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暉郷の皇國  作者: 74式
第壱章 戰線狂曏
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第拾弐話 異績

 四月十九日 十八時頃。


 あれから航空機や艦船を乗り継ぐこと三週間弱、日本の大阪にやって来た。

 何気にこの世界の日本を訪れるのは初めてであるのだが、特にこれと言って前世と差異は無いように感じられる。と言っても昭和な雰囲気は流石に違和感であるが。

 大阪に着いてすぐ、赤松中佐は帝都東京に向かうと言って別れた。自分は迎えの者が来ると言うので暫く待つことに。


「貴様が第十五師団所属、大和葉陸軍二等兵か」

「うわ、は、はい」


 ぼーっと、灰色の空を眺めていたら背後から急に声を掛けられた。


「そうか、なら私の後ろを付いてこい。呉まで移動する」

「は、はい!」


 また移動かよ、と思いながらその人の後を歩く。急に現れて名も名乗らんと偉そうにーと思ったが、いらん事を言うと絞められそうなので押し黙ることに。しかし呉って確か――。


● ● ●


「失礼します」


 車に揺られる事数時間、やって来たのは広島の“呉鎮守府”日本最大級の海軍工廠がある所。

 何故そんな所に連れられて来たのか意味が分からずそのまま建物の中まで案内され、とある部屋に入ることに。


「大将! (くだん)の男を連れ只今戻りました」

「おお、戻ったか」


 案内された部屋の中に一人ドンと構えている、明らかに位の高そうな方がそこに座っていた。


「君は元の場所に戻りたまえ。私は彼と話しをする」

「は、失礼致します」


 そう言われ、案内してくれた人はそのまま部屋を後にし、俺と大将さんの二人きりとなった。気まずい。


「よく来てくれた、大和葉君。歓迎するよ。取り敢えずそこに座ってもらって構わない」

「は、はぁ、ではお言葉に甘えて……?」


 指さされたソファーに腰を掛け、大将さんと向き合う形に。


「自己紹介がまだだったね。私は糸兼(しがね)綾翔(あやと)、此処呉鎮守府の司令長官だ」

「大和葉世満和です……。ほ、本日一体どのようなご用件で?」

「あぁ、そうだな、結論から言うと上層部との話し合いで君は異動することが決定したんだ」

「え、なんか、その、左遷っすか? 何かやらかしましたでしょうか……?」

「ああいや、そういう訳ではないんだ。咩畑目が行ったウ号作戦、あの作戦なんだが海軍内では無謀だの期待出来ないなどと言って冷ややかな目でこの作戦を聞いていたんだ」

「そ、そうですか……」


 あまり話が見えてこないんだが、一体何故異動に繋がったのかまったく分からない。早くその部分を話して欲しいんだが。


「海軍ならまだしも大本営でも作戦中止の声が多数上がっていたそう。特に兵站問題についてはかなり声を荒げていたそうだ。それなのにも関わらず咩畑目は独断で作戦を遂行したと言う。幸い作戦は成功したが本作戦に動員された八割から九割の兵士が戦場で死んだ……それも餓死等が多くを占める結果に陛下は大変お怒りになられてる」


 確かに、あの作戦では多くの隊員が餓死や劣悪な衛生環境のせいで亡くなってしまっていた。

 キササから出る途中でも仲間だったであろう遺体が幾つも転がっていた光景は見るに堪えないものだった。


「私からも言いたい事は山ほどあるんだがね……あんな酷い惨劇の中で一つ、いや、一人と言うべきか、噂になった男の話を聞いてね」

「噂ですか……」

「分からないのかい? 君の事だよ。非常に優れた立ち回りで敵を攪乱(かくらん)させ勝利に導いた戦略家と伺っている」


 一体全体どっからそんな尾ひれが付いて来たんだろうか……ずいぶんな拡大解釈をされてるらしい。


「それで、一体俺にどうしろと言うんですか?」

「それがな、一番興味を示していたのが陛下御自身でな。作戦報告書にずっと見入っていて、君を是非とも太平洋戦線で作戦立案での助言をしてもらいたいと仰ってたそうだ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 最前線中の最前線じゃないですか! そんなん事実上の左遷となんら変わらないじゃないですか」


 急に何を言い出すかと思えば異動先が太平洋戦線とか信じられない場所じゃねえか。

 そもそも俺そんな偉い位の人間じゃなかった筈なんだが、いくら何でもトントン拍子で話が飛躍し過ぎじゃないか……?


「まぁそう言うのも無理はない。今一番の激戦区ではあるしな」

「そんな他人事みたいに言われても……命が懸かってるんですよ?」

「皇国の為ならむしろ喜ばんか。咩畑目なんか汕汰(サンタ)に左遷させられてるんだからよ。期待されての異動はむしろ名誉であるぞ」

「は、はぁ……」


 やっぱり帝国時代の考え方は到底受け入れられない。どうして俺がそんな面倒な事をしなくてはならないんだ。

 なんならあの戦い殆どハプニングの連発がたまたま良い方向に転がっただけまであるしな。

 俺は本当に何もしていない。


「という訳でだ。君には次の作戦である『ミッシュミェアー諸島攻略作戦』の図上演習に参加してもらいたい」

「いや、だから――」

「何も心配する必要は無い。私の友人もそこに参加するから話はつくさ」


 拝啓、親愛なる友人達よ。次は海の上に左遷させられるらしいです。命の保証はありません。


「大和葉水兵長に命ずる。次号作戦に於けるミッシュミェアー諸島攻略作戦に参加し帝国に於いて絶対的な優位を確立せよ!」

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