第捌話 显る綠鳥
「奴等、慌てふためいてますよ」
「は? 何で分かるん?」
「■国の諜報班から来てんだよ、最近の■国の動き」
「ほう、どんな情報来てるん?」
「んとな、なんか、█国から大慌てで戦艦買い取ろうとしてる」
「え、█国の艦船なんざたかが知れてる代物ばっかやん。何であんな何世代前か覚えてない戦艦なんて欲しがってんだ……?」
「それだけ急いで戦力を確保したいんだろ。なんでも■■湾攻撃で■国の太平洋艦隊今おらんらしいからな」
「はえー今■海軍全滅してんのw? なにそれおもろw」
「なw あの■国さんがあのザマとか笑える……けど、なんか上の方はすんげぇ神妙な顔してて笑える状況じゃないっぽい?」
「はぁ、そりゃまた何で」
「さぁ、その辺は俺等みたいな中間層にも教えてくれねぇ」
「ふーん……」
三月二十六日 十二時頃。
「アアアアアアアア!!!」
「Aaaaaaaaaaaa! ! !」
あれから数時間、現場は殺伐としていた。まさに阿鼻叫喚、血で血を洗う激戦が繰り広げられている。
右を向けば仲間が撃たれてて、左を向けば仲間が敵を突き殺していて……。
ついさっきなんか敵戦車目掛けて刺突爆雷をお見舞いしてた先輩も居た。
キササ市街地に強引に突撃してから大混戦に突入している。自軍もそうだが、敵軍も明らか統制が取れていない。
「そもそも俺、市街地戦嫌いなんよな……」
いつ何処の窓から撃たれるか分かったもんじゃない市街地ではほんっとに精神が磨り減る……。だって……。
ズボン!
「ギィァァァァァァァァァ!?!?」
ほら! こうやって曲がり角から戦車出てくるし! あーもう、ほんっとに嫌だー!
「A22 Mk.III じゃんかよしかも……」
で、でも、バレてないっぽいのでこっそり逃げることにした。こんな分弱な装備じゃとてもやってられない。うん。
……いや待てよ? 今後ろから奇襲すればこいつ鹵獲できるのでは?
いや、無いな。絶対危ないし、うん、止めとこう。
● ● ●
「赤松中佐、どうしましょう……」
「おそらくあと少しで作戦指揮所とかに当たる筈なんだが……なかなか進めないな……」
時刻は既に十五時を過ぎている。
泥沼の攻防戦が続く中、我々日本軍はなかなか最後の一手が決まらず苦戦を強いられていた。激戦の末、両軍共に大多数の被害が出ている。
「っ、!? 大和葉! 右!」
「は、はい!」
こうやって敵ときりの無い小競り合いを繰り返すだけ……。
やっぱり決定打に欠ける……!
「ぐわっ!?」
「だ、大丈夫か?」
「いてて……だから角から急に戦車出てこんといてって……」
「ここは分が悪い、一旦別のところに移動しよう」
「はい」
まともな対戦車装備を持ってないから戦車がどうしようも出来ない……。
え? 刺突爆雷……? っスー、知らない子ですね。
「どわっ!?」
「くっ、あいつ、僕達を追ってきてる!」
「There it is! Hurry up and destroy it!」
アイツッ! ほんっとに鬱陶しいやつだな!
でも本当に対抗手段が無いから逃げるしかない。そう思ってた矢先、赤松中佐が上を見上げながら急に止まった。
「赤松中佐! 何を――」
「シッ! ……何か聞こえないか?」
「え、な、何も……いや、確かに……?」
赤松中佐に言われて、遅れで俺もその音を確認した。
何か、独特な機械音……これは……プロペラ? ……まさか!?
「っ! 大和葉! 急いで建物に!」
「は、はい!」
「Don't let me escape––!」
俺と赤松中佐が建物内に飛び込んだ刹那、凄まじい轟音と共に俺等は建物の奥まで吹っ飛ばされた。
いってぇ……と思いながら振り替えるとそこには……。
「せ、戦車が大破してる……!?」
さっきまで威勢よく俺等を追いかけてたMk.IIIが上部を吹っ飛ばされていた。
「まさか! まさか……!」
「ど、どうしました?」
「急いで屋上に行くぞ! 大和葉!」
「え、あ、はい」
何かを確信した赤松中佐がかなり興奮気味になっている……。
そうして階段を上っている時、外からさっきのプロペラ音と共に何かが落下するような音も聞こえてきた。
それで気付いた。まさか……。
「んな」
「what! ?」
半ば慌てて屋上に上がるとそこには、スナイパー兵とサブマシンガン持ちがそれぞれ一人ずつ居た。
「Shit, turn into a beehive!」
「おわわわわ!?」
サブマシ野郎は俺等を見るや否や得物を乱射してきた。
俺と赤松中佐はそれぞれ左右にある室外機の陰に身を潜めた。
「Oralalalalalrrrrrr! Come on out! I'll torture you cutely!」
(大丈夫、今しがたリロードしたばっかやからもう弾が尽きる筈…………今だ!)
「うをおおおおおお!」
「what! ? It's coming out already! ?」
「懐もらったぁ!」
「Guaaaaaaaaaaaaaaaa!」
突撃して銃剣を相手の鳩尾目掛けて突き刺しそのまま抉り上げた。
「What a guy...crazy」
「何呆気に取られてるの、ちゃんとこっちを見ないと」
赤松中佐はそのままスナイパー兵の頭を三八で打ち抜いた。
「赤松中佐、あ、あれはもしや……」
「あぁ、間違いない」
落ち着いて上空を見ると、複数の機影が力強く飛んでいた。
緑の機体に誇らしく日の丸が描かれた双発機……風防がやや小さく感じる、尾翼に特徴的な黄色い目印が施された戦闘機……。
「隼と呑龍!? いや、コールドボーの飛行場からの応援は聞いてないし……別の飛行場? でもここいらではあそこしか無いよな……」
一式戦闘機「隼」、一〇〇式重爆撃機「呑龍」。日本陸軍の主力機による航空支援がこのタイミングでやってきた!
お陰で状況は一転、主に戦車等が爆撃機の餌食になっていってるのが見える。
しかし主要地点なだけあってか一部が対空砲火の的にされている。
「赤松中佐! 折角の援軍です。畳み掛けるなら今しかないかと」
俺は呆気に取られる赤松中佐に声をかける。
「……そうだな。一度、坦大佐を探そう。搔き集めれる人員を再編成して決着にしよう……流石に僕もキツイや」
「はい」
そう言って俺等は再び街を走り出した。