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16 いざ、婚約破棄っ!


ドレスというのは淑女の武装だと、どこかの本で読んだ記憶がある。


 読んだんじゃなくて、ライトノベル好きのクラスメイトが言っていたのかもしれないけれど。


 今日、わたしは、王太子殿下に、別れを告げてやるのだ。


 いつかそのうち訪れる婚約破棄の日など待っていられない。


 こちらから、さっさと縁切りだ。


 気分は最終決戦。


 戦隊ヒーロー番組の最終回。


 悪を粉砕して、未来を勝ち取る。


 意気込みは十分。


 だから、淑女の武装であるところのドレスアップも完璧に、した。


 大輪の薔薇をモチーフにした、赤と黒の豪奢なドレス。胸元や袖口、裾などにはふんだんにレースも装い、金の糸で刺繍までもがなされている。


 もちろん化粧もバッチリ。


 髪は、編み込みプラスハーフアップ。


 両サイドの耳上の髪を少しだけ取って、まず編み込み。あとの毛は、後ろに流して毛先をくるんと巻いておく。ゴージャス感もあり、そして、動きやすい。


 ドレスに合わせた薔薇の飾りのついたコームを髪に差す。よし。


 鏡に映るわたしの姿はいかにも悪役令嬢でっすという仕上がり感。


「ふっふっふ……」


 あの戦隊ヒーロー番組の、ブラック様を愛していた女幹部の真似をして、悪い笑みを浮かべてみる。


 完璧だ。


「よし……っ!」


 ティーサロンでお茶を飲んでいたベルナールお兄様のところへ向かう。


「どうですかベルナールお兄様っ! どこからどう見ても『悪役令嬢』っぽいでしょうっ⁉」


 じゃーんと、両手を広げて、それからくるりと一回転をしてみせた。幾重にも重なっているドレスのスカート部分がふわりと広がる。


「悪役……かどうかはともかく、美しいよレベッカ」


「ありがとうございますベルナールお兄様。じゃ、わたし、戦ってきますっ!」


 すっちゃかちゃっと、出かけようとしたら、


「待て、一人で行くな。私も行こう」


 すっと差し出された手。


 お兄様お優しい……っ! 好き……っ!


 えへへと、思わず頬が緩んでしまう。


 お兄様の手にわたしの手を乗せ、そして、エスコートをしていただいて、馬車に乗り込んだ。


 行くぞーっ! おおーっ!





     ☆★☆





 やってきたのは貴族学園。その正門。


 登校する生徒たちが、正門をくぐり、それぞれの教室に向かっていく。


 わたしは教室になど向かわずに、その正門で仁王立ち。


 制服ではない、ゴージャスなドレスを身にまとっているわたしはすごく目立つ。


 今日はパーティがある日でもないし、ドレスを着用したダンスの授業がある日でもない。


 わたしの横を通り過ぎていく生徒たちは、当然みんな制服を着用だ。


 ちらちらと見られているが、気にしない。


 というか、ベルナールお兄様がそばについていてくださるから百人力。


 そのまま待つことしばし。


 腫らした顔に湿布でもしているのか、包帯を巻いている王太子殿下が、ヒロイン・エーヴ嬢と手を繋ぎながら登校してきた。


「お兄様は、後ろに控えていてくださいね」


「しかし、レベッカ……」


「お兄様についていてもらえるだけで、勝ったも同然です。それに、わたしには転生の女神様の切り札がありますから……」


 にっと笑ってから、王太子殿下のほうに、歩いていく。


 一歩、二歩、三歩……。


 先にわたしに気が付いたのは、ヒロイン・エーヴ嬢。


「レベッカさんっ! あなた、ひどいじゃないですかっ! ローランがなにしたっていうのよっ!」


 エーヴ嬢なんて無視してもいいんだけど、一応相手をしてあげよう。


「わたしにワインをぶっかけてきたのはその男よ。先に手を出してきたんだから、反撃されても当然よね」


 殴られる覚悟のある者だけが、殴ってきやがれっ!


 その勢いで、わたしは叫ぶ。


「ローラン・デル・ラモルリエールっ! 長年に渡り、わたしに芋虫やら蜘蛛やらをけしかけ、泥水をかけ、あまつさえ、ワインをドレスにかけるという狼藉。許してなんかやるものかっ!」


 更に、間髪を入れず、宣言する。


「貴様のような男など、このわたくしにふさわしくないっ! わたくし、レベッカ・ド・モンクティエの名において宣言するっ! 貴様との婚約など破棄だっ! 未来永劫、このわたくしの前に現れるなっ!」


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