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第二話

「はっ、これは失礼」


俺は咄嗟にその鼻に詰まっている毛を一本引き抜いた。


「ははっ、きったなーい!」


俺のギャグセンスを理解できるとは流石前橋さんだ・・・


「不潔ー、この世の汚物ー、いや生ごみー。社会不適合者ー。義務教育の敗北ぅー」


・・・いや、そこまで言う?


というかどんどん俺のもとからすり足で後退していくのはやめていただきたい。


大変傷つく。


「そうだぞ、この薄汚れたゴミ捨て場の犬の糞野郎!」


「お前も言えとは言ってないぞ、脳内ピンク野郎」


「あ、これは痛恨の一撃入りましたぁ!?すまそすまそ、そんなときには


前橋さんのなでなでがいいぞ!まあおまえにはもったいないくらいだけどな!


わーっはっはっは!」


こいつ・・・酒飲みが酒を飲んでいい気分になっているように


好色野郎が女を感じてその通りいい気分になってやがる。


しかしちょっと調子に乗りすぎだと思ったので、手近にあった消しゴムをやつの額めがけて


頬り投げた。


すると見事に命中。


「おお、すごい!ストライクですねぇ」


可愛そうとは言わないのがまた変わってるな。


まああいつはきもいやつだし認識されてるだけましな方だ。


さて、おでこを抑えながらこちらをにらんできているやつはいいとしてだ。


「前橋さん、もしかして俺たちと花火大会に行きたいのかい?」


「えっ、ああ、友達がね皆、彼氏と行くからって一緒に行くのを断られちゃったんだよね。


だからほんとに困ったなって話」


・・・つまるところやっぱり俺たちと行きたいってことなんじゃないのか?


ああ、なるほど、高嶺の花である前橋さんが俺らみたいな底辺を誘ったりしたら


ことがことだもんな。


まあここは男らしく俺から誘・・・


「あーそれは困ったね!じゃあ俺と一緒に行こうか!前橋さん!」


「え?いいの?こんな私なんかと」


「うん、もちのロンだよ!倍満だよ!あ、でも誠一は一人で行けよ」


突然俺は友達に裏切られた。


だが慣れっこだしあいつはそういうやつだと知ってるからあまりショックではない。


それよりも前橋さんとの会話をずけずけと割り込んできたことのほうに腹が立った。


なのでなぜかまた近くの席にあった消しゴムをやつに投げつけておくことにする。


「ふふっ、二度も同じ手は喰らわないのさ!くらえっ!」


なんと俺の剛速球ならぬ剛速消しゴムをやつは手でキャッチして咄嗟にスローイング!


これには俺にも反応できなかった。


なぜならその球筋に先には俺ではなく、ほかでもない前橋さんが・・・


「きゃっ!」


なんとやつは前橋さんの瀟洒な鼻筋に消しゴムを投げつけやがった。


「なんと!」


「なんとじゃねえ!あほが!前橋さん、大丈夫ですか?」


「いたた、ええ、まあ大丈夫ですよ。しかし困りました」


「なにがです?」


「ええ、だって、あまり私こういう暴力に慣れてなくて・・・」


とやおらに手に消しゴムを持ち始め


「ええと、投球フォームってこれであってます?」


と俺に確認を求めてきた。


「・・・まぁいいんじゃないんですか?」


もしかして仕返しをするつもりだろうかと思ったらそのまさかだった。


「えいっ!」


パズルゲームで一連鎖を決めたときの女きゃらのような萌え声と共に


前橋さんは宗助めがけて消しゴムをスローイング。


フォーム確認のときのなんちゃってフォームとは大違いのその投球モーションから


球を放たれるまでに巻き起こったビュッという風を切る音。


暴力は苦手と言ってはいたがこの滑らかなフォームから決してそんなことはないとしれた。


だが野球が得意なだけなのかもしれない。


俺は確かめるべく


「ほげっ!?」


と言って倒れた宗助をほおっておいて


「前橋さん、ちょっと僕を殴ってみてください」


といいながら両手を差し出した。


「ええ、マゾなんですか?ちょっと気持ちが悪いですね」


「いや、マゾなんかじゃありません。ちょっと気になることがありまして」


「ふーん、じゃあえいっ!」


まさに息をする間もない速さだった。


手を構えたのにもかかわらず、彼女のこぶしがたどり着いた先には俺の額があった。


俺は確信した。


前橋あかね、こいつ、結構やばいやつだと。


額は結構腫れた。


ニホンザルのお尻よりもその赤さは尋常でないほど濃い。


「へへへ、お似合いだな」


「うるせえよ、お前なんて消しゴム当たっただけで倒れやがって」


「ふん、そりゃお前あんな美少女から突如として剛速球が投げられたら驚くし


思わず身を転じてしまうってもんだ。お前は構えててあれだからな」


「いや、あれは構えてなんとか対処できるってもんじゃねえよ」


「情けねえ奴だ。まあそれはいいとして、なんだよ突然。前橋さん待たせてるから


早く戻ろうぜ?」


俺たちは今前橋さんのいる二階の教室から離れ、一階にある自販機コーナーにいた。


「まぁ前橋さんには少し悪いがな、あの子を花火大会に連れて行くのはやめにしないか


って話だ」


「はっ?お前、何言ってんだよ。もしかして殴られて落ち込んじゃったのか?」


「いや、別にそういうわけじゃない。ただな・・・」


「なんだよ、お前に不足がありこそすれ前橋さんにはそんな欠如はないはずだぞ」


「いや、そんなことはわかっている。いやしかしだな・・・俺は見てしまったんだ。


前橋さんが殴りかかってきたときに発露したあのほほえみを!」



「それがどうしたってんだよ」


「ありゃあサイコパスだ。もしかしたら花火大会の騒音と人混みに交じって


俺たちを殺そうとしているのかもしれない。微かだが殺気があのこぶしには込められていた」


「・・・はああああああああ」


「な、なんだよ。そんなため息なんかついて」


「・・・お前さ、この年にもなって中二病はいい加減やめとけよ。まあ良い、その


俺にはわかるんだ、真実がな!ムーブが好きなのは個人の勝手だ。


だけどお前が前橋さんと行かないのは勝手だが俺にそれを強制する権利はお前にはない」


「まあそれもそうだな。じゃあ俺は帰るから。最近良い感じの女の子とマッチングしそう


なんだよ」


「知るか。あばよ」


宗助は去り際にニヤリと気持ちの悪い一応かっこつけたようではある笑みを残して


二階へ上っていった。


そうしてそれからというもの宗助は昼休みの間も前橋さんと絡むようになっていた。


なんだか人が変わったようでもあり、ここぞとばかりのチャンスに食らいつこうと


必死になっている感じがした。


「花火大会一緒に行くことになった!」


とスマホで連絡が来たのは花火大会の一日前のことだった。


「随分と返事が遅かったな。それともお前が誘えずにいたのか?」


「あー俺が根性でずっと誘ってきたんだがついに先ほど返事がもらえたという次第だ」


「ふーん、まあ気をつけろよ」


「なにをだよ」


俺は知っていた。


前橋がある日、数人の友達と話しているときに言った言葉を。


「最近私に貢いでくるやつがいてさー。もうかれこれ三万円はおごらせてあげたよー」


けらけらと人間でないような笑い声が続いて沸き起こった。


まるで悪魔の祭典である。


「で、最近花火大会に一緒に行こうってうるさいからさー、オッケーしてやったよ」


「へえー!?一緒に行くことになったの?」


「んなわけないでしょ。この私があんな陰キャと一緒に行くわけないじゃん!


きゃはは!まあでもあいつ金はたんまりともってそうだから暗闇に乗じて


財布はいただいちゃおうかな~?なんてね、きゃはは!」


「うわ~悪魔!悪魔!あははは!でもいいね!今度から私もそれ試してみようかな~?


ほしいブランドのバックあるし」


「ああ、いいんじゃないの?みっちゃん可愛いし。狙い目はそうだなぁ・・・


あー刈米宗助はだめだよ?私のATMなんだから。


だからみっちゃんには刈米宗助とよくつるんでる田中誠一がいいと思うよ。


ちょっとマゾっぽいから適度にいじってかまってあげればすぐに落ちそうな感じ!


みっちゃんサディストだからいいんじゃないの?」


「えー、私変態はごめんだなぁ。まあでも金のためだししょうがないかぁ」


金の亡者!、とまた数人の女子が笑って嬉しそうにした。


「ふふふ、そうね。まあ世の中金だから仕方ないわ。


じゃあ花火大会は刈米宗助を仕留めた後に一緒に行こうね。集合場所は~」


もうなんだか耐えきれなかったので俺は駆けだしていた。


まさか本当に自分の言ったことが当たっていたなんて思いも寄れず


俺はそのあとトイレに駆け込みゲロを吐いた。


こんな俺でもショックが大きかったのだから宗助にしてみればよりもっと衝撃的に違いない。


今、本当のことを伝えたとしても宗助はまたモテない俺のひがみだと受け取って


まともに聞かないだろう。


しかし真実を伝えて注意喚起を一つしておくのも・・・


「どうした?もう切るぞ?もしかして自分は不細工で童貞で花火大会に友達にまで


裏切られて彼女もできないでつい悲しくなったのか?」


その一言が余計だった。


俺はなんだかすがすがしくなったようで、もう全く宗助があの女に殺されようが


何をされようがかまわないという気になっていた。

俺は一転して調子のいい声で



「まぁ花火大会でキスの一つはできるといいな。


集合場所とかはもう決めてあるのか?」


「おうよ!ちょっと薄暗い神社の陰で待ってるって言われたぜ!」


「なっはっは、そうか。もしかして誘ってるのかもな」


「はっはっは、ちげえねえ。まあいいや、お前も俺みたいに立派なプレイボーイに


なれよっ。まあそれじゃ」


「ああ、じゃあな、勝手に死んどけ」


ブチッ。


俺はその時決意した。


やつが無様に金をとられているところを助けもせずにスマホに収め


そしてそれを後日見せて思いっきり笑ってやろう、と。




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