第六章 空き家
空き家は易々と入っては行けません。
まあ、彼らは仕事なんで、頑張ってください。
幻の山の怪異
メンバーで決めたミッションを遂行するため、
彼らは空き家へ向かう。
楓とアラタは、調査のために幻の山へと足を踏み入れていた。
山の奥深くにある一軒の空き家に辿り着いたとき、楓は疲れ切っていた。
「私、もう歩けない……」
楓がぼやくと、アラタは淡々と答えた。
「すぐに終わらせましょう」
そう言って玄関へと近づいた瞬間、アラタの表情が一変する。
素早く楓の首を掴み、物陰へと引き込んだ。そして、彼女の口をタオルで覆い、息を潜めるよう促した。
「んーっ!? なに、アラタ……!」
「お静かに。聞こえませんか? ここは空き家じゃない」
楓が耳を澄ますと、家の中から奇妙な声が聞こえてきた。
「お、お、お腹スイタナー、オカアサン」
「タベモノ、モッテキタワ」
「老人じゃん、オイシクナイヨ」
「スキキライはイケマセン」
「はぁい」
次の瞬間、**クチャクチャ**という不快な咀嚼音が響く。
楓は顔を青ざめさせながら、アラタの袖を引いた。
「ここはヤバい……今すぐ帰ろう!」
その時だった。
**ザッ**
楓が不用意に落ち葉を踏んでしまった。
「ナンノ音ダー?」
「ニンゲン? オカアサン、そこにニンゲンがイルヨ」
「ナンデスッテ!?」
奴らは五感が優れている。
声の主たちがこちらへ向かってくる。
アラタと楓は逃げようとするが、突然目の前に**透明なバリア**が現れた。
触れてみると、見えない壁に阻まれたように、それ以上進めない。
「くそっ……閉じ込められたか」
スマホを取り出してみるが、電波は圏外。
「詰み……か?」
アラタは苦々しく呟くが、すぐに考えを巡らせる。
「調査の目的を考えれば、おそらくここにいる何かを討伐する必要がある……」
「無理無理無理! 気持ち悪いし!」
楓が拒絶しようとしたその瞬間——
**ガラガラガラ……!**
家の扉が開き、中から異形の「母親」が現れた。
彼女は**血まみれの包丁**を握りしめ、カクカクと不自然な動きでこちらを見据えている。
白目がなく、目からは血が流れ、青白い肌には死臭が漂う。
「アンデッドの上位互換……ってところか」
『待って!多分あの2階に元凶があるわ。
何か異様なものを感じるの!』と楓は呟いた。
「その元凶を見つけ出す。」アラタは覚悟を決めた。
その場から音を立てずに離れようとしたが——
**ワンッ!**
「!? まさか……犬!?」
異様な雰囲気をまとった犬が吠え、異形の母親がこちらに視線を向ける。
「イルネ……イルネ……ェ」
楓は覚悟を決め、攻撃する。
「メラメラ!」
楓が異形の母親に触れると、炎が彼女の体を包んだ。
「何ダコレハ?……!」
ボッワ!(炎が母親を包み込む)
しかし、燃えながらも母親は怯むことなく、なおも包丁を振り上げてくる。 楓が時間を稼いでいる内に、アラタは小石を集め、共闘する。
アラタは素早く手元の**石**を空中に投げる。
——キャッチした瞬間、高速移動!
(アラタの能力は物を空中に投げて回転させることで、その回転数に応じて武器としての威力、性能、耐久力が強化される能力。回せば回すほど強くなり、特定の回転数を超えると特殊な効果が発動することもある。)
異形の母親を回避し、楓と共にその場を脱出した
***
**数分後。**
楓は息を整え、落ち着きを取り戻していた。
2人は空き家の様子を伺うため、窓から中を覗き込む。
中では**父親のような存在**が新聞を読んでいた。
楓は窓にそっと触れる。
「サラサラ」
すると、窓ガラスが砂のように崩れ、静かに中へと侵入できるようになった。
「別行動しましょう。俺は2階、楓は1階を頼みます」
「わかったわ」
アラタは**高速移動**で階段を駆け上がる。
一方、楓はキッチンを調べていた。
「……っ!」
キッチンのテーブルには、**人間の肉**が並べられていた。
ギシッ……ギシッ……
「……あれは!」
楓は見覚えのある異形の母親を発見する。
「コロス……コロス……コロス……」
彼女は包丁を研ぎながら、ぶつぶつと呟いていた。
「グサグサ!」
楓が能力を発動すると、キッチンの床が一瞬で**無数のトゲ**へと変貌した。
異形の母親の足がトゲに貫かれ、体中に小さな穴が空く。
「アーアー! キーッ!」
もがく異形の母親の首を、楓は躊躇なく刎ねた。
「……これで終わり?」
だが、その瞬間、**強い力で腕を掴まれた**。
「っ!?」
振り向くと、そこには異形の**父親**がいた。
片手で楓の腕を掴み、もう片手で殴りかかってくる。
「やばっ……プクプク!」
楓の能力が発動し、異形の父親の体が風船のように膨らみ、天井へと浮かび上がった。
「ふう……」
放置して、先を急ぐ。
***
**アラタの方では……。**
「……まずいな」
タンスに隠れていたアラタを、子供たちが探し回っていた。
「見ツケター!」
タンスが勢いよく開かれる。
「チッ!」
アラタは即座に子供を蹴り飛ばしたが、相手も負けじと**ナイフを投げつけてくる**。
手元の石を投げ、ナイフを弾く。
「異速——!」
刀を抜き、異次元の速度で斬撃を繰り出す。
すると、突然部屋が**真っ暗**になった。
巨大な「姉」の顔が出現し、こちらを睨みつける。
「クソッ……!」
壁を突き破り逃げると、そこにはモジャモジャ頭の異形の祖母が待ち構えていた。
「カチカチ!」
楓の能力が発動し、巨大な姉の顔が固まる。
「バラバラ!」
次の瞬間、粉々に砕け散った。
「……助かった」
### **呪われた人形**
物置の扉をそっと開けると、そこには埃まみれのガラクタが山のように積まれていた。
しかし、その中に**異様な存在**があった。
「……これは」
楓が指差したのは、**一体の人形**だった。
普通の人形とは違う。
それはまるで、生きているかのように薄暗い部屋の中でこちらを見つめていた。
異様に大きな口がゆっくりと開く。
**ギザギザの歯がずらりと並んでいた。**
「ペラペラ!」
突如、人形の体が黒い霧に包まれたかと思うと——
**紙になった。**
まるで折りたたまれたように、人形の姿は消え、**一枚の紙**へと変化したのだ。
楓はすぐさま刀を構え、紙を真っ二つに切り裂いた。
**バリッ!**
空間が軋むような音が響く。
同時に、外から聞こえていた不気味な囁き声が、ピタリと止まった。
「……消えた?」
アラタが周囲を警戒しながら外を見る。
今まで閉じ込められていた**透明なバリア**が、霧のように消滅していた。
「どうやら、これが元凶だったみたいね」
楓は切り裂かれた紙を手に取り、ギュッと握りしめた。
そして——
「メラメラ!」
紙は炎に包まれ、あっという間に燃え尽きる。
「……これで、本当に終わったのですか?」
アラタは疲労の色を滲ませながら、呟いた。
今は、何も考えたくない。ただ、仲間の元へ帰ろう。
バリアが解け、元凶である**呪われた人形**が消滅したことを確認する。
無事に帰還した2人を待っていたのは——。
「え? 誰?」
そこには見知らぬ少女がいた。
「事情は後で話すぜ。とりあえず、無事でよかったな」
「本当に大変だったんですよー!」
賑やかに語り合いながら、彼らは久々の食事を楽しんだ。
帰ってきたら1人増えてるのは怖いかな。