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第十五話

「なぁサディスト少女」


「なぁに、セクハラ男」


「ひとまず宙ぶらりん状態にするのはやめにしないか」


「なんでよ」


「いくら暗闇で周りはこちらを見れないとはいえ、流石に大きな物体が宙に浮かんでいる


状態とあればまた注目されるぞ。


”また”、な」


「うるさい、強調すんな。わかったわよ、チョークがお望みというのならば」


そう言っておもむろに俺の首周りに腕を回し、そして平然と締めようとしてくるのには


さすがに驚いた。


そんなに俺をいじめたいか、と。


そして俺の首にここだけはご立派に柔らかい少女の柔肌であるが故、ぷにっと


女子高生のもっちりとした感触がした。


加えて密接状態なのでふわりといい香りも舞い込んでくる。


が、そう幸福な時間はそう多くは続かず、かすかなそんなかすかな至福のひと時を過ごして


いた幾秒後、息をするのもままならないほどに首に強い圧力。


それは食道を封鎖しか年と思えるほどに絶大な力であり一瞬意識がもうろうとした。


それにしてもなんて力だ。


苦痛に身もだえる俺を見てくつくつと愉快気に笑う魔女の声がしてくる。


「ふふふ、痛いでしょう、痛いでしょう。存分に味わいなさい」


悪魔か。


とつい俺の心の中の関西人が目覚めてしまい、突っ込みの仕草、つまり返し手を相手に


当てんとしてみると、その俺の手の着地点は奇遇にも小林の胸部


つまりはおっぱいにあたってしまった。


本当に出来心などなにもない偶然のスケベ的仕草は結果として声を発せる状態までに


俺を至らしめんという風に良きに働いた。


小林は瞬時に俺から離れ、自分の胸を抱えるようにして俺をにらみつける。


「こ、このっ!変態!最初からそういう狙いだったんでしょ!」


まだ喉が締め付けられた感触が残っている。


やれやれ、今すぐにでもシップを張りたいような気分だ。


「ねえ!何とぼけたようなふりしてんのよ!このスケベ!」


「はいはい、スケベですよ」


もうなんか相手にするのも馬鹿らしくなってきたので適当に返す。


「ふ、ふん!そんなカマトトぶっちゃって!童貞のくせに!」


これには俺も反応せざるを得なかった。


「悪口を言っていいのは、悪口を言われる覚悟のある奴だけだ!そこのところ、わかってるな?」


「・・・中二病?突然なによアニメの物まね?」


「ふん、まぁいい。だがないわせてもらうことが二つある、


まず一つ、最初に身体的接触をしてきたのは小林、お前だ。


胸を触るどころじゃない後ろから全身をハグだからな。


今の時代女が男にセクハラというものもあるそうだし、それにあたるかもしれない」


「私の胸を触る方がよっぽど犯罪的よ!あんたの体なんて誰が触りたいのよ!」


「そして二つ目!」


「無視すんな!」


「お前は俺が童貞というがお前だって処女だ。そこのところ、もう三度目になるが


まだカウンターを食らいたいのか?」


ふっ、いってやったぜ。


やれやれ、これだからヒステリーは困る。


しかしなにやら小林の顔はにやけてるようであった。


そのふやけた口を開けば


「ぷぷ、あっはっはっは!」


と笑うではないか。いったい何があったというのか。


そこで俺は閃く。


「なんだ、追い詰められて頭がおかしくなったのか」


「いや、違うわ。全然違う」


「・・・ではどうして急に笑ったりするんだ」


「だって、だって・・・ほら自分の股間を確かめてみなさいよ」


む、自分の股間?


どれどれ・・・・っっ!?!


こ、これは!不覚!


俺は咄嗟に隠すもそれははたして無駄でありかつ小林の調子を乗らせる火種となるようであった。


「あっはっは!勃起しながら言われても全然心に響かないわ!


あっはっは!やっぱり童貞は童貞ね!」


・・・く、くそう。


流石にもう余裕を持ったアニメごっこはできない。


だがこのまま引き下がるのはなんとも情けない。


のでもう無様でもいいから何か言い返してやろう。


そう思って俺はでたらめ嘘八百の策略を脳内で練る。


そしてでまかせにのたばる。


「ふん、なーにが。自分だって勃起してるくせになぁ?」


「・・・え?はっはっは!もしかして私にもペニスがついてると思ってんの?


馬鹿じゃないの?童貞なの?女にはちんちんはついてませーん!」


「ふん、そんなことをいったんじゃない。そのお前のぶら下がってる脂肪についてる


乳輪のこと言ってんだよ」


「・・・え?」


よし、食いついた。


「ふん、そこも性的に興奮すれば勃起するんだよ、知らなかったのか?」


「え、そうなの・・・?


・・・ってなんであんたが今の私の乳首の状態がわかるのよ!


私ブラ付けてるのに!」


し、しまった。


だがここはまだ相手も動揺している話題であるが故勝機はある。


俺ははたまたでたらめを口にした。


「男ってもんは大体ブラの上からでも乳首の様子はわかるってもんだ。


さっきちょっとかすっただけでもありゃあ最大限に勃起してたなぁ・・・


俺にはわかるし、もちろん男性諸君はことごとく全員わかる」


「・・・うそ。うそよ!」


途端に取り乱す小林。これは勝機あり!


「いいや、うそじゃない!お前、普段アダルトビデオはみるか?」


「み、見るわけないじゃない!この変態!」


「そこだ。そこなんだよ。知識がないんだ。


大体アダルトビデオの冒頭ではブラの上から女優が男優に乳首が勃起してるかどうか


確かめる前置きがあるんだ」


「そ、そんなにしったこっちゃないわよ!」


「そう、事実あるんだ!そこでお前はきっちりアダルトビデオの女優さながらの


乳首の勃起を見せた!これは立派に変態なんだよ!」


「っっっっ~~~~!?!?!」


悔しいのか怒っているのか、はたまた恥ずかしいのかいろいろな感情が入り混じったようだが


とにかく小林は顔をしわくちゃにさせ顔も真っ赤に、混乱状態に陥っていた。


胸をより強く胸に巻き付け、またじりじりと俺のもとから距離を置いた。


そして悔し紛れの一言と言わんばかりにとぎれとぎれにこういった。


「そ、そんな知識、ひ、ひけらかしたって!じ、自分が、へ、変態だって


い、いってるもんじゃない!」


「ああ、男はみんな変態だもの。別にそれはしょうがない。


一種の生理現象だ」


「んなっ!?」


まぁ童貞煽りをされるのは本当に屈辱的だが。


・・・ああ、思い出してきただけでなんだか腹が立ってきたから追い打ちをかけることとする。


「んまあ、乳首の件をなしにしてもいきなりディープキスをかましてくる変態に


童貞だの変態などいわれてもなんも心に響かないけどな」


「・・・」


「ん、どうした?急に黙っちゃって。あ、そうそうアイスクリーム食いたいって言ってたな。


買ってこようか?」


「・・・」


・・・さすがにやりすぎてしまったか。


そう思って今度は煽り口調ではないようにして声をかけ、また近づいてみる。


「な、なぁ。おーい。大丈夫かー?」


「触んな!しねっ!」

それはもう花火の爆音さながら。


その目力ときたらたまらなかった。


まるで親の仇のように俺を見つめる目。


そんなにして怒らなくてもいいのに。


どすどすと足を踏み鳴らし、小林はそんなぽかんとあっけにとられた俺を残して


去っていった。


なんだか台風が去っていったようで心地が良かった。


急にキスしてみたり、怒ってみたり、地団駄踏んでみたりといろんな意味であいつは


自由すぎる。


少しぐらい俺にも自由にさせてほしいものだ。


見た目はいいんだからほんのちょっとだけおとなしかったらなと


気づけば俺は小林のことばかり考えていた。


なんだか忘れていることがあるようなとつっかかるような・・・あっ!


そういえばそろそろ時間ではないか。


宗助の降られるざまを見に行かねば!


場所は近いはずなので俺は慌てて走ると、偶然そこらの地べたで一緒にしゃがみこんでいる


豊田と稲村がいた。


豊田は鼻の舌を伸ばしてスケベ心満載の顔で、稲村はにやにやと恋バナを楽しむ女子の


ように各々違う感情で俺を見てくるや否や


急いでる身分にもかかわらずぐいっとその柔道家の腕により引き止められ


「おいおい!やるなぁ!あんな人前でキッスだなんてよぉ!」


「ええ、なになに!二人って付き合ってたの!?そうは見えなかったー!」


とやたらハイテンションで来られるものだから困る。


「ああ、今俺急いでるから後にしてくれ」


そういうも


「ああ、逃げんなよ。で、どういうきっかけであんな人前でキスすることになったんだ?」


「私も聞きたーい」


とさりげなく腕を組んでいちゃつくカップル。


もう見てられんかった。


「おい、まじで、今、俺、急いでるから」


まるで幼稚園児に話すようにスローでいうとようやくぼけたカップルどもは理解したようで


「ああ、そういえば小林もあっちの方に行ってたな。なんだ追いに行くのか?」


「ええースッテキー!一瞬たりとも一緒にいない時間を作りたくないなんてー!


でもたぶんあっちの方向トイレだから言っても意味ないと思うけどー」


なるほど、小林もあちらに向かってるとなれば少し注意して動かなくてはならないな。


きれているあいつなら突然俺に鉢合わせたとなれば襲い掛からんともいえない。


「なるほど、ありがとう。でもいってくるよ」


「ふー!ラブラブぅー!」


「気を付けていって来いよー!」


「ああ」


全く、根はいいやつらである。


俺は急いでる身ではあったがやつらに手を振るような余裕はあったようで


走りながらも後ろ手でコミュニケーションをとった。


そろそろトイレが近づいてくるという頃合いにまたすれ違うものがいた。


「あ、おにいちゃん」


それははたしてりんちゃんであった。


隣にはたっくん改め、小学生にして彼女餅というけしからんマセガキもいた。


「おう、今急いでるから!じゃあな!」


「うん、ばいばーい!」


無邪気に手を振ってくる。


ああ、なんていい子だろうか。


ああいう無垢な精神が小林にも必要だ。


さて、目的地付近についたはいいが、周りに小林がいないかどうかだけを確認。


そしていないことを確認して、いざトイレの裏の林の茂みへ!


するとはたして先客がそこにはもういたようであり、なにやらもめ事が起きているようだった。


俺は息をのみながらその様子を眺める。


そこには四人の男女がいた。


一人は地べたにしりもちをついている宗助。


二人目は前橋、とその腰巾着である前田とかいうギャル。


最後にはイレギュラー分子、その名も小林夏美・・・


ってなんでここにいるんだ!?!


俺の困惑は伝播してか知らず、俄然として宗助や前橋らにも胸中にあったようで


「あんた、なによ急に!これじゃあ計画がおじゃんじゃない!」


とヒステリックに叫ぶ前橋。


手にはスタンガン。


本当に持ってきていたのかと思わず愕然とする。


「ふん、これくらいの計画だったって事よ」


「だからってそんな陰キャなんであんたが助ける義理があるわけ?」


と前田。


「いや、陰キャて・・・」


宗助はまだ状況がつかめていないらしくぽかんとその尻を地べたにつけたままの状態でいた。


なるほど、推察するに前橋がスタンガンで宗助を一発落とそうとしたところに


小林が来て宗助を助けたというわけか。


なかなかにして不思議な構図である。


どうしてそんなことをするのか、前橋じゃないが俺も不思議に思う。


すると小林はその答えを口にした。


「まぁ大事な人の友人だからね」


と。


宗助と小林の間に知らないつながりがあるとは俺もいざ知らず


思わず一人感心してしまった。


「こ、小林ぃ・・・」


と状況もわかっていないのになぜか感慨に満ちたように声を発する宗助。


雰囲気にのまれてるな、こいつ・・・


そんなくっさいくっさい友情演出にはさすがの前橋も我慢がならなかったようで


「だからって私を敵に回す気!?ふざけんな!」


それは前に校内で聞いた前橋の本性でありかつその怒りの仕草をあらわにして


より怖さが累乗されていたため恐ろしいことこの上なかった。


これには宗助も落胆するかと思えば


「ああ、素敵」


ともうすでに手遅れさながら前橋の信者状態となっていた。


やつのことはもうどうでもいいかもしれない。


そう思ってもう集中を当てないことにする。


小林はそんな恐ろしき少女相手にもひるまずに平然と言った。


「まぁ、邪魔したいわけじゃなかったし、あとこんな陰キャ助けるためだけにあんたとの仲


をとだえたくもない。そんなことは私も当然思ってるわ」


「じゃあ何をしたいってのよ」


「・・・今ね、私すごい怒ってるの。それはもうあんたの怒りの百倍くらいね。


だからさ、ちょっとあんたに頼みたいことがあってきたの」


「・・・なによ」


「そのスタンガン、頂戴?」


「・・・え、なんでよ」


そう疑問を発した直後、とてつもない瘴気が小林を中心として円状に巻き起こった。


「・・・ちょ、う、だ、い?」


見守るだけで思わずどっと汗が吹きdルクラ委の迫力だった。


陽キャの女王前橋でさえも


「・・・あげるわ」


とすごすごとその手にもつスタンガンを譲渡するほどに。


「ん、ありがと」


そういうやいなやそのオーラは解かれ、またほほ笑む様子は変わりないように思えた。


「じゃあ埋め合わせするからね。ばいばーい」


と言って去ろうとし、小林はこちらへ向かってくる様子なので


俺はまずいと思って逃げようとした途端


「あっ、誠一!なんでこんなところにいるんだよ!」


とタイミング悪く注意をそらしていた第四の人物、宗助がいらないことをいうではないか。


これには思わず肝を冷やした。


小林は一瞬立ち止まり、宗助のほうへ振り返った。


その一瞬の隙にして俺は逃げに徹した。


なぜスタンガンを手にしたのか。


それはもちろんこの俺に向けるものであるはずであり、また


そのターゲットである俺が今小林に見つかればどうなるのか、


そんなことは考えるまでもなかった。


のでそのとっさの判断は正解ということになる。


俺は機転の利いた行動でそのショートランの目的地を近場の男子トイレへと


決め、その入り口に入った途端、恐ろしくもはやいかまいたちのような人間の


姿が見えたからだ。


それははたして小林以外の何物でもなかった。








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