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第二十七話

まったく女の涙ってのは厄介なもんで。


きわっきわに麗しく見える人生にて初見の同級生のしかも女の裸を


目の前にしたってボルテージが最高潮に上がるどころか


海底二万マイルまでに俺の心は沈んでしまった。


なんでえ、泣いたってしょうがないってのに。


人と人の間では昔っからコミュニケーションを取る際には言語、すなわち言葉を喋ってする


ものなのに涙をたらしてすすり声を上げられてもわかりようがない。


鼻をすする音でモールス信号を唱えてるわけじゃあるまいし・・・


はたはた迷惑な話だ。


ただただ気分を落ち込ませてくれる。


俺は何も間違いを犯していないはずなのに。


あーあ、外でいまだなお騒がしく聞こえる祭りばやしの音が恨めしく感じる。


なんだって俺がこんなしんみりしちゃってるのにうかうかとまあそんなどんちゃら


やってられるものだと。


俺の調子に世界も合わせてくれよ、とちょっとわがままなことを心の中で唱えてみたり。


そんな恨みつらみを胸の内ではいてしているともうあっという間に


人生で最初で最後の同級生女子のタオル拭き時間は終了してしまった。


するときたるは気まずい時間である。


お互いなーんにもしゃべらない。


もう流石に涙は引いたようだがその顔にはまだ不機嫌の模様がにじみ出ている。


ぎろっと時たま見てくるというよりは目を射貫いてくるかのようにして


俺のほうに視線をくれ、なんだよとそのまさに目には目をといったように


睨み返そうとするとつい、と視線を逸らされたり。


ちっ、あくまで俺はご機嫌取りかい。


と歩み寄る姿勢を見せてこない小林に憤慨しながらも


かといってそうまでして邪険にする度胸もなかったので


「肩でも揉もうか?お疲れだろう?」


なんて気さくな言葉をかけてみたりもしたが


「・・・いい」


となんともそっけない態度を取ってくるではないか。


これには俺も流石に我慢ができなかった。


俺はずいっと立ち上がってこういった。


「じゃあ俺かき氷買ってくるからな。お前、俺の分まで買ってきてくれたのに


こぼしちゃったろ、二つとも。埋め合わせだ」


「あっそ」


「・・・何味がいい?」



「レモン」


「そうかい、じゃいってくるよ」


「いってら」


なーんて早々に抜け出しちゃうのが度胸なしの童貞ってところかね。


やれやれ、でもしょうがないじゃないか。


女を怒鳴りつけるなんてのはロジハラよりもやばいモテない男仕草だし


かつあんな場を和ませるような話術があったらもうとっくに彼女の一人や二人できてるってもんだ。


はーしんど・・・


道行く人は楽しそうにしてこういっていた。


「最後に一発どでかい花火が打ちあがるみたいだな!」


「へえ、いいねえ。なーんだ、お前なんかと一緒でそれ見るのもあれだな」


「そんな悲しいこと言うなよ。次こそはダブルデートって事よ」


がははと男子高校生ながらにして腹の底から出すどすの入った低い笑い声を


楽し気に肩を組みながら歩き二人はどんどん歩んでいった。


そうか、花火か。


これでも見たら少しは小林も気分が晴れるかもしれない。


あいつが花火が好きなんてことは効いたこともないが、花火が嫌いな奴なんていないし


特大のものならなおさら気分が晴れるというものだ。


さてさて、とじゃあさっさとかき氷でも買って戻りますかね。


行動指針が決まるやいなや俺はそそくさとかき氷屋を探し求めるが


ない。


というのももう八時過ぎなのだ。


店じまいをしているのもたくさんいる。


それもそうか、と思いながらも入り口付近までの店を探り探りしていると


「おう、童貞君!一人でなんだい?調子はどうだい?」


なんてききなじみのあるうざったらしい声が一つ。


俺の肩を着やすくたたきながら言ってくるそいつの名は刈米宗助。


「やたら調子がいいな。なんだ前橋とうまくいったりしたのか?」


「ふふふ、聞いて驚くな、その通りよ!」


・・・どうせパシリやATMにされてるのに気づいてないなんてオチなんだろうが


一応乗っておこう。


「そうかそうか、それはなによりで。で、その前橋はどこにいるんだ?」


「ん、ああ、前橋な・・・それがどこに行ったのか全然わからんのだよ。


途中まで俺と仲睦まじげに離してはいたのだが突然目を離したすきにいなくなってな。


まあ照れてどっかに隠れているんだろうというのが俺の予想だ」


「逃げられたんじゃないのか?」


「馬鹿言え!そんなのは童貞のする発想だ!俺はきっちりと前橋と話し合ったんだ。


二人のこれからのビジョンについてをな。


そうしたら彼女もうなづいてくれた、とても愛想よく、な」


「あしらわれているだけじゃないのか」


「ふ、ふ、ふ・・・どうしてもお前は俺がうまくいっているという現実について


目をそむけたくなっているらしいが、しかし現実そう甘くないのだよ、わが友よ」


どっちのセリフだよ、ったく。


話がまるで通じないので俺もその先駆者である前橋の挙動を真似して


「そうだな、俺が間違ってたよ。お前はすごいやつだ」


いろんな意味で。


言外でそう皮肉をもっていったのだが当然宗助はそんなことは毛ほど感じなかったようで


「そうだろうそうだろう!はっはっは」


なんて気分よくはつらつに笑うのだった。


やれやれ、付き合っちゃおれん。


さて、無駄足を食ったことだし先を急ごう。


そうしてまた歩き出したところ後ろから肩をつかまれる。


「なんだよ」


「いやな、お前こんなところに一人うろちょろしてどうしたのかと思ってな。


もしかして俺の状況と自分の立場を比べて情けなくなった哀れな友人が


にぎやかなる祭り会場の奥の森で自殺するんじゃあるまいかと


心配なのだよ」


こいつ、どこまで調子に乗れば気が済むんだ・・・


だが面倒なことに肩をつかまれてるため無視しても状況は進まない。


「自殺も他殺も俺には縁のないことだ。話が飛躍しすぎだ、あほ」


「ふむ、確かにその頭じゃ自殺なんてことも考えつかなそうではあるな。


だが他殺がお前に縁がないとも言い切れん。なんだって衆目を浴びる中


こんな女子とキスするなんてムーブをかましているわけだ。


見せつけられていると思ってどこかで恨みを買っている奴もいるかもしれんぞ」


「その恨みを買っている奴がお前って落ちじゃあないだろうな」


「馬鹿言え、確かにうらやましいという気持ちは多少なりともあるが


少なくとも貧乳ロリよりかは巨乳の前橋だ。


かくいうお前だって貧乳より巨乳のほうが好きとか前に言っていなかったか?」


「・・・まあな」


「だろう?やはり男は胸の大きさにロマンをもつというもので・・・」


と長々とおっぱい談義をされちゃあ困るというもので


「なあ、そういう話はまた後でにしないか。俺には俺の用事があるんだ」


「ふむ?してその用事というのは?」


「かき氷が食いたくてな、出店がもうほとんど閉まりかけているけど


やっている店はまだないかと模索しているところなんだ」


「ほう、ガキだな。そんなにして氷を削ったものが食いたいか」


「ほっとけ」


「まあそういうなって。二つの目で何かを探すより四つの目で探したほうが


速く見つかるというものだろう?」


「なんだ、ついてくるつもりか」


「まあな。俺も前橋を探していることだし、お前も見かけたら報告してくれ。


この状況はウィンウィンなはずだがな」


隣に頭お花畑なやつすえて行動するのはなんとも行動水準の質が落ちそうなものだが


どうしてどうしてこいつは俺から離れる様子でもない上に


俺も祭りにずっと参加していたことから疲労もでてきて


まともに振り払えそうな気力もない。


結果にしてこいつのほんとかうそかもわからない


前橋からの好反応(笑)をやたら熱弁で語られることおよそ十分。


俺たちはもうすでに祭り会場の入り口付近までに位置しており


結果として出店はもうすべてしまっているということがわかった。


「ふむ、さてどうしたものか。前橋も見当たらなかったし、このままお前と


特大花火を見るなんて虚しいことはしたくもない」


どこまでも減らず口な奴だ。


俺は自販機でサイダーの缶を二つ手に入れ、一つをそのいけすかない男に投げた。


「ほら、それでも飲んで少しはおとなしくしてろ」


「なんでえガキ扱いしやがって。まあだが感謝する」


ゴチュ、ゴチュと昔から汚らしい音を鳴らして飲むとは知っていたが


疲労も増したこの耳が耐えられる代物ではない。


「なあもう少し音立てずに飲めないのか?」


俺はついそう口にしていた。


「ん、ああ缶の口からでる量が少なくてな。つい吸ってしまうのだ」


「その吸う音が耳障りって言ってんだよ」


「ふむ、そうか。でもお前も人のこと言えないペットボトルのの味方してるじゃないか。


お互い様だ」


「・・・」


はたしてそういう問題なのかと俺はいまだに疑問符を頭に残し続けてはいたが


なにせ今のこいつの浮かれ状態に口で対抗できる感じもしない。


だからもうその汚い音は自然の事象として片づけるに至った。


ああ俺もペットボトル飲んでいるときに周りにこんな不快な思いをさせていたのか


と少し自省の念にも駆られた。


「最後に特大な花火が一発撃ちあげられるとは聞いているがお前は見て帰るのか?」


突然そう聞いてくる宗助。


「ん、まぁな」


「ふーん、一人で寂しくないか?なんだったら俺と一緒に見てそのまま帰ってもいいぞ」


「いや別に一人じゃねえし」


「・・・は?どう見てもひとりだろうが」


「普通に待ち人がいるってことよ、女子のな」


「へぇ、大した嘘もつくようになったなぁ。やたら真実味がある言葉尻だ」


「嘘じゃないから言ってんだよ。本当じゃないと思うなら今から神社までついて来いよ」


「・・・ははーん、お前の狙い、わかったぞ」


親指と人差し指で顎を挟みにやにやし始める宗助。


「なにがだ」


どうせろくでもないことしか考えてないのはわかってたが一応問うてみる。


「つまりだな、俺と前橋の関係に嫉妬して無駄足を食わせてその会合を成し遂げないようにしているのだろう?


その手には食わんぞ!さらばだ!」


なんて言って勝手に去っていった。


来るのも風雲の如し、離れるのもさながら疾風の如し。


やれやれ、本当にめんどくさいやつだ。


三里先にキョロキョロとあたりを見渡しながら走り去るやつのすがたは


数分にして人混みに紛れて見えなくなった。


さて、と。


面倒な奴もいなくなったことだしもう一つサイダーでも買って


神社に戻るか。


するとぐいっと肩を引っ張られる。


またか。


あいつはとっくに向こうに行ったはずだが、今度は誰だと思って


振り向いてみるとなんとそこには蒼白な顔をした前橋がいた。


「・・・ちょっとあいつから身をかくまってくれない?」


その一言をかみ砕いて承諾したことでこれから凄惨なる事態が起こるなんて


誰が予測できたろうか、いやできない。


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