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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

個人企画に参加してみた ①と②それと③ +バンダナコミック01作品

よく当たると噂の占い師に、あなたは幸せになれないと言われた話

作者: モモル24号

 


 一時期テレビメディアを中心に、よく流行った〇〇の母。一頃よりはブームは去ったものの、占い師たちが消えたわけでも、廃れたわけでもない。


 メディアは興味を引けなくなったから派手に取り上げなくなっただけで、巷でよく当たると人気の占い師は配信系に活躍の場を移して、今尚大盛況であった。


 ────『菊池の母』 もそんな配信系で人気を博す、占星術師の一人だ。『菊池の母』 に願いをこめて星を送れば、願いが叶う単純な仕組み。星の数が多いほど願い事が叶いやすいと噂になった。


 星を増やすにはお金がかかる。『菊池の母』 は何もしない。願掛けの窓口が、神様や怪しい宗教団体から配信系のしがない占い師になっただけだと理解している。


 実現不可能な願い事を、お金を払ってまで願うような人はいない。『菊池の母』 に、星を投げるような人は、叶う願いを初めから願う。


 このスタイルを確立した『菊池の母』 は、この手のタイプの人々が願い事など、別にどうでも良いと考えている事もまた理解していた。


 不幸で苦しい人々が切実に何かを願うなかで、自分は特別……願いも叶ったんだと優越感に浸りたいのだ。『菊池の母』 のもとには、願いも相談もしない大勢の人々も訪れる。


 ギャラリーと呼ばれるAI観衆は、願いを叶えた方を讃えるように仕組まれている。様々なパターンの祝福を送っもらえる姿を一般の利用者に見せることで、特別感を演出し、満足感を得られるわけだった。


 よく当たる、よく叶う‥‥と噂になるのは当たり前だ。勝手に願って勝手に叶えて行くだけだから。『菊池の母』 はきっかけやある種の売名行為に過ぎない事を、自分が一番良く知っていた。


 直接的に投げ銭をしてもらい、相談を受ける事もある。その時は、決して本当の事は言わずに耳心地の良い言葉を選ぶようにしている。誰の身にも起こり得る事をそれとなく織り交ぜる事も忘れない。


 人は真実を聞きたいのではなく、聞きたい事を言ってほしいだけ‥‥誰の名言だったかは忘れた。詐欺師も占い師も、人の心理を手玉に取る術を心得ているからこそ成り立つ商売には違いない。


 詐欺師は訴えられれば犯罪になるものだ。占い師や宗教屋は免罪符が何故かある。すなわち‥‥信じる方が悪いと。嫌な見方をすれば、財産を差し出させた時点で勝ち確だった。


 ‥‥それだけ未来に救いを求める人が多いままなのも、厳しい現実を顕にしているようで、占い師の本音としては悲しくなる。


 コーヒーチェーン店の一角に座り、モーニングセットのバケットサンドとコーヒーを楽しみながら、パソコンを開く。後ろは壁。覗き込まれる心配はない。


 駅から少し離れたその店に朝からやって来るのは、会社勤めのスーツ姿の人ばかり。菊池の母が、そんな社会人に紛れてパソコンを開いて相談事に耳をかたむけているなどと考えられないだろう。


 ────その女は突然目の前にやってきた。名前を菊池と言った。私を『菊池の母』 と知っていてやって来たのならば、同じ菊池姓なのは偶然などではないと思う。


 『菊池の母』 に対して、親兄妹、息子や娘を名乗る人々は珍しくない。同業者が二番煎じに似た商売を始めだすのはよくある話だから。


 『菊池の母』 はプライベートについて、一切明かしていない。いわゆる中の人の正体が知れてしまうと、神秘的な雰囲気や信憑性が薄れるためだ。


 それにメディアの出演を拒むのは、星を送ったり、悩み相談にお金を出した事もない輩が無駄に騒ぎ立てるのが嫌だからなのが大きかった。


 ルールを遵守して、正当な形で得ているお金なのは明白だ。なのに一錢も払った事すらない連中に妬まれて、攻撃されるなんてあり得ない。そんな輩に、ひっそりと人々を救う『菊池の母』 の活動を妨害されたくはない。


 他に叩くべき巨悪集団をいくつも放置し続けてきたくせに、いまさら正義を語るなとあえて言いたい所だ。


 ‥‥目の前の菊池は、『菊池の母』 のもとに集う星徒だろうか。ずいぶんとくたびれた格好の女だった。星徒が『菊池の母』 に不満を持って返金を求める事は滅多にない。詐欺師や宗教屋と違って、やっている事は現実的な神様仏様だ。この女のようになるまで生活を困窮させてはやっていけなくなるからだ。

 

 何度も言うように『菊池の母』 は願いをきちんと叶えている。それに彼らは納得して星を獲得するために投げ銭を投じる。『菊池の母』 に話を聞いてもらいたくて、相談のために納得して投げ銭を投じるのだから。


 百パーセントとは言わない。でも八十パーセント以上は満足度を提供しているはずなので、文句は出にくいはずだった。


「……あなたは幸せになれない」


 菊池を名乗る女は、まるで占い師のように占星術師『菊池の母』 である私にそう告げた。懐かしい言葉だ。


「……奪ってばかりでは未来はない。幸せな家庭はその家庭だから幸せであって、奪った所であなたが幸せになることはない」


 忙しなく働くビジネスマンだらけのコーヒーチェーン店内で、何をわかったような口調で寝言をのたまっているのだろうか。


「……奪っても幸せはついて来ない。不幸と恨みを生み、『菊池の母』 の身に刃を突き立てる」


 幸せになりたいのなら、奪うのではなく、与えなければならない‥‥とでも言いたいのだろう。もしくは極稀にいる被害妄想の強い傾向のタイプで、自分の行動による失敗を目についた他者に押し付ける輩だ。


 結局‥‥こういう時に刃を突きつけるのは目の前の女だ。自己完結していて会話にならない相手。なのに話しかけて、意見や助言を求めてくる。


 私はノートパソコンをしまっていた、薄くて軽くて丈夫なバッグをそっと手にする。こういう商売をしていると嫌でも噂は流れてくる。それを防ぐ自衛用に盾がわりの物くらい用意していた。


 占い師が本当の事を言わないのは、逆恨みしたり言いがかりをつけて来たりして、襲われた実例があるからだと思う。


 思い込みの激しい人ほどのめり込みやすい反面、自己都合の物語を作りだし行動に移してしまう。だからこの女もその手の人間だと思った。


 何らかの方法で情報を解析して、菊池の母のような表舞台に立っていない者の居場所を特定してくるのも、この手のタイプだ。頭が良いのか、野生の勘が働くのか興味はあるが、それどころではない。


「……忠告はした」


 身構える私の前で、菊池と名乗る見窄らしい女はいつの間にか手に握る包丁で、自分の喉を突いた。


 『菊池の母』 かどうか定かではないが、菊池を名乗るものに刃が突き立てられた。


 狂っている‥‥いや、狂ってしまったのか。私が『菊池の母』 の座を()()()せいで、本物の『菊池の母』 が文句をつけに来たのか────いや本物らしく、本心で忠告に来たのかもしれない。


 店内は大騒ぎになった。吹き出す血飛沫を眼前で浴びた私は、さすがは本物の『菊池の母』 だと感心した。


 憤死した『菊池の母』には、未来が見えていたのだろう。本当の事を言い過ぎて、疎まれて消えた本物の『菊池の母』が、配信という形で人気を博している偽物の事について何を思ったのか。そんな事はいまの『菊池の母』である私にはわかるはずがない。


 偽物とは言いつつも『菊池の母』 を名乗ってはいけないルールは存在しない。全国に『菊池の母』 を名乗る資格あるものはたくさんいる。


 だから自害した女が本物の『菊池の母』 であろうとも、私が自分を卑下する謂れはない。


 これが流行りの小説サイトならば、奪ったり虐げたりした相手から、ざまぁされて終わるだろう。


 しかし、相手は自ら生命を絶ってしまったうえに、恨んでいるようには見えなかった。


 憤死した女と私は何の接点もなく無関係だ。気の触れた女がコーヒーチェーン店を訪れ、突然自殺しただけ。あえて関わりを言うのなら、一方的に迷惑を被った被害者だ。


 亡くなった菊池についての報道はなかった。地元の情報記事に『菊池の母』 の利用者で『菊池の母』 によって不毛な非難から救われたらしい事だけわかった。


 私は『菊池の母』 である事をやめた。全国に『菊池の母』 は数あれども、本物の占い師の『菊池の母』 は死んだ彼女だけだ。


 私がそうしたように『菊池の母』 の名をを利用して、荒稼ぎを企む連中がその後に続こうが興味はなかった。忠告はされた。彼らはいずれその身に刃を突き立てる羽目になるだろう。


 『菊池の母』 をやめた私は勝ち逃げだ。これも全ては憤死した『菊池の母』 だった方のおかげだ。


 彼女のお告げ通り、私は幸せになれないだろう。でもどん底の生活から這い出て生きてゆけるだけのものを掴む事は出来た。


 星は巡る。私が『菊池の母』 をやめたのも、結局は憤死した彼女と同じ理由だ。本物でも紛い物でも、救いを与えたい気持ちは同じだった。彼女が私に救われたのは、私が彼女に救われたからだ。星が巡るように因果も巡る。


 よく当たると噂の占い師は、幸せなど保証しない。ただ見える事柄を淡々と告げるだけ。見えた結果からどう動くのかは、人に与えられた自由だ。


 私は未来を予見するような力のある占い師ではない。占い師として、ほんの少し救いのある未来へと誘導する事に長けていた‥‥ただそれだけの存在だ。


「あなたは幸せになれない」


 私にそう断言してくれた『菊池の母』 に、幸せって何なのか教えてもらいたかっただけなのに‥‥それが叶う事はなくなった。



 お読みいただきありがとうございました。


 公式企画、夏のホラー2024 うわさ、の四作品目の投稿となります。


 名前のいらない作品ですが、〇〇の母の〇〇は菊池祭りに乗じて菊池としました。


 ホラー要素は少なく、ミステリーホラー、都市伝説に近いかもしれません。

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