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第四話

放課後、いつものように宿題をちょこっとやってからスマホをいじっていると


なにやら知らないSNSのアカウントからダイレクトメッセージが届いてくるでは


ないか。


時刻は午後九時。


俺はそのメッセージの差出人とそのメッセージの内容を見たのち、すぐにふて寝した。


内容はこんなものだった。


「突然悪い、豊田だ。いや、俺もお前に豪語したときははったりではなく楽勝だと思って


いたし現に別にきらわれているような関係ではなかったんだ。


だがな昼休みに教室でお前とした会話が悪かったらしい。


その時のエッチな話がなにやら女子の間で広まったらしくてな、稲村にはこういわれたよ。


豊田君と前橋君、ちょっとエッチなんだね。私そういうのには疎いから


ほかの子誘ってみて?お願い、だとよ。


わざわざ懇願までされちゃあ俺も引き下がらないわけにはいかなかったよ。


ということで俺たちは非リア同士でいくしかないってわけだ、たはは」


たははじゃねえよ、あいつ・・・無能にもほどがあるだろう。


なにが柔道部の結束力だよ。


まあだがあいつもあいつで俺のせいでとも少しは思っているはずなので


「お疲れ」


の一言で溜飲を収めた。


そんなこんなで一夜が明けて、とうとう決戦のサタデーがやってきた。


朝目覚めるとダイレクトメッセージ通知がひどいことになっていたことに気づく。


見てみると差出人は宗助だった。


見てもしょうがないといえばしょうがないのだが一応覗いてみると


やつは自分の着ていく服をわざわざ自撮りしてそれを違う服装で何枚も取り直して


送ってきやがったのだ。


やれやれ、だまされてるとも知らず浮かれてデート気分とはお気楽なものだ。


もうこの時点で行くなと言っても聞かないだろうし、俺は素直に


「どれを着てもきしょいことには変わらんな」


とメッセージを添付して、またやつの通知をオフにした。


そして花火大会までまだ九時間もあることから暇なのでゲームセンターに行ってみること


にした。


最近はクレーンゲームが多くてアーケードゲームが少なくなってきている風潮があるのだが


俺の近所のゲームセンターは滝の水流に逆らって泳ぐ鮭がごとく


あくまでクレーンゲームはおまけといわんばかりに古くからのなじみがある


機体や新機種を積極的に設置していた。


新機種と言ってもゲーム会社は軒並みアーケード開発から撤退をしているため


ほとんどが最新の音ゲーのアーケード版でしかない。


俺は鍵盤をたたいて無意味な記録を生み出すことになんの感慨もわかないタチだったので


昔ながらに店内対戦ができる格闘技ゲームをプレイした。


店内にはそこそこの人が集まっていて、すぐに対戦相手が決まった。


あ、負けたなと思ったらすぐにクレーンゲームであそぶ中学生の麗しき姿で


そのくすんだ心を浄化したりできるのでやはりゲームセンターというものはいいものだ。


しかしワンプレイに百円はきつい。


ので少し席を離れて財布の紐を締め直しを兼ねて、少しゲームセンター内を散策してみた。


相変わらず音ゲーのコーナー眼鏡をかけた細身の高校生から大学生あたりの年代


男性がすさまじい勢いで液晶画面を叩き続けていた。


すごさがいまいちピンとこないし何が虚しくてそんな冴えない男どもを見なければいけない


のかと思って俺はすぐにそこから立ち去った。


クレーンゲームコーナーは女子小学生から女子中学生の客層がメインターゲットのようで


幼い子供も多々いることから俺はかわいそうに思えてきた。


なぜならクレーンゲームには天井というものがありいくら頑張ってプレイしたところで


取れないものは取れないからだ。


親にお金をねだって次は取れる、次は取れるとわめく様がいかにも哀れ。


またその子たちは唯一実力でとれるかもしれないフィギュアコーナーにある橋渡しの


クレーンゲームには近づかないのでより一層悲しく思えてくる。


店も都合があるのかもしれないが、メインターゲットはそんな天井なんて概念を


知らない小さな無邪気な子供ばっかりなんだからそういうのはもっと優しく


してやれよと俺は切に思った。


だがこれも商売か、と達観したところでプレイもせず客をじろじろと見まわす


一人の男子高校生という絵面に違和感を持ち始める人々が


だんだんと増えてきてその困惑の視線を俺に浴びせようとしてきたので俺はそこからも


撤退した。


あとは定番の太鼓をたたくゲームコーナーだが、やはり人気だ。


人だかりができている。


俺もその人気さ加減に昔つられていた一人であり、鬼程度の難易度ならクリアはできた。


なので少しやってみるかと思って近づくとなんだかその人だかりというのも


普通にプレイしたいためにできた列ではないということに気づく。


いったい何だろうと思ってみてみると、低身長のどうとでもなさそうな長髪の女が


目隠しをしながら裏難易度を現在進行形でフルコンボしていた。


そんな異様な風景をスマホに収めようとしている者が周りにはたくさんいた。


なので人だかりができていたというわけだ。


その目隠し女の横の一機は空いていたので俺は人垣を割り込んで入った。



というのも最初は俺も注目されそうでなんだか少しめんどくさいなとも思っていたのだが


俺と同じような考えをしているような小学生の男の子が二の足を踏んでいたので


俺がファーストペンギンになってやろうと思ったからである。


・・・しかしまああれだな。


隣ですごいことをされると昔ながらのゲーマーとしての血が騒ぐというものだ。


いっちょやってみるか。


そう思って俺はいつも俺の背中を外出時に守ってくれているリュックサックの中から


汗拭きタオルを持ち出し、そして譜面を覚えている楽曲を選ぶ時にそれを


目に巻きつけた。


観客からは「おお」と歓声が湧き上がった。


もとから羞恥心はあまりない方だしどちらかといえば目立ちたがり屋の部類である俺は


周囲の期待というものを浴びてモチベーションを加速させた。


事前にスマホで譜面を確認しておいたほうがよかったかなんて考えもしたが


それは杞憂に終わった。


「おおお、すげえ。あいつらコンビか?」


「これ百万再生いきそうじゃね?」


「プロ二人いるやん、ワロタ」


などと周囲からどんどん声が上がってくる。


そしてそのざわめきもだんだんと増していっていることから人がどんどん集まってきている


ようだった。


俺の太鼓の叩き具合は順調そのもの、このままいくとフルコンボを狙えるんじゃないかと


思ったさなかだった。


「成績発表ー!フルコンボだお!おっおっおっ!すごいお!」


「うおおおおおおおおお!?!?!」


なんと隣の女は振るコンボをかましやがった。


どうやら女は最終ステージであったらしく、終わった後の片付けの音が聞こえてくる。


そして終わったその女に向けて周囲は拍手をしていた。


女が終わったことに伴い周囲は俺に期待を込めているのかしーんと静かになっていった。


俺もこのままいけばフルコンボはできなくもない・・・が


ここまでのプレッシャーを掛けられるとは露知らず。


無鉄砲できたからこんなことになるのだと自戒。


それでも昔に散々周囲から隠しつつもやりこんでいたことから体が覚えているのか


叩き具合は順調そのもの。


周囲の期待と俺の調子がなんだかマッチングしてしまったようであり


俺は思わず踊りだしてしまった。


「うおっ!?あいつ、やべえええ!」


「なにあれ?曲芸?」


「これ、百万再生いくわ・・・」


などという声もちらほら上がってきた。


いや、無断でアップするのはやめていただきたいが。


でも百万再生って言ったらもう俺有名人じゃん・・・!


なんていらない雑念が心に入ったせいだろう。


これまで順調だった叩き筋が一気に崩れ、途端にフルコンボの道はとざされた。


「はああああああ」


と周囲のため息が聞こえてくる。


そして俺のもとから離れていく足音も。


けれども俺は叩き続けた。


もう終盤だったため、このまま走り切ればスコアはそこそこだったからだ。


そしてクリアして目隠しを外すと周囲には誰もいない・・・はずだった。


「パチパチパチ」


たった一人の観戦者が拍手をしてくれた。


それは先ほど目隠しでフルコンボを達成した長髪の女の子、また


俺の学校の同級生でもある小林夏美だった。


小林はそのロリ顔をにんまりと程よくゆがませながら


「やるじゃん、君」


とほめてくれた。


そこで俺はうれションというものを初めて無意識でしてしまいそうになってしまい


汗がだらだらとまるで水をたくさん飲んだ時にでるおしっこのように


出て、皮膚をつたった。




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