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8.幕間

つなぎの話なので短いです。

 国境域の局所的な小競り合いが数か月をかけて徐々に広がっていき、やがて国同士の威信をかけた戦争へと発展していった。


 拮抗した戦いは双方に少なくない損害を生み、一時泥沼化の様相を呈した。

 しかし、転機が訪れる。



 ある日の未明、国境から少し離れた砦が敵軍の奇襲を受けた。


 夜明け前の闇に呑まれ敵味方入り乱れる中、兵士の支援のため駐屯していた司教が陣深く切り込んだ敵兵に追われ、砦の最上階へ追い詰められた。

 神官に刃を向けてはならないという暗黙のルールすら無視し武器を振り上げる敵兵から逃れようとした司教は、はずみで石壁の外へ投げ出された。


 次の瞬間、第一騎士団の副団長が宙へ身を踊らせ、なす術なく落下する司教に手を伸ばした。

 最上階から二人が落ちる現場を目撃した者たちは、そのまま地面に叩きつけられ助からないだろうと思ったという。


 しかし予想は思わぬ形で裏切られた。

 突如、辺り一帯に薄闇を切り裂く白い閃光が走り、その場にいた者たちは敵味方問わず皆、撃たれたように動きを止めた。

 眩い発光が徐々に収まると、光源となった場所には無傷のまま地に足を下ろし生還した副団長と司教の姿があった。


『奇跡』を目の当たりにして女神の威光を畏れた敵軍は戦意を喪失し、統制を失い散り散りに敗走を始めた。

 副団長は機をとらえてそのまま瓦解しかけた自軍を短時間で立て直し、手薄になっていた敵陣営を逆に急襲し、大きな戦果を収めたのだ。


 これにより形勢が大きく動き、戦争は一気に終息へ向かうこととなる。



 開戦から自国の勝利によって戦争が終結するまでに、三年の月日を要した。

 終戦後、司教を救い女神の加護を得たという逸話と、圧倒的な剣術と統率力で敵陣を踏み均したという武勇によって、燃えるような緋色の髪を持つひとりの男が英雄に祀り上げられた。



 名声は広く知れ渡り、国中で彼を讃える吟遊詩人たちの歌声が絶え間なく流れていたが、自室からさえ出ることのない少女の耳にその歌声が届くことはなかった。


 三年前より一層細くなった両手を組み、名も知らぬ騎士の無事を、少女は窓から見える高い空に向かって祈り続ける。


 たとえ叔父に決められた、一度しか顔を合わせたことのない婚約者のもとへ嫁ぐ日が近づいているのだとしても。









次話、三年後に話が飛びます。

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