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3.


《「めっそうもございません」》

《「助けていただきありがとうございます」》

《黙って震える》


視界に現れた選択肢は、どれもゲームに出てきたのと同じ色をしていて、特に危険な雰囲気はないように感じられた。

ならば、ここは好感度アップ選択肢を選んでおきたい。ミルカの最終目標は逆ハーなので各攻略対象者の好感度アップは不可欠であるし、学園生活を送るうえでも、悪役令嬢エルネスタがミルカを好ましく思っていないと言動で示している中で、彼女に比肩する権力を持つロヴィーサとの仲を深めておくことは破滅を回避するために有効である可能性が高いからだ。

「助けていただきありがとうございます」

ミルカが好感度アップ選択肢を選ぶと、一言一句同じ言葉がミルカの口からすらすら出てきた。ゲームの強制力というやつかもしれないな、とミルカは思う。

「これくらい、どうということもありませんことよ。アイヒェンドルフ公爵令嬢はあのようなことを言っていたけれど、お前は平民の生まれなの、ミルカ?」

「おっしゃる通りでございます。聖魔法の適性が発現したため、ダールアイアー侯爵の庇護のもと魔法学園にて聖魔法を修得することになっております」

「おかしいわね」

ミルカの返答に、ロヴィーサが首をかしげる。

「聖魔法の適性は、貴族の血が流れていなければ発現しないはず。お前、誰か貴族の落胤なのではなくて?」

これは遭遇イベントで提示されるミルカの謎だ。実際にロヴィーサの言う通りで、平民のミルカに聖魔法の適性が現れることはまずありえないことであった。しかし、ミルカがかつてプレイしたゲームでは、最後までミルカの出自が明かされることはなかった。もしかすると、プレイ経験のない王子ルートや裏シナリオで明かされるものなのかもしれない。

しかし、「何も知らない」状態である今は、ロヴィーサの疑問に対して出現するこれらの選択肢から選ばなければならない。


《「いえ、私は両親ともに血がつながっております」》

《「そうかもしれませんね」》

《「先祖のことは、あまり教えられていないのです」》


「!!!」

ミルカはまたしても驚かされた。好感度アップ選択肢《「私は両親とも血がつながっている」》以外の二つが赤黒く染まっている。

(どうして!?好感度アップ選択肢でなくても危ない選択肢があるってこと?)


「いえ、私は両親ともに血がつながっております」

「そう、興味深いわね。談話室にわたくしのサロンがありますから、今度そちらでお話しましょう」

「お誘いいただきありがとうございます。是非ともうかがわせていただきたいです」

「後日改めて使いをやります。それでは。皆様、突然の訪問ごめんあそばせ」

ロヴィーサはそう言って話を切り上げると、さっと背を向けて教室を出て行った。


ミルカは深々と頭を下げてロヴィーサを見送りつつ、先ほどの選択肢のことを考える。

さっきの好感度アップ選択肢には重要な意味があり、ここで正解を選べばロヴィーサのサロンに招かれ、ミルカはロヴィーサの寄り子として関係を深めてゆく。しかし、ゲームではほかの二つを選んでもロヴィーサはさほど興味を示さないのだ。

ということは、ロヴィーサが怒るかどうかではなく、「ミルカの先祖について言及すること」が選択肢の変化に関係しているのではないか?

王子との会話では、王子の好感度アップにつながる選択肢が赤黒く染まっていた。これらに共通することはなんだろうか。

そこまで考えたミルカはようやく頭を上げ、席に座りなおした。その時、ふとミルカの脳裏にあの忌々しい記憶がよぎる。


「いいか、この世界は『ゲーム』ではない」

「そろそろ現実を見ることだな」


(…もしかして)

ミルカは前世で破滅したのはなぜだったか。幸せになろうとしたから?逆ハーしようとしたから?悪役令嬢が転生者だったから?いや、きっとそれは原因の一つではあったけれど、根本的な原因は別のことだった。


「男爵令嬢の、しかも庶子の君がどうして王太子に近づいて、あまつさえ情愛を結べると思っていたのかな?」


王子に近づこうとした選択肢と貴族の落胤であることを否定しない選択肢は、いずれも身分をわきまえていないと思われかねないものだ。前世で破滅した根本的な原因は身分をわきまえなかったこと。男爵の庶子でありながら、何も考えずに高位貴族にアタックしていったこと。現世でも同じように、侯爵の養女とはいえ平民の出でありながら王族に近づいたり、自身が貴族の血を引く可能性をちらつかせることが不敬であるととらえられれば、待っているのは前世の二の舞かもしれない。

「では、あの赤黒い選択肢は破滅フラグということ?」

ミルカはひとりごちた。


ともかく、想定外に早く遭遇したとはいえロヴィーサの好感度アップに成功し、後ろ盾を得られそうなのは朗報だ。

三つの事例から、赤黒く染まる選択肢は破滅への入口である可能性もわかった。

(それに、やっぱり逆ハーは憧れだもの。そう簡単に諦めることなんてできない)

ミルカは心の中で己に誓う。


(破滅フラグがわかるならむしろ僥倖よ、今度こそ絶対に幸せになってやる!目指すは逆ハー!…無理のない範囲で)


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