表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/29

第十一話

「悪いことは言わないからさ、五千円ほどおごってくれたらうれしい」


「ゆすりは悪いことではないのか?」


「おごり、だからね。セーフセーフ」


「俺は了承してないんだが」


結局この人混みでまともに走れなかったことから俺は小林にあっという間に追いつかれ


後ろに付きまとわれていた。


もう小林は自分の本性を隠さないというスタンスを決め込んでいたようで


ずけずけと後ろからついてきて物申してくる様子はうっとうしくも


本来の彼女を見れた感じもして胸のもやもやがつっかえたような


気がしなくもなかった。


「で、結局おごってくれんの?おごってくれないの?


どっちなーんだい?」


「いや、おごらねえよ」


「えーケチだなぁ。私を置き去りにしていった罰としてこれくらいは甘んじて受け入れてよ」


なるほど、そういう建前があったか。


しかしそれを封じる手立てを俺はもう持っている。


「あーそれなんだがな。俺は一ミリも悪いと思っていない」


「わーひっどい男。だからもてないんだよ」


「いやそういう意味じゃなくて」


「じゃあどういう意味さ」


「お前のその電話を聞いてしまってな。あとはもうわかるだろ?」


少し俺にも罪悪感というものはあった。


いくら小林がくそな性格の悪女だとしても俺のやっていることは盗み聞きを


したと開き直っていることと相違ないからだ。


突然影の自分を指摘されたとして、俺の場合はどきっとしてしばらく


立ちすくみじわじわと背中から汗が染み出てくるものだから


一応女の子のみである小林には少し悪いことをしたなと思っていたが


「あーばれちゃったかー。まー女子なんて皆あんなもんよ。気にしない気にしない」


全くへこたれないどころか開き直ってる始末である。


「こんな美少女と一緒に祭りを散策するってんだからそれでいいじゃない。


性格の悪さなんて屁でもないわよ」


といいながら俺の腕を組んでくる小林。


ふわりとかおる女史の匂い、そして柔肌の感触。


思わず俺はうっ、とめまいが起きそうになった。


「あれあれ~?もしかして照れてるのかな~?」


くそ、悪魔め。


だがしかし俺はこんな奴の手には乗らないのである。


あんな陰で酷いことをいっていたという実績がある以上、そんなちょっとやそっとのことで


意見を変えてしまうほど俺も甘くはない。


「ふん、照れてない。熱いから離れろ」


と言って俺は小林を引き離す。


「えー、なんでぇ。強情なやつー。だから童貞なんだよ」


「ふん、お前だって処女だろ!」


俺はすぐに言ってしまったことを後悔した。


この人混みの中、この発言はまずい。


そのせいか周りの人はじろじろと俺たちのことを見まわしてきて、中にはくすくすと


笑うものもいた。


流石にこれには効いたようでげんこつ一発を背中にお見舞いされた。


「なんてこというのよ!この馬鹿!」



女子とは思えないほどの馬力をもつその拳骨は重く、そして痛かったが


これで俺から離れてくれるというのなら万々歳・・・だったのだが


「なぜまだついてくる」


ぷんぷんと腕を組んでふんぞり返りながらも小林は俺の後ろについてきていた。


「なんでって、この暴言は高くつくわよ。慰謝料としてなんかおごりなさいよ」


「お前だって俺のことを散々ATMなどいったじゃないか。お互い様だ」


「男子のそれと女子のそれとは違うのよ!あんたみたいな鈍感で無神経な輩とは


違うのよ!」


いやもうそれ悪口なんだが。


自分はよくて他人はいい、か。


典型的なジャイアニズム、自己中心主義。


あきれを通り越して笑いまで出てくる。


「何笑ってんのよ。ごまかそうたって無駄なんだからね」


何をごまかそうというのか。


やれやれ、これが女尊男卑、か。


だがまぁうん・・・まだ不細工じゃないからマシな方ではある。


レイシストさながらだった俺は情けなくも結局人形焼きを


小林に与えてやるのだった。


「うん!おいしい!」


「ふん、現金主義だな」


おごるとなった途端に機嫌がよくなって、またもぐもぐとそれを俺の取り分をまるで


残さないといった風にしてほおばりつつ、またこの瞬間においてはその美少女姿を


面目にしてありありと体現するのだった。


所せましと祭りの会場はどこも空いていなかったが、森の薄暗いところまで行くと


なかなかにして快適な毛虫があたり一面にひろがるスペースが広がっていることなので


こっそりと小林には伝えず二人でこうして近距離でほかには


誰もいない暗闇の中でもしゃもしゃと人形焼きにくらいついていた。


俺も毛虫には当たりたくなかったのでしょうがなくくっついているわけなのだが


やはりこうしてまじまじと小林のことを見てみると


「まあお前も黙ってたらこうしてほんとにかわいく見えるのにな。損なやつだ」


とついぽろりと口に出してしまっていた。


またふんぞり返って自画自賛するのかなと思っていたら、何も言わずに


ふいと俺とは真逆の方向を向いてしまった。


人形焼きを食っていて何も言わないのかなと思っていたらもうその


袋の中身は空であり、かつ小林の口には何も入っていないようだった。


もしかして毛虫のことに気づいたのだろうか。


だとしたらちょっとこれは怒る前兆のようで怖い気もする。


しかしどうしてしゃべらないのだろうか。


「おーい、なんで黙るんだよ」


「うるさい!話しかけんな」


「ん、お前なんか耳赤いじゃないか。体調でも悪いのか?」


「うるさいっていってんでしょ!ちょっと黙ってよ!」


「あ、おいまてよ!」


そっけない態度を取ってみたり、はたまた突然怒り狂ってみたり


わからんやつだ。


「なんだそんなに毛虫がいやだったのか」


提灯がぶら下がっていて明りに満ちた祭り会場に戻ってそう聞いてみると



見るや青ざめた顔をして


「は!?え、あんた今なんて・・・」


「いやだから、あそこ毛虫がたくさんいただろう?それで気分が悪くなったのかって・・・」


「うぎゃああああああ!!!???今更なんてこと言うのよ!ちょっと!ちょっと!


背中についてないでしょうね!?見てよ!すぐに確認してよ!!」


と突然小林はわめきだした。


人がたくさんいるというのに恥ずかしいったらありゃしない。


「わかった、わかったから落ち着け!見たところついてないぞ」


「ほんと!?ほんと!?嘘だったら承知しないわよ」


「嘘なんかつかねえよ。まあその分じゃ元気そうだな、やれやれ」


「なにがやれやれ、よ。こっちのセリフよ」


「で、なんでさっきは気分が悪そうだったんだ?」


「・・・」


「おい、無視すんなよ」


「うるさいっ!暗闇が嫌いなだけよ!ばか!」


また怒って行ってしまった。


やれやれ、わからんやつだ。


まあそのままずっと俺のもとから去ってくれたらいいのだが


「なんでついてこないのよ!もう!」


と言ってまたしてもぷんすかと怒りながら引き返してくる始末。


何がしたんだ、こいつは・・・


「で、次は何をおごってくれんの?」


「なんでおごる前提なんだよ」


「いいじゃない、どうせ暇なんでしょ」


「いや、暇じゃないな。現在進行形で俺は二つの懸案事項を持っている」


「なによ気色の悪いいい方しちゃって。なんだってのよ」


「気色の悪いって・・・お前ほんとに口悪いな」


「いやだから女子ってみんなこんなもんだって。童貞にはわからないだろうけど」


「ふん、また言い返されたいらしいな」


「うるさいっ!調子乗んな!」


蹴りをいれられた。


その痛さで俺の全ヒットポイントの十分の一は削られた。


「おい、だからそうやってすぐ暴力ふるうなって。よくないってそういうの」


「で、懸案事項ってなによ」


ったく、すぐに矛先をずらしやがる・・・


もう対応するのもめんどくさかったので話を進めることにした。


「あー豊田ってやつが今憎くも俺よりも先に女とデートしているみたいでな。


それをスケープゴートしてやつがへまをしたら陰でひっそりと笑ってやろうっていう


事案と」


「あんたそれでよく私のことを散々性格悪いって言えたわね。


むしろタチの悪さならあんたの方がひどいじゃない」


「二つ目」


「無視すんな」


「刈米宗助って知ってるか?やつが前橋あかねにおびき寄せられて金をだまし取られる


予定があってな。それを鑑賞しに行く」


「あー、前橋ね。それ知ってるわ。結構有名な話ね。私もそれ気になるわ」


こうやって賛同するところを見るとやはりこいつも性格が悪い。


気が合うのか?そういう意味では。


いや、やめよう。俺はもっと性格がよくて、暴力も振るわない、


美少女とまではいかなくてもそこそこのかわいさがある子がいいのだ。


ましてやこんな男をATM扱いする女など・・・


「ん、何見てんのよ」


「いや、別に」


「次変な目で見たら殺すわよ」


やはりないのだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ