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十八話

虫がえらく多い。


これはきっと暗闇で見えないが酷く肌がやられていることだろう。


夏といえば虫さされだが流石に森の中で集中砲火を喰らうなどというのは


許容範囲を超えている。


いろんなことがありすぎて気づいてはいなかったのだが、周りの虫の飛び交う羽音が


けたたましくまたひっきりなしに耳元で奏でていた。


俺がうっとうしく思うのもそうだが、なによりまかりにも女子の柔肌にこれ以上の


ふっくらとした赤いレーズンを付け足すわけにはいかないのが


紳士たるうえで当然のことでありよっていまだにこっちの気も知らず


ぐーすかといびきをかく小林をおんぶし、そして出口へ向かった。


寝ているためか非常に熱い体温が伝わってくる気がする。


いや、これは本当は自分の体温なのだろうか。


この胸の高鳴りははたして暗闇による緊張感の者なのかはたまた。


外に出てみるともう人は霧散していて、稲村がうまいことやったのだろうと推測。


しかし人混みは相も変わらずすごいものであり、また先ほどまでの静寂との


ギャップに俺は心底辟易とした。


通りすがりの男のスマホを見れば現在時刻は夜の七時。


なんだか時間の感覚がおかしくなったようで、もうすっかり九時くらいなのかと思っていた。


そらくらいまでに精神が疲弊しているのだろうと内心で自虐。


やれやれ、しかしいくら男よりは軽いといっても人間重いのには変わりはなく


俺の足腰をひくひくとおいやってくれるではないか。


もう自然と足運ぶ先にはベンチがあるところを求めていた。


祭りの中心部に近くなれば近くなるほど出店がひしめくことから休憩スペースといったもの


は見られないが入り口近くへ行くと人や店の数もまばらになるということもあり

結構の数のベンチも設置されている。


そこへ目指すために帰宅部の貧弱たる足腰を使役させる。


無機質に汗が肌を伝う。


とても機械的な仕草。


右足を前に、次には左足を前に。


ただそれだけの単純作業。


それにより段々と意識が内面に向けられていくことで


俺は改めて今の今までで怒ったことを脳内で整理することにした。


酔っていたんだろうが何だろうがまかりなりにも女子に初めて告白された。


小林にはつれない態度ばかり取っていたという印象があったのだが


どうしてどうしてこんなことになったのだろうか。


小学生や中学生の頃に俺は第二次成長期に入り、女子への目は自然と卑猥なものに変わって


いった。


そんななかまだ宗助は精通すらしてないようで小学六年生の頃は俺が必死に女子というもの


の貴重さに気づきそれを欲さんとしていたことに対し大分やじった。


いやいじりたおしたといったほうがいいかもしれない。


だがそれもこれもすべてそんなに必死になってさえも女子は一人も俺に目をかけてくれな


かったという結果に基づくもので、そうして俺は女子のことを性的消費のための


何かと思うようになっていて、自然とスケベ心というよりかは女子に対して


の忌避感が生まれていたのかもしれない。


それが今につながっているとは毛ほども思ってはいないが、今の自分に


普通の恋愛を女子としてみろと言われても何をすればいいのかがまずわからないというのは


童貞であることからの自信のなさの表れともいえるし、またそれともかかわっているのかも


しれない。


どちらにせよそんなモテなかった俺が急に前から目をつけていた美少女に告白されるなんて


どうしたことだろう。


背中にいるぬくもりを持った物体は確かに聞き間違いがなく二度も三度も繰り返して


愛の言葉を俺に投げかけたはずである。


また当然のように時は通り過ぎていくが確かに唇も重ねあった。


どうしてこんな俺と?


そこまでして同じ太鼓ゲーマーの仲間が欲しかったのだろうか。


いや違う。


間違いなく結果としてあの初めて本性を残した小林の電話の言葉を借りるならば


俺はまさしく彼女にとってATMでしかなかったはずだ。


いや、そうなのだ。


事実、俺と小林が釣り合うものなんて何一つない。


ゲーマーが好かれるなんてなろうの主人公でもないんだからありえやしない。


そうだ、思い返してみればすべて、すべて、勢い任せのまやかしによる代物なのかもしれない。


あのキスだって不良がいなければ、そしてお祭りの高揚感醸す雰囲気がなければ


どうだっただろう。


さっきなんてまさにそれだ。


酒の勢いに便乗してそれに身を任せていってみたにすぎないかもしれないではないか。


本当の小林、つまり素の小林からの言葉でも行動でもないのにどうしてどうして


ここまで俺は一人勝手に盛り上がっていたのだろうか。


悲しきピエロは一体全体誰ということなのだろうか。


ここで素面の状態での知り合いの田中誠一という男の評価を思い出してみる。


宗助曰く、「勉強も普通、運動神経はむしろ悪い方。諦めは早いし、


我慢ができない根性なしで


顔面偏差値も49程度。それでも彼女を持ちたいというんだからほんと


ダメ人間さながら」


前橋曰く、「ちょっとマゾっぽいから適度にいじってかまってあげれば


すぐに落ちそうな感じ!」


豊田曰く、「お前も子供だなぁ。もう高校生なんだからそんなことくらいで


すねるなよ」


稲村曰く「あんたってほんと根暗で陰キャでくずでゴミね。


よくもまああの豊田君と友達でいられるものだわ」


そして本当の素面の小林曰く、「いやーあいつ本当にカモでさー。


少し優しくしたらデレっとして、もうバターみたいな男だわ!」


だったな・・・・


俺に対して皆まともなことを言ってくれていないことを思い出す。


スペックも大したことのないうえ、実績もまともにない。


陰キャでしかも度量も小さくかまってもらえばすぐにころっといってしまうような


精神性。


そうだ、俺はバター・・・


しがないバターにすぎないんだ・・・


こんなにもズタボロにいわれんとする男子高校生はそうまで見かけやしないだろう。


それも冗談の口調でいわれたのではなし、これは本当に等身大で俺自身を観察しての


論評だ。


後ろに感ぜられるぬくもりはいつか偽りの者へと化していくだろう。


そう遠くないうちに。


ならばこれ以上こんなぬるま湯に浸ったままでいて余計に湯冷めするよりは


これ以上もうこんなまやかしから抜け出したほうがいいに決まっている。


そもそも俺の心はいまだに前橋のような巨乳の女に心が惹かれているが故、


小林にそんな愛の言葉をささやかれど本心をもって答えるに能わない


身の性分なのだ。


資格もなし、またスペックもなし。


いやはやノリというものはすごいものだ。


こんなダメ人間でも女の子、それも飛び切り可愛いのに告白されてしまうなんてことが


転がり込むもんだから。


確かにこんなネガティブなことを考えているこの間でも足の刻みようは祭りばやしの


リズムに沿っていることだし。


さてさて確かに確かに、俺には小林のような立派な女の子に相応しない


輩ということがはっきりしたうえ、もうこれからなすべきことは明確だ。


こんなしょうもない身分であろうと確かに信頼に置けると思われそして


そのような言葉を吐かれたものだからこの祭りの期間のみは


先刻のナンパ男らの手に引っかからせないように守らなければならない。


愛される資格はなくとも守ることならできる。


これはもう義務と化している。


地面のジャリで靴の厚底部分が夜の暗さとマッチしていた頃合い


もう二メートルの先にベンチが見えてきた。


丁度まるごと一つ空いていたことからこれを好機とばかりに


急いで足を動かし、転がり込む。


するとようやくにしてこの二転三転とした出来事もあった騒がしき会場で


落ち着ける場所が手に入った。


そんな安心感、そしてベンチが丁度二人座り込むのがやっとのスペースしかなく


密接に重なり合うことで伝わる小林のぬくもりから


俺の瞼は次第に重く、今や古し商店街のシャッターのように自然と

下へと落ちていった。









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