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第三話

宗助の間抜けな姿を盗撮して終わりというのもなんだか虚しい気がしたので


柔道部随一のずんぐりむっくり豊田光弘を誘うことにした。


やつはデブで大食らいなので知られている。


またクチャラーとしても知られていて、昼休みの間やつの周りでは女子が近づかないのは


もうお決まりとなっている。


だが柔道の腕はピカ一でうちの学校の柔道部をインターハイにまで連れて行ってくれたのは


ほぼ彼の腕によるものと言っていいほどらしい。


だからいじりづらくも若干女子に嫌われているという微妙なポジションにいる彼は


モテない冴えない特技がないという下馬評をこの高校で有する俺でも


話しかける存在というわけであった。


彼は今日も今日とて俺の後ろの席でくちゃくちゃと飯を食っていた。


俺もさりげなくクチャラーではあるのだがやつの飯のかむ音にカモフラージュされている


ため大変助かっている。


「おい、豊田。明日の土曜日花火大会があるだろ?屋台でなんかおごってやるから


一緒に行こうぜ」


「丁度大会も終わったところだしいいよ。でも男二人ってのもなにか寂しいものが


あるな」


「そうだな・・・つっても誘える女子がいないんだよ」


「じゃあ柔道部から女の子を今度誘ってみるよ。女子の浴衣姿が見たい」


そう言う豊田の鼻の下はずずずと伸びていた。


「ああ、そうしてくれるとありがたい。柔道部でかわいい子といえば、


稲村一美か?」


「ああ、稲村ちゃんね。あの子は激戦区だからなぁ。もう予定があるのかもしれない」


「まあそうだよな。スタイルもいいし、顔も凛々しい感じがしてクールだ。


めったに手はだせないお人だよなぁ」


「おお、田中は稲村のことが好きなのか?」


豊田は身を乗り出して聞いてきた。


コイバナが好きって図体でもなかろうに。


「ああ、まあ稲村が特別好きってわけじゃないがかわいい子は大体好きだ」


「おお、俺も同感だ!田中とは気が合いそうな気がしてきたよ!


で、やっぱりこの学校では一番誰がいいと思う?」


どんどんその目はとろんとにやけた感じに、口角はどんどん上にあがっていくことから


こいつの潜在的なスケベ心が垣間見えた。


「そうだなぁ・・・やっぱりおっぱいでいえば前橋。スタイルで言えば稲村。


ロリで言えば小林。清楚系と言ったら七瀬。ギャルでいったら前田だな。


統合的に見たらやっぱりおっぱいの前橋だな」


「ほほう。よおくみてるな。だがな、田中」


「ん、なんだ?」


「ちゃんとTPOは考えた方がいいぞ。周りの女子の目を見てみろ」


言われた通り見てみると、そこにはゴミを見るような目つきをした女子の包囲網があった。


「ま、まずったなぁ・・・まぁでも他人は他人だからいんだよ」


「お、おう。そうか。強いな」


「で、ところで豊田は誰がいいんだ?」


「やっぱり前橋じゃないの?やはり女子の胸にはかなわないね」


「そうだよなぁ。やっぱ胸だよなぁ・・・けど俺はあいつに対してちょっとした因縁が


あってな」


「ん、どうかしたのか?」


「それが・・・」


と話す前に女子たちが俺たちの話に聞き耳を立てていることに気づいたので


教室の外で話そうということになった。


そして豊田には宗助が前橋にカモられているといった話をしてやった。


それをきいた豊田は怒りで顔が真っ赤になっていた。


「ゆ、ゆるせん!男をそういう目で見ている奴なんて最低だ!男女問わず!」


「ま、まぁ落ち着けよ。見てくれの良さにしちゃつり合いが取れてるともいえる


性格だろう?」


「いやいや、普通に犯罪すれすれじゃないかこれは。


詐欺師と何ら変わりはないぞ!なんでお前はそこまで落ち着いていられるんだ?


というか刈米と仲良くなかったか?」


そう激昂しながら問うてくる。


俺は目を遠くに向けながら答えた。


「まあ仲はいいがな。ただ一つとても許せんことを吐きやがった」


「な、なんだよ」


「ほんのりと見下されたんだ。自分はプレイボーイだと名乗ってな。


最初は確かに助けなきゃとも思わなくはなかったが非モテ煽りはさすがに許せん。


せいぜい美人局で痛い目会えばいいのさ」


「・・・お前も子供だなぁ。もう高校生なんだからそんなことくらいで


すねるなよ。腐っても友達だろう?助けてやればいいじゃないか」


「うーん、まあそうなんだがな。ただあいつは最近俺のことを見下してきている


調子があるから少しここでお灸を据えた方がいいんじゃないかと思ってな」


「いやーでもさすがにお金が絡んできている問題はまずいだろう。


お灸どころじゃ済まない場合もあるぞ」


「ううむ、正論だなぁ。けど・・・・うーん」



そこで一泊息をついて豊田は言った。


「まあわかるよ。モテてないのを馬鹿にされて腹が立つのは。


でも所詮学生恋愛なんて卒業までに八割が別れるというしょうもないものなんだよ。


所詮マウントをとるため、しいてはコミュニケーションを取るためのものでしかないんだよ


カップル関係なんてな。だからそんなくだらないものを争っていちいち反応するよりかは


一生続くかもしれない友情を守った方が俺は良いと思うぞ」


涼し気な顔でそういう豊田の姿はなんだかかっこよくも思えた。


「へえ、まともなこというんだな、豊田」


「へっ、まあな。これでもデブでクチャラーだからってんで散々非モテ煽りもされて


きてるからな。こういう時の対処法なんてお手のもんよ」


「そうか、かわいそうに。でもクチャラーに関してはやめられるんじゃないか?」


「あー、まあな。けどくちゃくちゃ食わないと食ってる感じがしないというか


おいしく味わえないというか、まぁそのあれだ。もう体にしみ込んじゃってるから


今更変えようがないんだよ」


「ふーん、そんなもんか」


「それに彼女はオリンピックで活躍してから女子は死ぬほど俺のもとへよってくること


だろうし、今は柔道だけでいいんだよ」


「そうか。でも女子高生と付き合えるのは今しかないんだぞ?犯罪になるしな。


年上女性もいいかもしれないが、若い子はいいもんだぞ?


そんな簡単にあきらめてていいのか?将来を見据えてる感あるようにしゃべってるけど


ちょっと口元ひきつってないか?」


俺をなんだか子供のように大人ぶって諭してくる豊田になんだかむかついてきたので


そう言ってやると、豊田はその巨体をふるわせて


「そうだよ!女子高生と付き合えるのは今しかない!けど世の中デブ専なんていない


んだよおお!さっきクチャラーをもう直せないとは言ったがあれは嘘だ。


一時期本気で女子と付き合おうとして散々声をかけたりアタックもして


身だしなみを整えた。


ただ、ただ・・・本当に俺のことを男としてみてくれる女子は誰一人いなかったんだ。


ぽっちゃりでクマさんみたい、かわいーとか柔道できるのすごいねとか言ってくれさえ


してもかっこいいの一言は決してその女子の口から出てくることはなかったんだ・・・


試合風景を見せても獰猛なヒグマみたいで迫力があったよとそれのみ。


俺のプレイスタイルは威嚇して相手を内股で強引に倒れさせるものだから


一本背負いみたいに華がないんだ。


だから、だから本当に俺にはもう柔道しかないんだよおおお。


そりゃあできるなら女子高生と付き合いてえし、突きあいもしたいよ!


けどな、だめなんだよ!本当にデブはデブとしか見られないんだ!


うおおおおおおお」


と慟哭にくれるやつの姿は惨めだった。


俺は自分と同じような境遇にある彼の肩にポンと手を置き


「そうか、悪かったな。これよければ使ってくれ」


と女子高生のコンセプトのカフェの無料券を差し出してやった。


だがやつはその券を渡そうとする俺の手を振り払い


「いらねえよお!こんなの!本当に女子高生がいるわけでもないそこになにもロマンは


ないし虚しくなるだけだからやめてくれええ!」


「そ、そうか・・・悪かったな」


「いや、いいんだ・・・心意気感謝する」


「ところで稲村を誘う件なんだが、お前がそんなんで了承してくれる可能性はないんじゃ


ないか?断られるのもかわいそうだしやっぱり女子を誘うのはやめて二人で行くか」


「ああ、その件については大丈夫だ。俺は男として見られないというわけであり


友達としてはまぁまぁその数はいる。だから安心しろ。柔道部の結束力と


稲村の浴衣姿を見せてやるぜ!」


「そうか、ならよかったが」


「そうそう、思い直してみてなんなんだが、刈米の件で


前橋のその奇襲を動画に収めておいてそれを種に一発やらせてもらうって作戦はどうだ?」


「・・・え?」


一瞬やつの言ってることがわからなかった。


豊田は真顔で続けた。


「いやだからやっぱりね?俺らが女子高生の穴を使えるチャンスはもうこれっきりってことよ。


つまりだな、刈米はまあかわいそうだがおとなしく死んでもらって俺たちはそこで黙って


盗撮しながら見守っていく、そして前橋にその動画を見せる。


暴行罪で訴えるぞという脅し付きでな。そしたらやつもおとなしく脱いでくれるんじゃな


いかって話だ」


・・・こいつ、イカれてやがる・・・


なんでこんなキチガイめいたことを淡々と語るんだ。


「ど、どうしたお前。それやろうとしてること犯罪に近いぞ」


「いや、お前に言われて気づいたよ。俺たちが女子高生と突きあうチャンスは


もうこの高校生の瞬間だけ。


ならそれに向けた努力とつかめるチャンスはとっとかなきゃな。


確かに犯罪に近いかもしれないが、まあこれも青春ってやつだろ?」


青春の定義がさすがにがばがばすぎるだろ・・・


俺も盗撮という手は思いついたがここまで振り切った考え方はできなかった。


「いったん落ち着け。ちょっとお前おかしいぞ。せいぜい女子の浴衣をながめるくらいに


しとけ」


「いやいや眺めるだけなら大人になってからでもできる。それよりだな・・・」


「ストップ、ストップ。悪い悪いお前に刺激した俺が悪かった。


今はもうパパ活ってもんがあるからお前も大人になっても女子高生とイチャイチャは


できるさ。ただ犯罪はやめような」


「いや、でもだな」


「いいから落ち着け、豊田!」


俺は暴走する豊田を落ち着かせることでなんだか逆に冷静になってしまい


本物に当てられたら正常に戻るという現象さながら、結果的にもう


宗助を陥れようという気はなくなっていた。


「やっぱり宗助は助けることにしような」


「ん、まあもったいないけどいいか。やっぱ恋愛より友情よな!


やっぱりわかってるな!田中!」


俺はお前の狂気で目が覚めたなんてことは言わずにおいていた。


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