俺、生まれ変わったら【カップ】になって、る、ね…
……俺は、カップ。
ファンシーショップで売られていた、容量300mlの陶器製。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、モテない男だった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、カップになりたい」
そう願ったのには、理由がある。
女子どもがキャピキャピしながら選んでいた、カップの連中が羨ましくて堪らなかったのだ。
顔も、名前も、姿も、何一つ覚えていないのに…カップに吸い寄せられるさくらんぼのような唇に憧れ続けた事だけは忘れられなかった。
カップですら生の女子の唇に触れているのにと恨めしく思った事と、何もしなくてもキスをしてもらえるなんて贅沢極まりないと憤慨した事だけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――あははwwwチョーウケる、これにしよ!!早速ポストしちゃお!!
俺は、いまどきのギャルに買われた。
なんでも大げさに騒いで、すぐにSNSで拡散する、何も考えていない高校生だった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
ギャルが選んだ俺は、クラスイチの底辺が愛用しているカップと同じものだったのだ。
おそろいだと茶化されて以来ギャルの嫌悪の対象に成り下がり、罵声を浴びせられるようになり…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……こんなもの見たくないからあげると母親に差し出された俺は、食器棚の片隅でたたずむ日々もいいものだと思い始めていた。
―――なあ、なんか余ってるカップ、ない?
実家の老いた親を施設に入所させた父親が、日常使いのカップを探していた。
軽いとすぐに動いてしまうだろうから、ある程度重みのあるものがよかろうと考えていた。
俺は願わずにはいられなかった。
「おいおい、そこはプラスチック製一択だろう…やめてくれ」
そう願ったのには、理由があった。
年老いて筋力の低下した高齢者に、落としたら割れてしまうカップなんて使わせるわけにはいかない。
プラスチック製がベストだが、要介護度も低いしこれでいいですよと受け入れられた。
買いに行く暇などないといってごり押しした父親の強気の姿勢が、心をえぐり続けている。
……食事介助をしてくれる人が注意してくれたら、事故は避けられるはず
―――よしおさん、ちょっと待っててね、ともこさんのおくち拭いてくるから
介助スタッフが、食事中の爺さんの目の前からいなくなった。
腹の空いている爺さんは汁気の足りない柔らかナゲットに手を伸ばし、咀嚼し切れなかったものをのどに詰まらせてむせ始めた。
お茶の入った俺に手を伸ばし、食べかすのこびりついたカサカサに乾いている唇を、寄せる。
俺の願いは…叶わない。
むせが止まらなくなった爺さんは、俺を掴んでいるだけの握力を維持することができなくなった。
干からびた右手から滑り落ちた俺は、きれいに掃除の行き届いているフローリングの上に…お茶と己の破片を派手にぶちまけた。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
こちらのお話とわずかにリンクしております(*'ω'*)
https://ncode.syosetu.com/n5491ip/
なお、2024/2月の投稿作品はすべて生まれ変わりをテーマにしています。
他にもおかしなモノに生まれ変わってしまった人のお話を書いているので、気が向いたら見てね!!
マイページはこちらです(*'▽'*)
https://mypage.syosetu.com/874484/
生まれ変わりシリーズはこちらです(≧▽≦)
https://ncode.syosetu.com/s7352h/