裏でディルドを使ってしこしことしごいているという点や
知らないものにはとんがった口調をするような点が。
「ああ、これか?いやー偶然落ちてたんだけど、いったい何なんだろうな?
もしかして稲村のか?」
「なっ、なんで私の名前・・・!」
「あれ、知らなかったか。そうかそうか。じゃあ記念に教えてあげよう。
俺の名は田中誠一、人呼んで生ける女たらし。一応友達で
柔道部の豊田がいる」
「なっ・・・!!」
「いやーしかしこのねばねばした先っぽの液体なんだろな。いやーなんとも変な香りもする」
「・・・」
「この形どこか既視感があるなぁ・・・なんだか卑猥にも思えてくるなぁ・・・
一体何なんだろうか」
「・・・あんた、いい加減に調子に乗るんじゃないわよ」
とドスを聞かせた低い声が聞こえたかと思ったら俺の手からディルドは消えていて
何時しか俺はヤンキーにカツアゲされているような襟首をつかまれ壁に押し付けられている
状態になっていた。
ぐぐぐ、と下を見てみればそこには精いっぱい歯を食いしばって汗をたらたらと流している
まるで拷問を受けているような苦悶の表情の稲村がいた。
しかしやはり美少女は何をしていても美少女のようで
しわを寄せて必死気なその顔にもどこか華があった。
そして段々なめらかに上がっていく口角は圧倒的有利の立場に立った
監禁犯罪者のようで寒気がした。
そのねっとりと開かれる口から
「あ、あ、あんた。もうあんたは殺されても文句はない所業をしてしまってるわ・・・・」
「お、おう」
「口答えをするんじゃない!ただただ黙って聞いていろ!」
「・・・」
「あ、あんたはね・・・もう私の、でぃ、ディルドを見てしまった以上!
もう私に対して義務があるのよ!」
自分から白状するのか・・・
俺は困惑で胸がいっぱいだった。
テンパりすぎているにもほどがあるだろう。
「ね、ねぇ。笑ってるでしょう・・・」
「・・・」
「笑ってるでしょうっていってんのよ!ねぇ!」
「は、なにを」
「だぁかぁらぁ!私のことを心の底から笑ってるでしょう!
神妙な顔しちゃって!」
話す相手が取り乱していると逆に冷静になってしまうんだよ、なんてことを心の中で
俺は思っていたがしかし口を閉ざせとのことだったので俺は黙っていた。
そしたらびんたされた。
「なにこっちみてんだ!ふざけるなよ!」
理不尽にもほどがある。
というかこいつヒステリー過ぎないか。
ああ、やだ。
最初はなんだか照れちゃってかわいいとか思ってはいたが、俺は本当にヒステリーが嫌いなんだ。
とにかく怒りが収まるまで発狂し通さないといけないその性質。
それは親父にひたすら文句を言って俺に当たっていた母親にそっくりで
もうこいつのスタイルがよかろうと、俺の心の中でこいつに対しての受けどころの部分はなかった。
でもまあディルドを見られてはこうなってしまうのもしょうがないということなのだろうか。
いやだがしかし、俺も母親にオナホを見つけられたことがあるが
ここまで取り乱したりはしなかった。
ということで結局人は人ということなのだ。
羞恥心から訪れる心の圧迫感に耐えきれない悲しいやつなのだ。
なのでしょうがない。
柔道部をやっているからかさっきから俺の襟首がぎゅうぎゅうにしめられていて
まったくもって身動きが取れない。
というか動いたら何をされて何を言われるか分かったものではない。
よってこの場は待機。
ただそれしかできないのだ。
だから達観。
それ一筋。
「もう私決めたわ!」
涙を目に浮かべながら稲村は語った。
「なにを」
「だから口を開くんじゃない!」
「・・・・」
ったく、これだからヒステリーは。
「溜息もつくんじゃない!」
気持ちいほど思い切り振りかぶって放ってくるそのびんたの威力はとても重く
そしてあつみがあった。
つまりとてもいたかった。
どうしろっていうんだ、全く。
「もう私決めたの!」
そうですかい。何をですか。
「もうあんたの口は軽いことはわかっている。柔道を学んで心を学んだから」
それってバイアスと違う?
というか暴力をふるうのは心を学んだものとしてはいいんですかね。
「私はもうこれから思う存分あんたが引くほどの卑猥な話をしてやるわ。
それはもう思う存分なんだから!
そしたらあんたもドン引きしてきっとこのことにたいして口を開くのもおっくうになるに違いない!」
それってセクハラなんですがね。
正直女子のエロトークはすさまじいものがあるとの定評が世間の人々から
聞かされていたのであまり耳を喜んで立てるようなものでは
俺の中ではなかった。
しかし女子のエロトークという響きに少しときめいた局所的部分がいさんで
躍動した。
「あら、どうしたの?二人ともこんなところで。一美ちゃん、お客さんをそんな乱暴
に扱っちゃいけませんよ」
その時救いの手が訪れた。
「あ、お姉ちゃん」
「ほら、まず手を下ろして。すみませんね、お客さん。妹が乱暴なものですから」
「いえ、いいんですよ」
本当はもっと言いたいことがあったが、それを言うとなにかとてもいやな予感がしたので
言わなかった。
「では少し買い物をしてきますのでごゆっくり」
と買い物袋を手に稲村のお姉さんは去っていった。
「続きは部屋でやるわよ」
もう勘弁してくれ、と言いたいところだったが、猛獣のような目で見つめてくる稲村の前に
撤退の文字は俺の頭の中にはなかった。
改めて女子の部屋にしてはとても質素なところに再び案内されたあと
俺は地獄を味わった。
女子のエロトークはどんなものかと想像してみれば、全く持ってそれには卑猥のひのじも
ありゃしない、ただののろけ話だった。
稲村は頬を抑えてくねくねとしながらしゃべりだした。
「あのね、豊田君と組み合っているとねなんだかとっても心がポカポカするの。
まるでアメリカのスーパーによくあるようなお人形に抱きしめられている感じがして。
豊田君は内股で寝技を仕掛けるタイプだからね、私はわざと技にかかって
その組み合う時間を長くしてるの。たまに彼の長くて硬いものが当たると
下腹あたりがきゅんってするの。その感触と彼の手のひらのごつごつとした手触り、
そして大きくて硬いぼっこを思い出してゆっくりゆっくりとディルドを
押し込むの。
そしたらとってもぽかぽかとしてね。
それをした途端彼がすぐそばにいるかのような安心感に包まれるの。
でもし終わった後は虚無感に襲われてとっても落ち込んだ気持ちになるの。
そして翌日彼にまた寝技を掛けてもらうの。
そしたらその虚無感はたちまち霧散してくの。
でも豊田君は強くて対戦相手としてたくさんの人とやるからその回数は少ないから
また彼の感触が恋しくなってまたトイレでしてしまうの。
もう豊田君の寝技なしでは生きていられない。
最近の生きがいは本当にそれだけ。
このディルドも一時的なものでしかないの。
やっぱり豊田君が一番。
それに変わりはないわ。
ああ、豊田君・・・」
正直吐き気がした。
あのデブが性格は最悪だが見てくれだけはいい稲村に好かれてるだ?
はぁ、今頃あいつはどうしてるだろうか。
と電話を確認するとやつは今頃祭りについたらしい。
もう五時だというのに・・・時間にルーズな奴だ。
金魚すくいの水槽でおぼれ死ねばいいのに。
「金魚すくいの水槽で溺れ死ねばいいのに」
俺は思っていることがついついメッセージとして送信してしまった。
「え、急にどうした」
豊田も困惑の様子だ。
だが俺は別にやつが友情とは何かと悟りを開こうが何をしようがすべて他人、どうでもよかった。
「だから俺は苦しいってわけだよ」
「は?」
俺は電話をしまった。
「え、まさか誰かにメッセージで伝えてたりしてないよね!?」
ばっと目を丸くして問いただしてくる稲村。
「してない」
「ほんと?」
「ああ、ただ嫌いなやつに殺害予告をしただけだ」