第拾話 暓謀な作戦『キササ』
あれから二層、三層と順調に進んでいった。
しかし、不思議なことに道中一切敵がいなかったのだ。だからそのまま素通りしたのだが……。
「不気味ですね……この長廊下を進んだ先に空間があり、その下の層に奴等のキササ方面に於ける作戦司令室が存在する筈なんですが……」
「ふむ……これは俺の長年の勘なんだがな、めっちゃやばい事が起きる気がする……」
坦大佐が当たり前の事を言う。
実際、何とも言えない異様な空気が辺りを漂っているのだから。
……というが実際先の奇襲に近い突撃に加え、ナイスなタイミングで航空隊の支援があったお陰で電撃的にキササの部隊を殲滅、陥落寸前まで持ってったのだから、司令室に残存戦力が集うに決まってるか……。そう思っていた矢先だった。
突然、坦大佐が左拳を挙げた。止まれの合図だ。
「待て! 何か聞こえないか?」
「……微かに何か聞こえますね……何の音でしょうかこれは」
微妙に錆びた金属が擦れるような音がする。
この不気味な音の正体は意外にすぐに判明した。
「まあいい、先に進めば分かる事だばい」
「まぁそれは――ん? ……っ! 大佐! 伏せて!」
「ぬぅっ!?」
「うわああ!?」
突如、壁とも思えるような凄まじい弾丸の雨が此方に飛んできたのだ!?
「くそう、あの阿保共め、一直線の道やからてそれはなかろう! 暗いし布に隠れおって卑怯な!」
「坦大佐、大和葉君! 伏せてて下さい! ……ォラァッ!」
冷静に状況を見ていた赤松中佐が声を上げ、手榴弾を投げた。
「No, that's bad!」
「ぐっ」
直後、炸裂。
「やったぞ……」
「此処は……これで行き止まりかな? 袋小路にされるか思たけどそうでもなさそう?」
「ちぃ、面倒な奴等だ。さっさと首を差し出せばいいものを……」
敵兵の奇襲を跳ね除け、俺達が引き返そうとしたその時だった!
「Charge! ! !」
「な、マズい! 応戦!」
「くっ、殺ってやる!」
爆破の影響で壁が崩れ、その外側に存在した空間があらわになった。その空間から大量の敵兵が、光物等を持ってこっちに来る!
まさかの二段構えとは……想像出来ねぇってよ……。
「クソッタレ、殺ってやんよぉぉ! 此処が貴様らの墓場じゃぁああ!」
それでも俺は、自分を鼓舞する様に雄叫びを上げ敵に向かった。
⦅彼奴……大佐を務める俺でも分かる……かなりの猛者だ! あの目は相当覚悟が極まってる奴じゃないと出せん覇気だ⦆
「くそう、いつまで湧いて出て来やる……いい加減に――っな!?」
「The numbers are different here. Die! ! !」
マズい、背後を取られてた!
俺はやられると思い腹に力を込めた。
「おらぁこの野郎! そいつは殺らせねぇよ!」
「Aaaaaaaaaaaaa」
「う、うお……あ、有難うございます」
危なかった、坦大佐のフォローがなけりゃ死んでいたところだった。
「いいってことよ。それより、まだまだ敵が多いぞ、やれるか」
「はい、お任せを」
「よし、行くぞ!」
坦大佐の掛け声と共に地面を踏み込み、俺たちは一斉に突撃した。
「Hey, it’s early! ?」
「Don't get distracted! You'll get hit!」
「甘い! それじゃこの俺は討ち取れんぞ!」
何気に初めてしっかりと坦大佐の戦闘を見た気がするが、一言で表すなら嵐みたいな人だった。
しっかり相手の急所を狙いつつ自分は狙われにくくなるよう立ち回りが工夫されている。
「すげぇ、流石大佐なだけはある」
「おぉ? なんか言ったか?」
「あぁいえ、何も。凄まじい戦いっぷりだなて」
「そうだろうそうだろう」
坦大佐が分かり易く鼻を伸ばして油断してる時だった。
「坦大佐! 大和葉君!」
「ん?」
声を掛けられ赤松中佐の方を見ると、そこには一人の足を負傷した敵兵がいた。
「此奴……司令官のマチャソ・ラキオーラか」
どうやら、此処の司令官のようだ。
おそらくは赤松中佐が押さえたのだろう、既に非武装化され戦える状態ではなかった。
「Damn it, if you're going to kill me, kill me!」
「大和葉君、なんて言ってるか分かりますか?」
「なんとなく……殺すなら殺せだと仰ってますね。どうします? 坦大佐」
仲間を殺られ、壊滅状態の中、命を乞う訳でも一矢報いる訳でもなく、とても静かに命を差し出す言葉だった。
「I say nothing about my country! When you take me prisoner and torture me, the only thing I say is, “Kill me!” is that. That's it. That's it. That's it!」
「殺せと言ってますが……どうします? これ」
「ふむ……一旦は捕虜にして捕えておこう。その後の処遇はこの戦いが終わってからだ」
「はっ、了解です」
その指示の下、赤松中佐が彼の手を縛る。
「No, no, no! Our army is not soft enough to fall into your hands like this!」
「っぐ、貴様! おとなしくしやがれ!」
司令官の男が必死に抵抗する……が、すぐに捕縛されてしまった。
「よし、これでようやく任務を終えれる。赤松、各員及び本部に連絡を飛ばせ」
「は、了解です」
これで、ようやくこの世界のウ号作戦が完了したんだ。 しかしとても綺麗な勝利とは言い難かった。
後から聞いた話だが、南部に展開していた第三十三師団と北部の町フヌカバドバスに進軍していた第三十一師団は大敗し撤退したらしい。航空隊の援護も、南北の敗北を聞いた部隊長の独断による判断での支援だそうな。
何はともあれこの命があった事に、今は感謝するしか無かった。
三月二十六日 十七時頃 大本営発表
《キササ二於ケル“ウ号作戦”、成功セリ。我軍ハ、着実二連合軍ニ損害ヲ与エテイル》
※外国語の部分は翻訳サイトからのコピペですので、違和感等あるかもしれませんが何卒宜しくお願いいたします。
m(_ _)m




