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第五話

「かんぱーい」


その後、残っていた二曲を小林と一緒にやったのち、席で一緒に缶コーラを飲むことになった。



「目隠しクリア初めてでクリアってやばいね!じゃあ記念におごってあげる」


と言って俺はその彼女の手のぬくもりがまだ残っている缶コーラを味わっていた。


「で、君結構やってる感じ?自前の撥とか持ってないの?SNSのアカウント


教えてよ、フォローしとくから」


と矢継ぎ早に質問を重ねてくるので俺は困った。


なにせ女子と話すのは本当に苦手というか、あんまり慣れていないからだ。


というか小林の距離が近い。


ベンチで隣り合って座ってコーラを飲んでいるわけだが小林はもう俺の真横


というか肩が触れ合うほどの距離まで接近している。


ったく、こんなんじゃ男はかんちがいしちゃうっつーの。


ま、俺はしないけどね。


なぜなら俺は俺を信じてるから。


このあふれ出る魅力は決してゆるぐことなく女子をひきつける罪なものということを。


「ねえ、聞いてるんだけど?」



ふくれっ面になってきたので俺はそろそろ答えることにする。


「ああ悪い悪い、ついコーラを味わいすぎていた」


「ふーん、コーラ好きなの?」


「ああ、好きだ。シメサバと同じくらいには」


「へえ、渋いね。もしかして若そうに見えるけど二十歳くらいなの?」


「なっ!?!?」


俺のことを認識してなかっただと!?!?


俺は小林のことを知っていたのに、小林は俺のことを知らなかった!?!?


「あっ、もしかして図星ー?いやーそれは困ったね、お兄さん。私JKだからこれだと


ちょっと立場的にまずいかもよー?」


・・・いや、落ち着け俺。まだ焦る時ではない。


そうだ、これは学校の制服から解放されたことにより魔法のフィルターがかかっているのだ。


だから普段着で行くとついつい俺の大人じみた魅力がどっとあふれでるというそういう寸法だ。


なのでこれは決して俺の影が薄いというわけではない。


「あー、小林夏美、だよな」


「えっ、なんで私の名前知ってるの!?怖いよ?お兄さん」


「いや、お兄さんなどではない。俺は田中誠一。小林の同級生だ」


「あっ、ああああ!あの田中君か!」


あの、ってなんだ。


「へー、太鼓のゲームできるなんて意外だなぁ。家でエッチなゲームをにやけ


ながらやってるイメージあった」


どんなイメージだよ、どんな。


まあ嘘ではないが。


休日にはかならず中古のパッケージのエロゲを買ったりする時間をいれてるのは間違いない。


だがここは否定しとかないと今でも低い俺の学校のカーストが更にひどいことになって


しまうので


「いや、んなことしてるわけないだろ」


と突っ込みを入れた。


「えーでもエッチな人なんでしょ?あーあの豊田君もだっけ?


なんか今噂になってるよー」


わずか一日でこれほどまでにうわさが広がるとは女子の情報網は恐るべしだな。


ここはしらを切っておこう。


「ふん、そんなろくでもないうわさを信じているようじゃまだまだだな。


噂なんてものは少し味付けされた作り話が妥当なところだ。


そんな真面目にとらえなくてもいいぞ」


「あー・・・・・確かに!そうかも!良いこと言うね!田中君!」


と背中を盤と叩かれた。


そのロリッ子じみた体からは想像もつかないほどの力がその手に込められていた。


またやばいやつなのかな?


前橋しかり・・・と思って顔を覗き込んでみるも、そこには常時少し頬が緩んだような


愛くるしい子犬さながらの表情があった。


その瞳には曇りが何一つなかった。


まあコーラをおごってくれたやつでもあるしそんなに悪いやつでもないかというのが


俺の結論だった。


「で、どう?もう一回一緒にプレイしない?」


「あー、ちょっと待ってくれ」


室内にいたことによりだいぶ時間間隔が狂ってしまった。


今はいったい何地なのか、花火大会が始まるのは午後四時からなのだが・・・


スマホで時間を確認してみると現在午後二時。


ワンプレイくらいはできそうである。


「ん、なに?予定かなにかあるの?」


「ああ、まあそれなりには」


「へー、なんの予定?まさか・・・これ?」


小林はほおを緩ませながら小指をくいっくいっと合図して見せた。


「んなわけないだろ。俺にそんな彼女なんていると思うのかよ」


「へー今フリーなんだ。ふーん」


「なんだよ、何が言いたい」


小林はニマニマとしながらこちらを見つめてくる。


「童貞だって言いたいのかよ」


「いや、そこまでは言ってないでしょ。なんだぁ、そっかぁ。君、童貞なんだね。


ふふふ」


しまった、つい自爆してしまった。


「う、うるさい!そもそもこの高校生で卒業しているのが異常なんだよ!」


「えーそうかな。うちの男友達でもうちらほら卒業している人いるって聞くけど」


ぐぬぬ。


そういう陽キャグループに属している奴ならそりゃ多少はいるだろうが


それを一般常識がごとく語るのはやめていただきたい。


「いや、そいつらが異常者の集団だから。俺は普通。アイムオーディナリー」


「はは、なにそれ。田中君おもしろいね」


なにもおもしろくはない。


こういうことをいじられるのは本当に勘弁なのだ。


しかしいじる側が女子ときたら俺はもう何も言えない。


ので顔を赤らめて参っている真似をしてすごすごとやりすごすしかないのであった。


「くすくす、まあいいや、いじりすぎたね。ごめんごめん」


「ああ、全くだ。やるなら早くしよう。花火大会ももうすぐだからな」


俺と小林はようやく重い腰を上げて、太鼓のゲームへと足を運んだ。


「あれ、花火大会行くんだ。へー、あれ結構盛り上がるらしいからね、そうかそうか」


「小林はいかないのか?」


「んー、私はもう今日はひたすら太鼓のゲームに打ち込む予定・・・・だったんだけど」


そこで小林はくるりと振り返って


「かわいそうな童貞君がいるもんだからさー。一緒に行ってあげることにしたよ」


「えっ、それって」


「もう照れない照れない。顔赤いよー?」


赤ちゃんをあやす親戚の従妹のように本当に面白おかしく頬をつついてくるので


これには本当に参った。


まさかの思わぬところから女子を取り入れることに成功したという事実に


からかわれている途中だというのになんだかおかしくなってしまって


笑い出してしまった。


「ふふふ、かわいい。私、君みたいな弟がほしかったよ」


「え、弟扱い?」


「うん、男って感じはしないかな。けど田中君はとってもいい子だよ」


「さいで」


なんだかうれしいようなうれしくないような。


けどやっぱり悲しいような、そんな複雑な感情が胸中で渦巻いていた。


「あー落ち込んじゃった、君はわかりやすいねー。そんなに私のことが好きなの?」


「ち、ちがわい!思い出し憂鬱にかかっただけだよ!」


「ははは、なにそれ。いやいや、本当に君はおかしな子だよ」


「ええい、撫でるのはやめろ!」


「ははは」


それからというもの、俺は散々にいじられ続けた。


そしてなんとしても太鼓のゲームで見返してぼこぼこにしてやろうと


画策するもやはりブランクは大きく、そして現在進行形で腕を磨き続けている


練達者の実力はすごいもので、結果的に俺は一回も小林に勝つことはなかった。


「いやー、しかし田中君すごいねー。これでブランクありってのが信じられないよ」


「もう一回だ、小林。もう一回・・・」


「えーまたー?もう花火大会始まっちゃうんじゃないの?」


「いや、多少遅れても問題はない。それより勝負だ!勝負!」


「はぁ・・・男の子だねぇ。でもこのままやり続けても君は私に一回も


勝てないと思うよ」


「やってみなきゃわからないだろ、そんなこと」


「はー・・・私がちょっと童貞煽りしすぎちゃったかな?」


ぎくりと体が自然にこわばってしまった。


それがいけなかった。


「あれ?図星?はっはっは、本当に面白いね、田中君。


まぁじゃあいいよ、私も謝るついでにとっておきの秘密を紹介しよう。


いい加減私も疲れてきたし、外の空気をすいがてら炎色反応の


一つでものぞいてみたいんだよね」


何を言い出すのだろう。


ごくりと生唾を飲む。


その刹那、小林はぐんっと俺のもとへ急接近してきてこそばゆくも


俺の耳元に口元をよせて小声で言った。


「私もね、実は処女なんだ。あと彼氏も一回もできたことないよ」


極めつけに少し紅潮した顔でにこりとわらう顔を見せられるものだからたまらない。


俺の心臓の鼓動はとまることをしらなかった。







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