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第二十二話

「ああ、いたのか」


「何よつれないわねその反応」


その理由の一つとしては拍子抜けしたというのもある。


なんでもひょっこり出てきたと思ったらすぐに後ろから抱き着いてくる始末。


おまけにそのぬくもりの安定感と言ったらもうない。


もしかしたら明るくふるまっているけれども男に襲われた後なのかもしれないなんて


ことを毛ほど考えさせないようなその振る舞いに呆れてしまったのだ。


しかし人前でこんな抱き着いたりしたら誤解をされかねんと思った矢先


目の前を見ればその勘違いを今まさにせんとしている清楚系美女が一人。


「ふふ、もうアナルセックスはしたのかしら?」


「・・・・はい?」


口を抑えてふふふと笑いながら気軽にそういう口から発せられた言葉がいまいちピンと


こなかったのでもう一度聞き返す。


「え・・・と、あの聞こえなかったんでもう一回お願いします」


「ええ、だからもうアナルセックスはお済なのかしらって」


「・・・ねえ、誠一。あんたなんて人と知り合いなのよ」


と背後から小林。


それは俺が聞きたいくらいなのだ。


こんな無表情でどぎつい下ネタをかましてくる人だなんて思いもしないし、


そんな振る舞いもしてこなかったはずなのに・・・


付き合ってたりして?なんて想定していた質問の銀河のはるか遠くまでに


その方向ベクトルが暴れに暴れ、なんだかどっと心に疲労感があふれてきた。


なんで俺の合う女性はことごとくその裏がどぎついんだ・・・


・・・まああの妹にしてこの姉ありか。


なんて風に考えておいてそのショックを和らげていると


「あらあら、もしかして大腸菌でとんでもない過去でもあったのかしら。


それならすみませんね、ほほほ」


とさらに追撃をかけてくるは下ネタ女。


ほほほ、じゃないんだが・・・


「ええ、ちょっと誠一・・・この人やばい」


お前がそれ言うのも少し違和感があるがその意見には概ね賛同だ。


だが俺はこの人によくしてもらった過去もあるのでそう無下にはできない。


よって俺はもうこの目の前の雪女のような風体をした女性を親戚の


コレステロールがとかわめいているおっちゃんと見立てて喋った。


「ええ、まあそもそも俺たち付き合ってないんですよ」


「あらあら、それはそれは。早とちりしちゃったわね、ごめんなさい。


でも随分仲がいいようね。こんなにべたべたしちゃって」


「ええ、まあ。こいつが引っ付いてくるんですよ」


と頭をぽんぽんと脇の下から顔を出し会話を聞いていたちっちゃな女を


はたくとすぐに振り払われ


「子供みたいに言わないでよね!」


とおこって見せるが、その割には一向に俺に抱き着く姿勢は変わらずして


結局口だけの様子だった。


「あらあら、もうこうしてみると姉と弟みたいだわ~。いいわねぇ。


私もショタが好きなものですから弟がいたらそういうプレイもしてみたかったわ」


「・・・」


口をあんぐりと開けて唖然とする小林。


それもそうだ、俺だって正直きつい。


というかさっきから背中をたたいてのはやく立ち去れという合図がめっぽうしてひどい。


「まあ下のものがいるってのはいいですよね。俺も欲しかったところです」


「じゃああなたにとって彼女は妹さん代わりってとこかしら?」


なんてずけずけと聞いてくるんだ、この人は。


やれやれ、もうずいぶんとイメージ像が崩れてしまったようでなんだか悲しくもなってくる。


だが誰でも人間一つや二つそういう変なところも隠し持っているというものなのかもしれない。


しかしこの質問においては小林も聞いていることだしすなわち俺の真意にして


最高の答えを出さなければいけない。


それが今までの返答とは一味違うところである。


俺にとって小林は何か。


偶然この数時間足らずでやたらなついてきたイリオモテヤマネコ、


つまりこんな美少女がスペックのない陰キャのもとになんて訪れるというのが


そもそもの間違いであり、またこんな幸運はずっと続くわけじゃない。


さっきにして小林を追い求めたのもそれもひとえに手の届かないクラスメイトの


美少女で小林があったとしてもこんな陰キャなりにも


彼女が一人ぼっちで襲われそうになった時に助けられることはできるからして


行動しただけのことであり、そもそも助けて恩を売るなんてつもりは毛頭ない。


そもそも振り向かせようと努力すること自体俺には似合ってないのだ。


何事も省エネ体勢。


俺は刈米宗助にはなれない。


あんなに努力して女を手に入れたいとも思ってもいないし


自分のスペックに自信がないゆえにそもそもその資格があるのかすら


自分の中であやふやなのだ。


しかもそのほうが心に傷を負いずらい。


もうすでに数十分前に片付いた議論のはずなのだがそれがまるで


遠く数日前のことのように思える。


それだけ俺は俺の中での小林に対する思いがあったということだ。


確かに彼女は大切だし、この祭りも努力している宗助をただ陰で嘲笑って終わりなんてこと


になったらあとから後悔したかもしれないのだ、小林が来なかった場合。


感謝しなければならない。


やはり何事においても行動する奴はすごいのだ。


俺みたいにうじうじと何も行動を起こさないくすぶっているやつよりかは


女子のおっぱいを追い求めたり女子に未練を残しつつもひたすら柔道に打ち込んだり


一人の柔道家に対して散々の思いを募らせたり、太鼓のゲームに打ち込んでかつ


その少し気狂いな行動をとったかと思えば自分の感情に正直になってみたり


しているほうがよっぽどいい。


俺といえばなにをした、いや何をしている?


高校生にもなって成績は平凡、何を目指すということもなくただ茫然と


心の底では彼女を持つことを望みだがしかしそのための行動は


マッチングアプリでチャットだけしてやってる感を出すだけにして


真面目という何もとりえのないことを威張らんとし・・・


・・・そもそも考えるまでもない返答だったようである。


俺は答えた。


「いえ、ただのクラスメイトですよ。妹だなんて」


ぐしゃっ!


その時、なにかがおちてつぶれたような音がした。


そして足にひんやりとした感覚。


はたしてそれはかき氷であり、その二つともにして俺の両足に絡みついていた。


「うおっ!?おいおい、小林お前なにやってるん・・・・」


「・・・・」


つーっと、静かにその雫はなめらかな肌を伝い滑り落ちていった。


現代アートなんて言って飾れば相当な観客が付きそうなほどにして


思わず見とれてしまうようなひと時だった。


その唇は真っ白な歯にぎゅうっと締め付けられ、紫がかったピンク色へと変色し


窮屈そうでありまた握りしめるこぶしには雫が滴り落ちていて


その落ちたかき氷のつぶれ具合から見るにそのカップを握りつぶしたのだろうと


思われる。


また目はうるうると乾燥を知らない面持ちであり、しかし灼熱の砂漠がごとく


かっかとその面にて豪炎。



眉根はびっちりと照らし合わせるがごとく接しており、流鏑馬を現在進行形で



たしなまんとしている武士のようにその目は鋭くして俺を見据えていた。


きりきりと結ばれていた口がようやくほどかれて、勢いよく大口にして


開けたと思ったら、そこから発せられる音は微かにして息を吸う音でありつつも


その顔は無念の色にして一色でありその呼吸も本意ではないようである。


そして次にまた大声を発するのかと思えば、だがしかしまたしても


その口からなにもでてくることはなく、はたして人形劇の芝居を見ているのかと思えば


また涙がその頬に滴り落ちていった。


何がして一体突然俺の体を離れそして怒りをあらわにしているのか


その目の前の小林夏美という女のことについて俺はよくよくして理解不能であった。


俺が言ったことはすべて正しいはずである。


ただのクラスメイト、付き合ってもいないし、そんな仲がいいものでもない。


そもそも今日知り合って間もないような間柄であるのに


そんなに俺の答えが不満だったのかと俺としても不満に思うにして


ほかに選びようがないというのが事実であるのだ。


すると急にこひゅーこひゅーとせき込んだかと思えば、突如にして


いきなり小林は倒れた。


その豹変ぶりに俺は呆れかえるばかりだったが傍らにいた


稲村姉は血相を変えて小林のもとへ駆け寄り脈を確かめるかというような真似を



して見せたのちに俺のほうを振り返りこういった。



「彼女、熱中症だわ」


その時わき腹が妙にあったかくなったような気がした。


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