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再び出会う

 狼に姿を転じたギルベルトを魔物は執拗に追う。

 人の姿より早く走れるはずだが、それでも振り切ることはできない。

 いいや、これでいい。ついてこい。イリスから遠く離して、その上で千々に切り裂いてやる。

 うねうねとした動きだった。この森の中で蛇でも大量に食ったのか。体躯も長く地面を這ってくる。

 魔物の体内には核がある。それを壊さない限り倒せない。どれだけ斬っても再生してしまう。

 だから無闇な攻撃は意味をなさない。狙うのは、ただ一瞬。

 いざギルベルトを食わんと魔物が大きく口を開き、首を伸ばした。その瞬間ギルベルトは身を翻し、半獣の姿へと変化して魔物へと飛びかかる。爪の一閃で首を落とし、その胴をも切り裂いていく。

 確かな手応えがあった後、魔物の身体は崩壊を始めた。息を吐き、ギルベルトは再び狼へと姿を変える。

 半獣の姿は強い力を振るえる一方、体力の消耗が激しい。長時間あの姿で戦うことはできない。対し、獣の姿は体力の温存に適している。

 ひとりで残してきたイリスのことが気に掛かった。セパヌイール出身の彼女は魔物に関する知識が乏しい。疲弊した身体に活を入れ、元来た道を駆け出した。

 走りながら、自嘲する。聖剣を持つイリスは無類の強さを誇るのだ。こうしてギルベルトが魔物を引き寄せなくても、彼女なら自力でどうにかしていたはず。

 以前のギルベルトなら戦える者に余計な手出しなどしなかった。自分の戦いに集中できた。

 なのに、無意識に動いてしまった。彼女のことを決して侮ってはいないのに。

 また怒らせてしまっただろうか。

 その顔を思い浮かべ、花の香りを感じた。

 幻、と思った。けれど次の瞬間、その姿が実体を持ってギルベルトの前に現れる。疾駆するギルベルトとすれ違い、刹那に合った翡翠色の目線が驚愕で見開かれた。

 互いに立ち止まって振り返る。肩で息をする彼女がギルベルトを追ってきたのは明白だった。

 イリスは気まずそうに視線を落とした。しかし、すぐに剣士の表情を取り戻す。

「君も本作戦に参加していたのか。何故ひとりでいる? 仲間はどうした? はぐれたのか?」

「え、いや……」

 言い止し、思い出した。イリスはこの狼の姿をギルベルトではない別人だと思い込んでいる。ギルベルト自身もまた気づいたばかりで真相を話す暇がなかったが、今ここでそれを言うべきだろうか。

 迷っている間に、イリスは話を先へと進めてしまう。

「わたしも殿下を見失ってしまった。魔物に襲われたんだ。殿下はわたしを庇って、囮になって……。おこがましいことは重々承知だが、心配なんだ」

 怒ってはいなかった。こんな時なのに嬉しくなって、尻尾が揺れそうになってしまう。

「君も単独行動では危険だろう。殿下と、君が組んでいた仲間を探す間、わたしと共にいないか?」

 そう言って、イリスは苦しげに表情を歪めた。

「……君にこんなことを頼める立場ではないのはわかっている。本当に申し訳ないことをした。君の気持ちは嬉しかったんだよ。それは嘘じゃない。でも、叶うなら、君とはずっと友達のままでいたかった……」

 この姿で、ギルベルトはイリスに気持ちを伝えた。そのために彼女を思い悩ませてしまった。まさか別人だと思われているなどとは想像していなかったとはいえ、悔やまれることだった。

「イリス、俺は――」

 真実を伝えようと、人の姿に戻ろうとした時だった。遠くから、微かに何かが聞こえた。――人の悲鳴。

 誰かが襲われている。イリスもその声を捉えたのか、互いに目を見交わした。そして頷き合い、無言のまま同時に駆け出す。

「一体は倒した。だが、まだ複数いる可能性がある。警戒してくれ」

「承知した」

 走りながら忠告するとイリスは素直に頷いた。先ほどまであった気まずさも、今は消え失せている。

 救うべき者がいる。そうなった時の彼女の眼差しは一等美しい。

 そうだ、この目に惚れたのだ。苛烈にして優美。強さと優しさを併せ持つ瞳の輝き。

 彼女の隣を走れることを、誇りに思う。

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