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第十六話

極度の緊張に達したときにカエルは胃を吐き出すというが


この俺、田中誠一の場合においてはうんこをひねりだしていた。


とにかくずっとトイレの個室にこもっていれば難を逸すること間違いなしと思って


混雑の無理やりは言ったはいいが、かき氷の影響からだろうか、


お腹が緩くなるという事態に陥り、また後続がつかえているため


脱糞音が外に漏れてなおそれ以上の滞在は


おそらくトイレの花子さんさながら疑問を唱えんと扉をガンガンガンと


叩かれること間違いなしであるが故、ひたすら我慢して


尻の穴からひねりでんこと遅しことこの上ない輩という役を


演ずるのが特撮なのだが、はたして俺の尻の穴が小さいことよ!


我慢できずに結局便器の上でその特大のブツをぶちかまし


その際の破裂音を便所内に響かせた。


くすくすと外からの声。


逃げる目的は失うは辱めは受けるはもうこのまま便所の中にもぐって死にたいくらいだった。


くそまみれの死亡なんぞ超ド級の変態くらいしか望むことはできずしてまた


俺はごく普通の小市民であったが故、便所の個室を出る際に


大きく、また大きくお尻をさすりながら出て周りの者から


奇異や憐れみ、嘲りの目で見られながらも手をふき、そして泣く泣く


立ち去った。


それでこんな野ざらしの場所にたたずめば決死の覚悟で


暴走した小林と対峙することと等しいわけであり、またもうさっそくこちらから見て


おおよそ二百メートル先に頭を動かしきょろきょろとあたりを見渡すヤツがいたわけで


それは視認性でも確認できるというわけで



ひとまず人混みの中とは言え、人と人の間には隙間が空くことと


月の光により自分の位置が煌々と照らされている場所に立つのは


あまりよろしくない。


よって灯台下暗しと言わんばかりにさっき小林や俺が突如として抜け出した


宗助や前橋らがいたところに向かった。


まだ幾分しかたっていないせいか、そこにはわが友の姿があった。


「宗助!」


しかし呼びかけても反応がない。


いったいどうしたというのだろうか。


やつは膝立ちになってぼんやりとその姿勢を保っている。


周りには誰もいない。


俺はそろりそろりとやつに近づきながら話しかける。


「おい、宗助。どうかしたのか?」


そもそも本当に宗助なのか。


この暗闇の中まさか違う狂人を相手にしているのかという仮説も俺の中で少しは浮上


していたのだが、くるりと俺の言葉に反応して


「おお、誠一。どうかしたか」


といつも通りの間抜け面を披露してくれたことからそれも払しょくされることとなった。


だがどこかいつもの宗助とは様子がおかしい。


なにかあったのだろうか。


後ろを振り返っても誰もいる気配がない。


俺はその豹変した理由を聞いてみることにした。


「なあ、もしかして前橋に告白してこっぴどくふられたりしたのか?」


まず俺の高性能の脳内にして最大限に絞り切った答えを提示してみる。


だがその返事はつれないものだった。


「いや、べつに」


「じゃあなにがあったんだ?もしかして暴力でも掛けられてショックを受けたとか?」


「いや、違う」


「小林に何かひどいことをいわれただとか?」


「・・・・ふふっ」


そこでなぜ笑うのか。


俺はまったくもって不可解なことこの上なかった。


よくよく見てみればやつは俺のほうを見ているようで、股間付近に手で構えている


スマホを見ていた。


「スマホなんかで何見てんだよ。おいこら」


ぺちんと頭をはたく。


本当に蚊も殺せないほどの勢いで。


が、その刹那、とんでもない威力のこぶしが俺の脇腹にして降りかかってきた。


はたしてみればとんでもない形相をした宗助がまさに殴り終わった姿勢を


取っているではないか。


じんじんとその痛みは時間がたつとともに深みを増していき、かつ波紋のように


全身に倦怠感を広げさせてくる。


いつしか宗助はその面に怒気を発しながら立ち上がっていて、俺はうずくまる形という


なんとも立場が一転攻勢していた。


「ふふ、ふふふふふふふ」


すると宗助は突然その手に持っていたスマホを俺に投げかけてきた。


画面はロックオンされていないもうとっくに解除されている状態で


何が表示されるかと思えば、である・・・


「ああ、そうだよ。驚いただろう?俺も驚いたよ。まさか・・・まさかお前が


女子とキスしているところをSNSで万バズしてるだなんてなあああ!


ううおおおおおおおおおお!」


画面に表示されていたのはトイッターというSNSにて俺と小林が抱き合って


キスをしている画像が二万いいね、五百リツイートされているものだった。


俺としてもこんな予期しないネット上のバズリには驚愕もしたが


それよりも宗助のその嫉妬に狂った暴れっぷりのほうに注意がむいた。


「くそがあああああああああ!」


さながら発狂した猿である。


イナバウアーのような形をとり、これほどまでに髪の毛が逆立つという表現が


にあうものもなかった。


やれやれ、小林と言い、どうしてこう俺の周りには気狂いが集まるのか。


俺はそっとその場を逃げ出そうとするもその速さ


かのウサインボルト氏を想起させかねんほどの馬力を放ち、また肩をひっつかまれ


拘束される。


「なあ、答えてくれ。俺は必死に努力をして女の子といろんなこと、そうしいては


エッチなことだな!ドエロイことだ!しようと頑張った!


デートなんて二の次だ!とにかくあの前橋のデカパイさえもめればよかったんだ。


そのためにたくさんのお金を消費した。


前橋があれが欲しいといえば買ってやり、あのゲームがやりたいといえば


すぐさま百円を投入。足をもめといわれれば喜んでその


少し生臭い泥水のようなにおいがした足でも直で手でもんだ。


泥で洗顔しろと言われれば喜んで浴びたし、草を食えと言われれば牛のようにむさぼった。


靴をなめろと言われれば喜んでした。


全て、全て、前橋の乳をもんだり、ドエロイことをするためだ。


辛苦を飲んださ、時には死にたくもなった。


そんなつらい思いをしてなお俺はまだ彼女の手すら触れていないんだ。


今だってもうとっくに前橋はとっくに俺を置き去りにしてとっとと去っていたんだ。


わかるか?この俺の気持ちが。


加えてお前はどうだ。


最近豊田とかいうくそデブとつるむようになってまあ男同士で無様に


遊び惚け女なんて知らんなんてフリをかましやがってよ!


どうしてどうしてお前がそこまで女に対して俺みたいに熱心でないことも知ってたから


そのフリが本物であることは疑わない。


だからこのキッスは偶然の代物であることがわかる!


なので俺はこれからお前を絞め殺す!」


中盤あたりから何を言っているのか全く分からずじまいであり、


またずっとこんな森の中にいたせいか草と泥の


まじりあったようなえぐみのある匂いが絶えず漂ってくるし


あと興奮して口の中が乾燥しているのか、その口臭というものももはや


人間が発するべきものではないというものと化していたことから


耳に対する脳の労働の使役がホワイトなるものであり


注意力が散漫になったのにもかかわらず


やはり人間いのちの危機にかかわることには反応せざる負えないというものであり


最後の勢いをもって言われた一言に対しては十分に聞きとることができた。


これはやばいと思い、すぐさま逃げの体勢をとらねばなんていう願いは


かなわずして、というのも俺の体は一体全体もうすでに宗助の手の内にあるのだ。


だがさすがに女子に関する嫉妬がゆえに友達を殺すなどということはないだろうと思い


高をくくっていた。


「うおああああああ!!」


絶叫。迫真である。


恐怖をあおらせるための一種の演出、そして殺すというのもそれと思えば怖くはなかった。


そういのちの危機に接していない限り何事も怖くはない・・・そう、怖くはなかった。


それはもう力任せに俺の喉を拘束せんと、いやそのほうがまだましだったのかもしれない。


腕力で俺の首をかの大化の改新の蘇我氏のようにふっとばさんとする勢いだった。


「っっっ!?!?」


流石の俺も動転した。


冗談だと思ったのだ。


腐っても旧友、幼馴染であるが故、たかが女子のことで俺に先越されたくらいで


怒りに身を任せ友を粉砕するなどありえない、と。


だがそれは間違いだった。


もう全くしてこいつは俺のことを親の仇そのもの、あるいはそれ以上の憎しみの対象


としてとしか見ていないということがこの怒りに身を任せた暴力の質によって


わかった。


本当に危機に瀕したときは目がちかちかするものなのだなと、改めて他人事のように


創作の表現技法のことを吾知れず思っていた。


そんな無垢な精神からだろうか。


俺の本能による動き、まさに動物的防御姿勢により


前進という全身が汗にまみれ、俺に生をつかませんとし


俺の手を暴れ猿の金玉を着地地点として


またそれに触れたとたん万力の握力でそれを握りつぶした。


「うあっ!?」


やつは一瞬動揺したが、それもほんのわずかな出来事。


すぐさま俺の首を絞める行為に集中した。


もうやつは人間ではない。


そもそも喉がしめられているので話し合いすらできない。


ならば暴力に頼りしかない、のだがさすがに男なら誰しも同情するであろう攻撃方法を


使うことを忍びなく思う。


まだしてもこんな情が沸くということはまだまだ俺も余裕があるという証拠だと


一人笑っているとするすると金的をつかむ手が自然とほどける。


・・・ぬ?


これは・・・どうしたことか。


まさか気を失う直前さながら体の力が抜けているというのか。


なんとまあ情けのないことだ、相手は柔道部の豊田でもないのに。


やれやれ、こんなところで死ぬとは・・・


そうして俺は自分の最期を悟った。


そのとたんだった。


ばちぃ!!


ものすごい音が後ろからした。


「っっっ!?!?」


声もあげれずに宗助は倒れた。


俺はというと無傷。


一体どうしてどうしてここにいるのか。


果たして振り向いた先にいたのはスタンガンを手に持った小林だった。






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