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9 今度は王太子殿下との対決⁉ スルーのつもりが言いたい放題。

「レベッカっ! 貴様っ! 父上と母上に何を言った!」

 あー、来ると思っておりました王太子殿下、なーんてね。

 美少年が台無しの、怒り狂って、目を吊り上げて、気持ち悪い顔になっている王太子殿下。

 と、その後ろに隠れるようにして、可憐な風情を作っているけど、作り切れていないヒロイン・エーヴ嬢。

 わたしは教室の自分の席から、ゆっくりと立ち上がり、そうして完璧なる淑女の礼を取る。

「まあ、ローラン・デル・ラモルリエール王太子殿下、ごきげんよう」

 フルネームで呼んでやったのは、もちろんわざとである。

「国王陛下も王妃様もお元気でいらっしゃいますか? このところわたくし、王城に行くことも少なくなりましたので、ずいぶんとごぶさたしておりますわね」

 ローラン王太子殿下の怒り顔なんて気にしないで、にこやかに話す。

「貴様、俺様の言葉を聞いているのかっ! 父上たちに、お前が何を言ったのだと聞いているのだっ!」

「ですから、《《直接は》》お会いしてはおりませんが……」

 わたしは困ったように頬に手を当てて、ため息を吐く。

「……あまりご挨拶をしないのもご無礼かと思いまして……、お手紙などを差し上げました」

「手紙だとっ⁉」

「はい。学園での王太子殿下のご様子や、殿下や殿下の側近から言われたことなど、《《わたくしの感情を一切盛り込まず、起こった事実のみをご報告させていただきました》》」

「な、なんだと……っ!」

 脚色なんて、一切していないわよ。

 事実だけ、書きましたけど、なにか?

 にこにこと、張り付けたままの笑顔で対応するわたし。

 ふっ、淑女の鏡ね! なーんて自画自賛してみたりして。うふふ。

「お前の……お前のせいで、俺様の側近は総入れ替えになったではないかっ!」

「まあ、よかったですわね」

「何が良かっただっ!」

「たかが学園の試験ごときで、王太子殿下が及第点も取れないという事実を知りながら、それを陛下に申し上げない。最低限の報告もせず、王太子殿下のそばにいて、遊んでいるだけ……。挙句、レポートができないからと、締め切り直前になって、それをこのわたくしにやらせようとするとは……。側近としての判断力、能力に不足がございますわね」

「能力が問題なのではないっ! 彼らはみんな俺様の大事な友だ!」

「……国からきちんと手当てが出されているのが『我が国の側近』です。手当に見合う働きができなければ、解雇されて当然でしょうに」

 他国ではどうか知らないけど、うちの国の側近って、一緒に遊ぶお友達なんかじゃあないのよ。きちんと王太子殿下を支えるっていうのが仕事なの。

 だから、側近手当てっていうものが、国庫から支給されているのよ。

 つまり、うちの国における『王太子の側近』って、いわば公務員のようなもの。公務員が仕事しないで遊んでたらアウトでしょ。

「与えられた仕事をこなす能力に欠けていると、国王陛下や王妃殿下が判断なさったので、側近が入れ替えになったのでございましょう?」

 側近を解雇したのは陛下ですよー。

 ふふん、文句があるなら陛下に言いなさい!

「新しく側近になった方々は、少なくとも《《王太子殿下が試験程度に落第するような、そんなみっともない真似》》はしないよう手を尽くしてくださるでしょう。それでも足りなければ、学園での授業の補習をしたり、課題提出の面倒を見てくれる家庭教師を、殿下自ら陛下にお願いすればよろしいのでは?」

 はーい、ここ大事。

 一般の生徒ならともかく、優秀でなければならない次代の王族が、学校の試験にも及第しない。それはみっともないんですよーと、言ってやった。はっはっは。

 悔しかったら上位の成績を取ってみろやっ!

 すると、やっぱり状況判断も何もできないヒロイン・エーヴちゃんが、わたしを睨んできた。

「あ、アンタがすればいいじゃないのっ! 王太子殿下の婚約者のくせにっ!」

 わたしは冷たい目で、ヒロインちゃんを見下す。

「あなたは、『王太子の婚約者』の業務をご存じなの? 学園の試験に及第点も取れない婚約者のサポートは、婚約者の仕事ではないのよ。学業に不足があるのなら、それに及第点を取らせるのは家庭教師の仕事。学園生活が滞りなく行われるようにするのは側近の仕事。いい加減にご理解いただけます?  《《わたくしの仕事ではない》》と、先日も言いましたわよ?」

 ヒロイン・エーヴちゃんから、視線を王太子殿下に流す。

「殿下がどのようなかたと、どのような交流をするのもわたくしが関与するところではございません。ですが、王太子の位にあるあなた様が、学園の試験に及第できない現状を、他の、一般の生徒たちがどう考えるか……。その程度のことはご理解くださいませ」

「な、なんだと……っ!」

「血筋だけよろしい無能な人物に、有能な貴族はついて行きませんよ。それとも有能な側近に支配された操り人形になりますか? まあ、それでも国は問題なく運営されるでしょうが……」

 お飾りの王になりたいというのなら、それでもよし。

 だけど、そんな無能にわたしが付きあうつもりはない。

「それから、良い機会なので申し上げますが。わたくし、王太子殿下との婚約を、わたくしから望んだことは一切ございません」

 きっぱり、はっきり、言ってやる。

 原作崩壊? 

 知るものか。

 というかそもそも、元々の『乙女ゲーム』とか、わたし、知らないもん。

 知らないものを、そのシナリオ通りにやれなんて、無理。

 いわゆる物語の強制力とか、よくあるそれが、もしもこの世界に本当にあるのなら、わたしが言いたい放題したって、勝手に原作通りに修正されちゃうんでしょ。

 だったら、わたしだって勝手にやるわよ。

 だいたいにして、転生の女神様に言われたのは……あ、あれ?

 ふっと思い出した。

 転生直前、日本の、わたしの家での女神様との会話を。

『悪役令嬢としてぇ、婚約者である王太子殿下から婚約破棄を叫ばれてぇ、断罪されてぇ、罰せられる流れなんだけどぉ』

『婚約者である王太子によってぇ、断罪される運命はぁ、変えられないけどぉ』

 ……高校の時の友達がハマっていた乙女ゲームにライトノベル。

 悪役令嬢物って言ったら、夜会とか卒業パーティでの断罪がお約束だったから、わたしはうっかり思い込んでいた。

 大勢に取り囲まれての断罪になるだろうって。

 でもって、お約束通りに、卒業パーティで断罪されるんだろうって。

 転生の女神様、レベッカがいつ、どこで、断罪されるか、言ってない。

 ……だったら、今、ここで、婚約破棄、言ってもらってもいいんじゃない?

 そうしたら、もう、こんなクソ野郎に煩わされることもなくなるんじゃない?

 じゃあ、言うかっ! 

 ここで言ってしまうかっ!

 レッツ、言いたい放題ターイムっ!

「泥水をかけられたり、蜘蛛入りの紅茶を飲ませようとしたり……。そんな王太子殿下と婚約を結んでいるのは、国王陛下のご命令があったから。それ以上でもそれ以下でもございませんわ」

「な、なんだと……」

「ですから、わたくし、いつでも王太子殿下との婚約など、解消でも破棄でも白紙にでもしていただきとうございますわ。わたくしいい加減に、あなたがたと付き合わされることに、飽き飽きしていますの。時間の無駄ですわ」

 さあ、叫べ、王太子っ! 

 レベッカ、お前との婚約はド破棄してやるってっ!

 さっさと言えよ……って、待っているのに。王太子殿下は、なぜだか呆然自失だ。口も阿呆のように開けたまま。

 あーのー……、どうしたの?

 更に待つこと数秒。

 あ、駄目だこりゃ。

 うーん、女神様は言ってはいなかったけど、やっぱりパーティとかで大々的に『断罪っ!』とかじゃないとだめなのかしらね。いわゆる乙女ゲームのシナリオ的に。

 悪役令嬢も、ドレスアップしないと場面的に華がない……とか?

 ……めんどくさいなあ。この場で婚約破棄でも、執務室とかでさっさと婚約破棄書類作成して終わりとかでもいいと思うのに。

 そして、まだまだ、王太子殿下は呆然自失、継続中……。

 いつまでもこんなのに付き合わないといけないのかなあ……。

 ドーンと、バーンと、爆発でもさせて、どっかに吹っ飛ばしたくなってきたぞ。

 妄想の中で、爆炎と一緒に青い空に吹っ飛ぶ王太子殿下とヒロイン・エーヴ嬢を想像する。

 うーん、サイコー!

 婚約破棄の、その時になったら、女神様へのお願いで、二人を吹っ飛ばしてもらおうかしら……。

 真面目に検討しはじめたわたし。

 ここまで時間をかけても、王太子殿下はまだまだまだまだ、口を開けたまま。

 ヒロイン・エーヴ嬢も、王太子殿下の袖口なんかをツンツンひっぱだしたけど、どうしたのかな?

 あー、もしや、わたしが王太子殿下を好きで、殿下がなにをしても、なにを言っても、わたしは耐えているのだ……とか、そういう妄想に駆られていましたか、殿下? 

 いきなり本音で反撃したから、王太子殿下の脳みその許容範囲を超えて、処理できなくなった……とか?

 これ、パソコンが、フリーズして、カラカラしている状態っぽいな……。

 あー……。

 もういいや。

 この場は撤退。

 というか、王太子殿下は放置。

 どうせそのうち、いつかはあっちから婚約破棄を言ってくるでしょ。

 「では、そういうことで、ごきげんよう」

 付き合ってられないので、わたしは去ります。

 ただ、去るのだけではちょっとな。アレなので……。

「そうそう、次の定期試験では、王族として恥ずかしくない成績程度はお取りくださいませね」

 追加で嫌みを言っておく。 

 まともな成績取れるようになるまで、こっち来るなっ!

 じゃ、そういうことで、さよ~なら~。



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