第二十八話
「あいつマジでやばいわ。ただめんどくさいから相槌を打っているだけなのに
やたら俺の話に賛同してくれてるんだねとか勝手にのたまって
かつボディタッチも数分に一回してくるし
おまけに胸もちらっちらちらっちらもう隠そうともせずに凝視してくるものだから
神経がすり減っちゃうってわけ!」
どばっーとそうわが友人に対する愚痴を吐き出す前橋。
気持ちはわからなくもなかった。
俺たちは現在とりあえずやつから身を隠そうということになって
森の奥に身を潜めていた。
虫がやたらと多いことからいきたくもなかったのだが約束なので仕方ない。
なんでも
「私をかくまってくれたらおっぱいもませてあげる」
なんていわれたものだからしょうがない。
男ならだれもが奮起する条件であろう。
そこで俺は普段は使わない頭をフル回転させやつからの逃走経路を企てた。
俺はさっそく暗闇にて前橋に接近しその作戦を耳打ちした。
前橋は国利とうなずいたので早速その計画を行動に移すことに決めた。
まあ作戦って言っても簡単なもので単に俺がおとりになって引き留めているうちに神社に
こもってもらおうというものである。
「よう、宗助」
なんて気さくに声をかける。
「なんだまさか本当に俺と花火が見たいんじゃないんだろうな」
と宗助は振り返りながらにたにたと君の悪い笑顔をかましてくる。
うぬぼれるなといいたいところだったがここはおっぱいのためぐっとこらえ
その作戦に従って入り口付近まで遠ざけようとしたのだが
突如として宗助は俺に抱き着いてきた。
そして俺の服の匂いをすーすーと嗅ぎ始める。
気色悪いことと言ったらありゃしない。
「やめろっ!」
と迫真の声をもってやつを振り放す。
なんてことをしやがるなんて血走った目で見据えてやるとやつもやつとてその目は
真っ赤に充血していたものだから驚く。
そしてプルプルと震える指を俺に向かってさしながら
「き・・・貴様っ!その匂いは前橋のものだ!さっきまではしなかったくせに
どこであった!?言え!さもなくば・・・」
なんて警察犬さながらの言葉をはいてくるやいなや俺にとびかからんと
するので俺は慌てて避難。
「まてい!」
なんて今時言わない江戸っ子さながらの言葉にして宗助はダダダと足を踏み鳴らして
追ってくる。
やれやれ、流石に作戦が安直すぎたか。
しかしこれでもいい、結果として俺を追ってくるのならば前橋もすれ違いにして
安息の地神社にたどり着けるというものだから。
・・・ん、まてよ。
前橋が無事でも俺は無事じゃないという可能性もあるな・・・
そうなるとおっぱいももめない。
これはいかん。
なんとかしてこいつを倒していかなければならない。
だがどうやって。
疲労した体でさして変わらぬ体型の同級生をステゴロで倒せるほど
各党というものは甘くない。
何かいい案はないか。
少なくとも人混みが障壁として早々には追い付かれない現状だが
いずれ追いつかれるのも時間の問題だ。
とそこで
「あ、おにいちゃん!」
という可憐な声が聞こえてくる。
その方向を見てみるとそこにはりんちゃんが親御さんと思われる人と一緒にいた。
だが親御さんはほかのことに意識が集中していて俺には気づいていない様子だった。
するとみればりんちゃんの手に水風船があるではないか。
パインパインと漕ぎみよい音を鳴らすものがその手に二つ。
俺は慌てて駆け寄り
「すまない、一個もらってもいいか?」
と拝んだ。
やつはもう五メートル後ろまでに迫っていた。
状況は一刻を争う。
そんななか無邪気な少女は
「うん、いいよ」
と即諾。
感謝感激に至るのみだ。
そうして俺は水風船という武器を手に入れたわけだが
さてさてこれが目くらましとして使うことは間違いなしとしてそれでもって
やつを完璧なまでにまけるという保証はない。
と、すると追ってくるやつの足音が急に消え失せることに気が付く。
どうしたのかと思って後ろを振り向いてみると
なんとそこでは前橋がやつにおわれているではないか。
これでは本末転倒もいい所だ!
なんて思いながらにして俺は慌てて方向転換をする。
興奮した奴の足取りは俺を追っていたそれとは違いおおよそ二倍の速さにして
前橋も酔うようにして追いつかれそうな具合だった。
また花火を見ないで遅い時間だからという理由で帰るものが少なくなく
俺は人の押し寄せる逆流の中、滝に上る鯉さながらにしてやつを食い止めんとするのだ。
ここでこの水風船を投擲したとて大した足の杭止めにはならないだろう。
くそ、焦りと疲労でまともに思考がままならない。
ええい、ままよ!
と水風船をはちゃめちゃに投げようとしたその時だった。
この山が噴火したのかとも思える爆音が突如として鳴り響く。
見上げればどでかい閃光が夜空に散っていた。
人々はそれに足を引き止められ、時間停止能力を手に入れんとした俺はその隙を見て
するするっと人混みの中を抜ける。
はたしてその珍妙な追っ手と追われる女も目が空に釘付けとなっていて
足がお留守となっていた。
よって俺は即座にやつに足に膝カックンを入れた。
「なっ!?」
なんて間抜けな声を出しながらにして途端に崩れたやつは思い切り体勢を崩したことから
地面に頭をぶつけた。
そのあと一ミリも動かないのが気になるが脈は確かにしていたので
大丈夫だろうという結論に至った。
そして俺は失神した宗助をおんぶしながらまだ花火に気を取られていた前橋に声をかけた。
「ほら、宗助は倒した。もう帰ってもいいぞ」
「えっ、あっ、うそ!こいつほんとに?」
と宗助の肌をつねって確かめる前橋。
その引っ張り具合はいたそうという次元ではなくその肌から血も流れ出ている始末。
やれやれ、あんなに追い回しているからだ・・・
なんてまるでそれに向かってやめろともいえずまた友人ながらにしても同情はできなかった。
全てやつが悪いのだ、うむ。
「へえ、あんた意外とやるもんだわね。素直に感謝するわ」
と初めて対等に話しかけられたような気がする。
「いや、いいってことよ。それじゃ」
と俺はおんぶしているこいつを神社に運んであとは変態姉妹に後始末をまかせようとすると
「え、まってよ」
と引き止めんとする女の声が一つ。
「まだお礼、しおわってないじゃない」
と胸元をちらりとはだけてみせ、誘惑な表情をする同級生女子がいれば
なんでそのままスルーして神社に帰れるだろうか、いやできない。
とりあえず宗助はベンチに眠らせることにした。
安静状態がいいということもあるし、急に起きられても困るということだからだ。
ここで水風船が有効活用できるなんて思いもしなかった。
丁度良く額を冷やすものとして使えるそれを宗助のおでこに乗せる。
ゴムでぱんぱんとしたのが幸いでにゅるんとスライムのようにおでこにそれはまとわりついていた。
さて、もうそんな奴の状態何ぞどうでもいいってことだ。
これから先は未知の世界。
俺たちは神社の裏手にいき二人っきりの世界にして
その片方ははらりと上半身の服を紐解きながらにして
ふふとほほ笑んだ。
「胸を見せたやつはあんたのほかにもたくさんいるけどもませるってのはさすがに指で数えるくらいしかいないわ。
感謝しなさい」
そういいながらボロンとブラを外したその生のものを目にしたとたん
俺の中での何かがぶっ飛んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ぺたり。
それはたんなるタンパク質とタンパク質がぶつかり合う音。
しかししてそのあっけない音と瞬間であれど俺の中で沸き起こるドーパミンの
量ははてしないものだった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
発狂せずにはいられなかった。
そして余裕綽々でほほ笑む女が一人。
またガンギマリになりつつも表情はほほえんでいる、また手にはスタンガン、
そしてよろしくなじみのあるその胸の小ささにしてロリっ子体型の女が一人・・・・
「ねえ、ちょっと、あんたさあ・・・」
じゃり、じゃりと近づいてくる足音。
俺はそんな些細なことは気にしなかった。
知覚しているということに関して言えば確かではあるがそんなことよりもまずはおっぱいだった。
俺は必死にもみつづける。
しかしそれもいずれ逃げられる。
「ひぃっ!?!?」
と恐怖でおののき必死に逃げていく前橋。
ああ、おっぱいが・・・
なんて無念に駆られていると俺の背後にたたずむ女が一人。
女はニタニタと小気味よく笑いながらこう問うてきた。
「ねえやっぱり触れるなら貧乳より巨乳ってわけ?」
俺はあの感触にしてわずか数秒足らずで終わったことの悔しさでいっぱいで
「ああ、あたりまえだろ。おっぱいはおおきいほうがいいものだ」
「そう」
見えたのは涙を流す悲し気な少女。
聞こえたのは虚し気にそうつぶやいた声。
そして痛みを感じたと思えばそれは電気によるもので。
爆音でなり続けていた花火の音がまるで太鼓の音のように聞こえる。
それもやがて遠ざかっていきだんだんにして俺の意識は途切れていった。