試練の幕開け
静まり返った朝の街。だが、タケミチの胸の中はざわついていた。
参加する、それだけのために――あの場所へと足を踏み入れる。
防衛隊バトル――それは、選ばれし者たちが名誉と未来を賭けて戦う舞台。
その会場へ、ひとりの問題児が足を踏み入れようとしていた。名を、タケミチという。
8000人近くが集まるこの巨大な空間。
ここで種目が始まるのか...
(一人ずつに扉が用意されている。)
防衛隊バトルとはあらゆる種目を防衛隊が競い、自身のランクを上げる場である。(見せ場やトレーニングとして活用する大会である。)
参加は自由だが、無論怪我をする。
怯えて参加しない人もいるが、自分の実力を知るためにも参加する事はおすすめされている。
ランクSSクラスやお偉いさん達が豪華なランチを食べながら眺めていた。
基本はC〜Sランクが集まる。
ザワザワザワザワ
緊張が走る。
「皆さんお集まり頂き誠に感謝致します。
これから皆さんにはこちらの扉に入って貰います。では、ご武運を!」
バラバラに隊員が扉に手をかける。
ガチャ、キィィーン扉が開いた。
扉の奥には薄暗い空間で先がよく見えない。
キィィーンバタン(扉が閉まった)
んだよこれ。バトルじゃないのか?
チャイムが鳴った。『5秒経過!』
たけみちはそのチャイムで把握した。
恐らくこれはタイムアタック。察すると猛スピードで走る!『10秒経過!』どこがゴールか分からないがとにかく走る。
ダッダッダッダ!『20秒経過!』
こっ、これは?霧にかった奥に壁が見えた。
かっ、壁じゃぁない!戦闘機だ!
戦闘機はたけみちに打撃攻撃を仕掛ける。
ぐはっ!吹っ飛ばされる!
強烈な打撃を受け、タケミチの体が吹っ飛ぶ。背中から地面に叩きつけられ、肺から空気が一気に押し出された。
『30秒経過!』
「チッ……そういうことかよ。」
タケミチはすぐに身を起こし、戦闘機を睨みつける。ただのタイムアタックではない。この試験は、速さだけでなく戦闘能力も試されるものだと理解した。
目の前の戦闘機はホバリングしながら、再びタケミチに向かって突進してくる。
「なら、こっちから行くぜ!」
タケミチは地面を蹴り、一気に加速する。戦闘機が機関砲を放とうとしたその瞬間──
「無力全化!」
タケミチの能力が発動し、戦闘機の攻撃が停止する。機関砲のエネルギーが虚空に消え、機体そのものが力を失ったかのように一瞬フワリと浮かぶ。
「ハッ、これで──」
しかし、次の瞬間、戦闘機の機体が赤く光り、システムが再起動する。
『緊急モード発動。対象、脅威レベルA。自動迎撃開始。』
「は?マジかよ……」
戦闘機が無力化の影響を受けつつも、システムを強制リセットしてカウンター攻撃を仕掛けてきたのだ。
「面白えじゃねえか!」
タケミチはニヤリと笑い、霧の奥へとさらに駆け出した。ゴールはまだ見えない。しかし、どんな試練が待ち受けていようと、タケミチは足を止めてはならない。
『40秒経過!』
タケミチは霧の奥に広がる波打つ水面を見つめた。近づくと、すでに何人かの隊員たちが泳いでいるのが分かる。
「なるほどな……今度は水泳か。」
先を見ると、ぼんやりとした光が水の向こうに見えた。あそこが次のエリアか?
「チンタラしてる暇はねぇ!」
タケミチは勢いよく飛び込み、水をかく。だが、すぐに異変に気づいた。
『重い……?』
泳ぐたびに、異常なほど体が引っ張られる。まるで水が腕に絡みつき、前に進むのを阻んでいるかのようだ。
「ちっ、これはただの水泳じゃねぇな……!」
隊員の一人が叫ぶ。
「気をつけろ! この水、ただの水じゃねぇぞ!体力を奪われる!」
「マジかよ……!」
タケミチは舌打ちする。時間が経つほど体が重くなるのか。つまり、速く泳がなければ沈んでしまう。
「だったら──」
彼は一気に力を込めて蹴り、水中を突き進む。しかし、その時だった。
水の中から何かが動いた。
ゴボボボ……
「……っ!?」
水面が揺れ、巨大な影がうごめく。
「まさか、ここに敵がいるのかよ!」
光の向こうへたどり着く前に、新たな試練がタケミチを待ち受けていた。
水面が不気味に盛り上がり、巨大な影がその姿を徐々に現し始めた。それは巨大な魚のようだったが、鋭い牙がむき出しになった口元や、爛々と光る赤い瞳は、明らかに尋常ではない。
「なんだ、こいつは…!」
他の隊員たちも異様な魚の出現に気づき、悲鳴を上げたり、慌てて水から上がろうとしたりしている。しかし、体力を奪う水は彼らの動きを鈍らせ、思うように進めない。
巨大魚はゆっくりと、しかし確実に、たけみちの方へ近づいてくる。水面を割る音、ねっとりとした気配。ただの障害物ではない、明確な敵意を持った存在だ。
「チッ、厄介なのが出てきやがったな!」
たけみちは一度光の方へ視線をやった。ゴールはすぐそこに見える。しかし、この巨大魚を無視して通り過ぎることは不可能だろう。
「やるしかねぇか!」
たけみちは深く息を吸い込み、体中の筋肉に力を込めた。体力を奪われつつあるが、ここで立ち止まるわけにはいかない。
巨大魚が大きく口を開け、鋭い牙を剥き出しにして襲いかかってきた!
たけみちは、迫りくる巨大な顎に向かって、渾身の力を込めて水中で蹴り出した!
水底へ逃れたタケミチを、巨大魚は執拗に追いかける。狂ったように水を掻き回し、猛スピードで迫る鋭い影。巨大な口が、タケミチの頭蓋を砕こうと牙を剥く。まさに寸前、「今だ!」とタケミチは全身の力を一点に集中させた。ドカーン!海底を蹴り上げ、渾身の鉄拳が巨大魚の顎を捉える。想像を絶する衝撃と共に、巨大魚は悲鳴のような音を上げ、空高く打ち上げられた。
ハッと、ここは大会の最中だったと思い出す。呑気に構えている暇はない。タケミチは水面を蹴り、光の源へと猛然と泳ぎ始めた。背後には、まだ何匹もの巨大魚が潜んでいるかもしれない。そう考えると、一刻も早くこの水域を脱出しなければならない。
数分後、ようやく光が見えてきた。陸地だ。疲労困憊の体を引きずるように上陸すると、大会のスタッフが駆け寄り、ゼッケンを確認しながら飲み水と軽食を手渡してくれた。渇いた喉を潤し、簡単な食事を済ませた後、タケミチはある場所へと案内される。そこは……
ワーワーウォーオー、観客の歓声と熱気が渦巻く巨大な空間だった。ザワザワとした喧騒が耳をつんざく。
『こっ、ここはコクラスフルク!?』
タケミチは目の前の光景に息を呑んだ。巨大なスクリーンには、先ほどの水上エリアで苦戦する選手たちの姿が映し出されている。
重々しいホルンの音色が、広大なコクラスフルクに響き渡り、熱狂的な観衆のざわめきを一瞬にして鎮めた。
「各団長は、お決まりの席にご着席ください。」
厳かなアナウンスが、会場全体に響き渡る。豪華な装飾が施された貴賓席には、すでに数名の団長たちが悠然と腰を下ろしていた。顔見知りの団長もおり、軽く会釈を交わす者もいる。
「この会場には、一般の観覧者も多数おられます。そして、防衛隊のお偉い方もお見えになっております。皆様、ようこそ、コクラスフルクへ。巨大な戦闘場にて、次なる試練の幕開けです。」
アナウンスの声に、タケミチは改めて会場を見渡した。その名の通り、巨大な闘技場だ。複雑に入り組んだ地形、そびえ立つ障害物、そして何よりも、これから繰り広げられるであろう激しい戦いを予感させる張り詰めた空気。
(ここが、次の舞台か……!)
先ほどの水中での死闘が嘘のように、タケミチの心にはかすかな興奮が湧き上がっていた。
「続きましては、個人競技、対人戦トーナメントを行います。予め、対戦相手は決定しております。勝敗の決定は、相手を場外へ出す、またはギブアップをさせる、そして審判が勝敗を判断した場合となります。それでは、こちらの巨大スクリーンをご覧ください」
アナウンスの声と共に、会場中央の巨大なスクリーンに、複雑なトーナメント表が映し出された。選手たちは食い入るようにその情報を見つめ、自分の名前と対戦相手を確認していく。確認を終えた選手たちは、思い思いの時間を過ごし始めた。隅で軽く食事をとる者、入念にストレッチを始める者、あるいは瞑目して精神を集中させる者もいる。
「ふっざけんな!」
突如、会場の片隅から怒鳴り声が響き渡った。タケミチがそちらに目をやると、見知らぬ男が、青ざめた顔の大会スタッフらしき人物に激しく詰め寄っていた。
「なんで俺様がこんな雑魚と戦わなきゃならないんだ。クソが!ふざけるんじゃねー!」
「わ、私どもが作成した組み合わせではございません……」スタッフは両手を上げて弁明する。
「んじゃあー、誰が作ったんだ?」男の怒りは収まらない。
「申し訳ございませんが、私にも分かりかねます……」
『使えねーゴミスタッフかよ。』男は吐き捨てるように言い放った。
その時、会場に凛とした声が響いた。「それを作成したのは、私だ。」
男を含む、周囲の視線が一斉に声の主へと集まる。そこに立っていたのは、威厳のある佇まいの人物だった。
「……私の名は、イグニス。この大会、いや、騎士団を代表するものだ。何か文句があるなら、遠慮なく教えてくれたまえ。」
先ほどまで騒いでいた男は、イグニスの威圧感に気圧されたのか、みるみる顔色が悪くなっていく。
「い、いや〜……あ、あんな……別に、何でもありませんよ……」
「ならば良い。諸君らの健闘を祈る。」イグニスは静かに言い放ち、その場を後にした。
……クソが〜。なんであんな奴にぺこぺこ頭を下げなきゃならないんだ。あの忌々しい顔、絶対に忘れない。そうだ……死人を出す。この大会で大問題を起こしてやる。クックック……w 男の口元には、陰湿な笑みが浮かんでいた。
このたびは本作を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
本編において描かれた展開の一つひとつが、読者の皆さまの心に何かしらの印象を残せておりましたら、これに勝る喜びはございません。
本作は、構想の段階からさまざまな要素を取り入れてまいりましたが、物語としてどのように形にするかを試行錯誤しながら執筆いたしました。登場人物たちが自ら動き、時に思わぬ方向へ導かれていく様子を、ぜひこれからも見守っていただければ幸いです。
なお、物語はまだ道半ばにございます。今後の展開においても、皆さまのご期待にお応えできるよう尽力してまいります。
お付き合いいただき、本当にありがとうございました。
また次の章でお会いできることを、心より願っております。