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第七話

二個目の焼きそばを食っていて思うことが一つ。


本当にカップルが多い。


情けなくなるほどに。


ああ、高校生なのに彼女一ついないのがこれほどまでに異常だったなんて思いもよらなかった。


恋もなにもない赤ちゃん時代に戻りたい。


無性に母ちゃんのおっぱいをしゃぶっていたい。


ああ、もう人生がいやだ。


こういうときは上を見上げよう。


そうすれば少しは落ち着くものだ。


そこで目線を上にあげる際に俺はとんでもないものを見かけてしまった。


小林だった。


まだこちらには気づいていない様子だが、一人でのこのことそしてきょろきょろと俺を


探しながらこちらへ向かってきている。


これはまずい。


速く逃げなければ。


俺は朝七時満員電車へ駆け込むサラリーマンがごとく、焼きそばの空を手にしながら


急いでその場を立ち去った。


祭りだなんていっても所詮神社の一角で行われる小規模のものなため


こんなことをしていてもいずれは捕まるのは必須である。


なので一応お面屋でひょっとこのお面を購入。


トイレで確認してみたところなかなかに悪くない。


視界も良好、しかし容姿でばれてしまうため、どうしたことか。


カモフラージュには一瞬なれこそすれ、この分では一分も持たないだろう。


小林がそれほど俺のことをよく見ていればの話だが。


出入口は一つしかないためうかつに帰ることはできない。


崖を下ればここから逃げれないこともないが、そんな危機にさらされるまでのことでもない。


さてどうするか。


とりあえず空を見上げてみよう。


地球が俺を助けてくれる、そう思ってまだ夏だからか青く澄み渡った空を眺めていたが


特に何も起こらなかった。


気分が少し回復した程度のことで特段解決策は浮かんでこなかった。


それはそうだ。


俺は金田一でも見た目は子供頭脳は大人でもないのだ。


やることもないのでスマホを眺めていた。


そしたら豊田がもうすぐ来るとのことであった。


待ち合わせ場所を変更しなければいけない、そう思ってここを


どうやって言い表そうかと周囲を見渡してみると小林がだんだん神社方向


つまり俺のいるところの近くに迫ってきていた。


俺は危機に瀕すると焦るというよりかは冷静になる性格であり、


そのことから俺はある一筋の光明が頭の中にさした。


神社、そうだ!神社だ!


いくら小林でも神社の中に俺がいるとはおもわないだろう。


それに祭りだからと言って神社が休みであるわけでもない。


そして豊田に待ち合わせ場所として言うにはより言い表すに格好ではないか。


よし、神社に行こう。


豊田への連絡は後でしておこう。


俺はひとまず忍び足でなるべく目立たないようにして神社のほうへ向かった。


聖域と言わんごとく神社の鳥居の向こう側には誰も人はいなかった。


それもそのはず、鳥居のほうまで行くと出店もなくなってきて


あまり見どころはないためだ。


それにカップルがいちゃつくとしても、砂利の地面に傾斜の山が周りには立ち並び


山に面していない場所といえば崖という開けたものであるが故


ほかに茂みに隠れるところを探しに彼ら彼女らは出向くのであった。


もう時刻は午後四時を回っていた。


信仰深い老人がよく早朝にここに訪れているのを目にするが


全く浴衣を来ている若者たちからも俺はそんな風に見えているのだろうか。


祭りの日にわざわざ参拝しに来るなんて、と。


だがそんなある意味趣深い老人とは少し違う点が一つあった。


それはお面である。


ひょっとこのお面を顔にぶら下げておいて神を敬う気持ちがあるはずがない。


だがその神社へ運ぶ足は確固たるものからなぜか珍獣を見るような目をして


皆俺の道行く先を開けてくれるのだ。


特別感で言えば確かに同じかもしれない。


かといってそれは正当なものではなかったため、無性に恥ずかしい気もした。


神社の奥には登山コースがあるため、そこの入口の木陰で休もうという魂胆を


持っていたものだが、その場所どりを無料でさせてもらうというのも


引け目を感じたので賽銭を放り投げておいた。


すると奥から巫女が出てきた。


「ありがとうございます。いいお面してますね」


彼女はにこやかに言った。


こんな時にお面をかぶっているのが本当に悔やんだ。


その小さい穴からも巫女は麗しき声と共に感ずるは美麗なボディーライン。


こんな小さな穴からじゃなくもっとまともにみたいというものだが


今まさにお面をほめられた直後だったのでやぶさかに取るわけにもいかず


「へへ、どうも」


と江戸時代の下人さながら底辺口調でそう返した。


巫女の容姿が見たいがためにずっとそこにたたずむのもなんだか不審者のようであったので


俺はすぐにくるりと巫女に背を向けて、登山道の入り口付近に腰をすえた。


コーラを一つ買ってくればよかった。


ミーンミーンとわめく蝉がうっとうしい。


ああ、そういえば豊田に連絡をしていなかった。


俺はスマホをぽちぽちと押しながら、暑さに身を任せ、汗を流し座っていると


前から砂利の音がしてきた。


それはそれは静かな足音だったので、イノシシかなにか獣かなと思い


見上げてみるとそこには先ほどの巫女がいた。


「ここじゃあお尻を痛めちゃいますよ。上がってきませんか?」


「え、いいんですか?」


「はい、もちろん」


「では、お言葉に甘えて」


しかしなんて心配りのできる巫女だろうか!


これぞ神の使いってものだ!


俺は感心しながらも神社の中へ足を運んだ。


このろうそくを煮込んだような独特な匂いが満ちる神社の中は


なかなかにこぎれいで、俺は前を歩く巫女の真似をして神妙にすり足で歩を進めた。


静まり返った神社の中、男女で二人っきりか。


さすがに神様がいる前でそんな気はあまりおきないようである。


俺は妙にこぎれいな床を歩くというより滑るように移動していくうちに


やがて小さな客間に通された。


そこで巫女は俺に座布団をよこしてくれた。


部屋はやはり質素なもので六畳間あたりの間取りに机が一つ。


また豪勢にもエアコンが一台ついていた。


「暑いでしょう。つけますね」


普段は全く使わない部屋なのか熱気が随分とこもっていた。


しかし数分ほどするとその熱気はすぐに無とかえり、やがて部屋の空気は


すべからく冷気と化した。


「麦茶です」


「おお、ありがたい」


触った途端に自分の体温の高さがいかにしれんほどの冷たさだった。


これは身に染みる。


俺は一瞬ですべて飲み干した。


「ふふふ、すごい飲みっぷり」


巫女さんは口に手を添え、そう笑った。


「ええ、外は本当に暑いものですから」


「本当ですねぇ。皆さん暑いのにこんなところまで赴いてご苦労なことです」


「ここは休憩所も兼ねてるんですか?」


「いえ、そんなことはないんですが、あなたがあまりにぐでっと木陰でしているもの


ですから・・・それとそのお面、取らないんですか?」


「ああ、これはまあいいんですよ。追っ手がいる身でしてね」


「ほほほ、そうですか。これはこれは」


こうやって近距離で話してみてわかったことがある。


この巫女さんは二十台そこらの女性であろうということと、その年齢の若さにもかかわらず


随分と老獪にたくみな言葉を用いる古風な人となりであるということだ。


俺が仮面を取らなかった理由として素顔を見られて幻滅されたくないからかもしれない。


もしかしたら麦茶を飲み干したときに少し見られていたかもしれないが。


全く深窓の佳人というのはこういうのをいうのだろう。


いちいちの所作からして全く気品に満ち溢れているではないか。


俺は巫女さんに見惚れ、またついつい話しかけてしまっていた。


「いやーしかし今の神社はクーラーがあるんですねえ」


「ええ、熱中症になっては大変ですから。流石に神様でも体調不良には対抗できません」


「ははは、それはそうだ」


「あ、忘れていたことがありました。実は砂利のところに水をまきに行く予定だったんです。


失礼ですがお暇させていただきます」


ここで俺は仮面をかぶっていたことについて利を得たと少し思ってしまった。


仮面の下の俺の表情はここでいってしまうのかという落胆一色の情けない顔をしていた


に違いないのだから。


だが声色までは流石に落胆が現れてしまうほどうかつではない。


「ええ、頑張ってください」


「ええ、では・・・あ、麦茶お代わりいりますか?」


「あ、ではお願いします」


「ではごゆっくりしていってくださいね」


そう言って巫女はその場から姿を消したと思いきや、しばらくすると


今度は別の巫女が姿を現した。


いや、巫女というより私服の女?


だがその体型は先ほどの巫女と酷似しており、姉妹なのかもしれない。


その女の手には麦茶が一つ。


「持ってきてくれたのか、ありがとう」


「いや、あんた誰?」


突き放すような声。


「普通に参拝客だが」


「どうせ祭りでぼっちでおぼれた悲しい人間でしょ。ふん、こんなところでじめじめ


してないで出ていきなさいよ」


さっきとは打って変わった態度で対応されたものだから俺は思わず困惑した。


「いや、こっちが誘われてきたのだが」


「ふーん、あっそ。知らないわよそんなの。というかそのお面なに?」


先ほどからのひどい態度に俺は不平な態度が隠せなかった。


「どうでもいいだろうそんなことは。ふん、そういうのなら帰るよ。これでいいだろう」


「あーあ、電気代がもったいない。一応ここ私の部屋なのよね。わかる?意味」


「はいはい、出ますよ」


「所でそのお面本当になに?」


「だからどうでもいいだろう」


「外してみてよ」


「拒否する」


なんだかこいつの性格が本当に受け付けなくなっていた。


俺はわざと足を踏み鳴らしながらその部屋をでた。


「だっさ。笑える」


後ろからそう声がしたが、気にせずに俺は出ていった。


さて部屋から出たはいいが、無駄に広いこの室内。


どちらがきたみちかわからなくなった。


とりあえず俺の聞き手は右なので右へ向かった。


どんどん進むこと五分ちょっと。


とうとう行き着いた先は便所だった。


丁度麦茶を飲んだ後だったのでしょんべんがしたくなった。


俺は少し便所を借りることにした。


戸を開けるとものすごい異臭がした。


魚が腐ったようなにおい。


しかしどこかフェロモンチックで引かれるものがあるようなにおい。


するとまず目を引いたのは床に転がっている棒状のものである。


「なんだこれ」


拾い上げてその形状を確かめる。


先端は湿っていて、まだぬくもりがあった。


じろじろと見渡していくうちにようやくこれがなんの道具であるかは理解ができた。


まずその形状はペニスだった。


つまりディルドである。


まだぬくもりがあるということはつい寸前までだれかが使用していたということだ。


俺は罪悪感を感じながらもそれをとりあえず握りしめてしょんべんをした。


やはり気になるというものでにおいをかいでみた。


まずは湿っている先端から。


「くさっ!」


例えるならガソリンスタンドに入ったときにおこるめまいのようなもの。


それが瞬時に匂いに変換されて脳にショックをあたえてきた。



これは特急呪物さながらであり全く神社でなければきっと多くの人に


この呪いがふりまかれていたことだろう。


神のかごとはすごいものだ。


とりあえず吐き気がしたのでそれを鼻から遠ざけた。


だがどうしたものか、見て見ぬふりをするにはちょうどいいかもしれないが。


しかしこれは材料になる。


もしもあの古風な女性が使った後のものだとしたらこれは格好の話のタネとなり


そしていずれ大人のステップを上るきっかけにもなるかもしれない。


だからここで待っておこう。


そしてトイレの中は熱気がこもっているためとりあえず仮面を脱ごう。


実は仮面の中も少し蒸れていたので解放された時の爽快感は格別たるものだった。


俺はさっぱりしたところで突然目の前の扉が開けられたことに気づく。


「なっ!?」


そこには麗しき例の巫女・・・ではなく先ほど俺を邪険にした女が驚いた


ような顔をしながらもその頬を朱色に染めていた。


「・・・ん?」


よくよく見てみるとその女には何か既視感があった。


何だろうと思ってまじまじと見つめてみると


その女ははたして稲村一美ではないか。


俺は驚きながらもそのディルドを持つ手の力を緩めることを知らなかった。



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