砂漠の主、怒りの突撃
前作2つと薄らと繋がっていますが、特に気にせず読めるとは思います。
ラクダとの戦闘での疲労を感じながらも、日の照りつける砂漠の中をエリアボスの方面へと向けて歩き続ける。電脳の世界では暑さを感じないが、この一面の砂景色を見続けるのはなかなか堪えるものだ。
「あのさ」
「何?」
「俺インベントリ整理してただけなのにこの仕打ちは酷くない?」
先程から横の男はうわ言のようにこのような文句を喚いているが、特に気に留める必要はなさそうだ。
「HP3割まで削ったのはやり過ぎたとは思うけど、やっぱ突っ立ってたお前が悪いよ」
「いや戦闘を無視して突っ立ってたけどさぁ!だからといって勢いよく斬りつけられるとは思わないだろ」
あれは自分でも驚くほど綺麗な八連撃だった。
「回復持ってるんでしょ?じゃあ良いじゃないの」
「良いけどお前が言うのは違くない?」
いつまでもうだうだうるさいやつだ。もはや終わったことだというのに。俺の中だけだが。だなんてしょうもない漫才をし続けていると、遠くから俺達と同じ位の大きさのサソリがこちらへと戦闘を仕掛けようと全速力でこちらへと近づいてくる。
「ほら、サソリもうだうだ言うなって言ってるよ」
「だ〜もうムカつくなぁ いつか絶対やり返してやる」
おー怖、先手で何か手を打ってやろうかな。今はそんなことはどうでもいいか、目の前の敵に集中するとしよう。勢いよく腰蓑につけた鞘から剣を引き抜き、サソリへと駆け出そうとする。
「ちょいまち」
「何?まだ言う?」
「んなわけないでしょ、そうじゃなくてサソリは外殻が硬いからそのままじゃダメージ入らないよ」
なるほど、この前のカニと同じような物か。であれば弱点を、と考えたが弱点と言えるものも見当たらない。
「弱点無くない?っとあぶね」
毒針が足を貫かんと突き刺してきたがひらりと避ける。
「こういうときはね、よっと!」
インベントリからナイフを取り出し、サソリへと勢いよく投げつける。少しの傷を与えながらからんからんと弾かれ、サソリの足元へと哀愁を漂わせながら落下する。
「マジで言ってる?」
「良いから見てなって ここらへんかな、水球!」
放たれた水の球は勢いを乗せ、先程ナイフが命中した地点へと炸裂し、バキッと大きな音を立てながら外殻が壊れる。
「部位には耐久値ってのがあってね、こういうふうに壊せるのさ さぁ行け!」
「そういうことね、じゃあ遠慮なく」
外殻を破壊されよろめくサソリへと飛び込み、
「一瞬剣撃!」
外殻を破壊した部位へとスキルを使用し、柔らかい中身を引き裂く。やったぜクリーンヒット。引き裂いた部位からサソリは光の粒子となり、天へと還っていく。それと共に小気味の良い音が鳴り響き、ウインドウが出現しレベルアップを告げる。
「よっしゃ撃破ぁ!」
「ちゃんと撃破できたね 偉い偉い」
足元のナイフを集めながら気色の悪いことを宣っているこいつは置いておくとして、レベルアップに応じて入手出来たステータスポイントを振り分けるとしよう。ステータスウィンドウを開き、どのステータスを優先するべきかと思案する。
「これおすすめとかある?」
「あ、無視?オススメは...まぁビルド次第かな、お前なら取り敢えずは筋力と敏捷上げときゃ良いんじゃないの?」
「今のところ魔術を使う予定はないしそうなるか」
ポチポチと振り分けを済ませ、再びエリアボスへと向けて歩みを始める。サソリに手間取ったりなんなりがあったとはいえ、かなり歩いてきた。そろそろだろうか。
「あとどれくらい?」
「目の前のあれ」
そろそろどころじゃなかった。いや確かに俺達の2倍位はありそうなヘビがいるなとは思ったが当然かのように鎮座している物だからただの強いだけの敵かと。
「じゃあ行くよ〜」
「情報とか無いのか?」
「要る?ここらへんのエリアボスなんてそんなつよくないしヨユーヨユー」
初期エリアのボスならそんな物か。そうしてエリアボスへの心構えを終える前には隣からナイフが放たれていた。もうちょっとコミュニケーションと言うものを知って欲しいなぁ。放たれたナイフは綺麗に巨大なヘビの右の目玉へと突き刺さり、耳をつんざく咆哮を上げる。
「あっヤベ」
今ヤベって言ったなこいつ、何してんだ。想像し得るに目玉に突き刺されば暴走状態のような物へと移行するのだろうか。考えているうちにのたうち回るようにそのヘビはこちらへと向かって突進を繰り出している。その速度はまるで機関車のようで、即座に回避しなければ圧殺されるのは目に見えている。
「走れぇ!」
言われなくても全速力でヘビの右方向へと走り出し、突撃によって砂煙舞う中へと蛇に靴の踵を踏み潰されながらギリギリで回避する。さっき敏捷上げていなかったら今足はついていなかったな。そんな俺とは違い、アイツは俺よりも高いレベルによって上げた敏捷によって何の問題もなく回避をこなしている。
「切り返してるしまた向かってくるな、どうするのあれ」
「突撃してきたところに剣を突き立てるカウンター戦法とかどう?」
「ありだな」
切り返すのに手間取り先程よりも少し遠い場所から突進してきたおかげでさっきよりは少し時間がある。お陰でおおよその突撃地点の右側へと位置取る事が出来た。鞘から引き抜いた剣を両手で握りしめる。突撃してきたヘビが間近へと迫り、ステップを繰り出し位置の微調整を行う。完全にギリギリの場所へと調整が出来、踏み潰さんと突撃してきたヘビの横腹へと突き刺す。サソリとは違い外殻がない、深く突き刺さったようだ。グッと差し込み、腰を落とし踏ん張り続ける。ヘビは勢いを落とす事が出来ず、突き刺さった部分から横一文字にパックリと裂け始める。
「ぐぐぐぐぐこっれはきっついなぁ!」
踏ん張ってはいるものの流石に体躯のサイズが違う。このままじゃ持っていかれるなこれは。もう踏ん張りが利かないギリギリまでは突き刺し、力無く引き抜く。
「あぁもったいない、引き抜いちゃった」
「死ぬ程キツいんだから無茶言うな」
とは言ったものの倒し切れた訳では無い、なんなら大きく裂いた傷のせいで更にヘビは怒りを増しているようにすら感じる。遠くで力を溜めこの突進で仕留め切ると言うような構えを取っている。
「さてどうしようか、俺はあれを倒す火力は無いしなぁ」
「もう一回あれをやるのはキツいし ん〜 あ、そうだ」
ラクダを倒した時に火球を切った時の感覚の違和感。剣に炎が纏わりつくような感覚。あれが再現できるのならば、弱点属性での斬撃を与えることが出来るのではないか。
「ヘビの弱点属性って何?」
「砂漠地帯だし多分水かな」
多分ってなんだ多分って。
「何する気?」
「実験兼必殺の一撃」
「それって兼ねられるんだ んで?俺に何かさせるんでしょ」
「よく分かったな 俺がジャンプするから、合図に合わせてさっきの水球を俺の前に打ち出してくれ」
「ん?あぁなるほど、了解」
さぁて準備は終了、後は向かって来るヘビに対して合わせるだけか。限界まで力を溜めきったヘビは先程までとは比較にならない速度で突進を繰り出す。
「ここらへんか バーティカルバウンド!」
最大出力で放たれた跳躍スキルによって通常の跳躍の3倍程度まで飛び上がり、剣を構える。ヘビは少し遠くに見えるが、あのスピードならば目的のタイミングまでにはたどり着くだろう。
「今!」
「水球」
勢いよく放たれた水球は少し時間をかけて俺の前へと進み続ける。後は、俺が成功させるだけだ。ヘビは宙に浮かんだ俺を弾き飛ばさんとするために、更にスピードを上げる。そうしたおかげか水球が目の前に来るタイミング、ヘビが俺の間近へと迫るタイミングがぴたりと重なる。
「一瞬剣撃」
水球を切りつけた剣はその刀身にその力を纏わせ、ヘビの口を真一文字に両断する。それは最後の雄叫びを上げることすらなく、粒子となり消滅した。
「一件落着!」
後ろでまた小気味の良い音がなっているものの、今考えるべきはそれではない。さてどうやって着地したものか。というかなんで最大出力で放った位で着地が不可能になるんだ。欠陥すぎるだろ。
甘んじて落下死を受け入れるしか無いか。エリアボスを撃破したのだから次のエリアへと進む権利は得ている。さて、またうろ覚えの念仏を唱えようか。と覚悟を決めたところで、地上で腕を大きく広げたアイツの姿が目に入る。
「ばっちこーい」
無茶では?とは感じたものの唯一の望みはそれだけだ。優秀な物理演算をしているこのゲームならば、全力で体を広げれば少しは落下速度を下げられるだろう。そうして広げた四肢に空気抵抗を受け、少しの速度減衰をしたその体のまま広げられた腕の中へと飛び込む。
「いってぇ~けどセーフ!」
なんとか生き延びることは出来たようだ、この前の二の舞にならずに済んだ。ギリギリのHPの身体を起き上がらせる。
「なんとかギリギリだったな。」
「ようやく倒せたね、さてまだまだ通過地点だし次の街へと行こうか」
二人ともふらふらとした足取りで見飽きた砂漠をようやく抜け、次の街へと足を進めた。
見直せば見直すだけ見られたものじゃない拙い作品ですが、習作ということでお許しください。
一応何かを書くための設定は書き出しているので、もし書くのならばその時の為に、と言うことで。