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2.

前世で破滅した経験と、さっき出現した選択肢のことを考えると、やはりこの世界も乙女ゲームそのままではないのかもしれない。

とにかく今は情報が欲しい。そのためには、入学式の後にクラスで人間関係を構築することが不可欠だろうとミルカは考えた。

幸い、ほかの攻略対象との遭遇イベントはもっと後に発生する。メインに位置づけられる第一王子ルートの遭遇イベントだけが特別に入学式前に設定されていて、だからこそミルカは情報がないまま行動しなければならなかったのだ。

乙女ゲームのことはいったん忘れて、学園生活を充実したものにするために頑張ろう。ミルカは入学式の会場である講堂へ急いだ。


「ミルカ・ダールアイアーです」

入学式が終わり、振り分けられたクラスで自己紹介の時間である。ミルカが名乗ると、教室全体が少しざわめいた。

ミルカの境遇が少し特殊であることは、その容姿と名前が明確に示していた。貴族に生まれた者は、家名と同じイニシャルの名前を付けられることが一般的とされている。ダールアイアー家の場合、生まれた子はDから始まる名をもらっているはずなのだ。ミルカがダールアイアー家の実子でないことは明らかだったのである。

ミルカはクラスメイト達のほうを向き、目を大きく開いて見せた。その白い瞳を見て、教室はさっきよりも大きなざわめきに包まれた。

「聖魔法の適性がありましたので、ダールアイアー家の庇護のもとこちらで学ばせていただくことになりました。不束者ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」

ミルカはそう言って軽く頭を下げ、席についた。

自己紹介の時間は淡々と進み、特に大きな問題もなく終了した。やはり身分差を考慮されているのか、このクラスには伯爵家以上の者しか在籍していないようだ。

つまり、侯爵家養女という立場を勘案しても、平民の出であるミルカがおそらく一番身分が低いということである。これはまいったなとミルカは内心焦りを覚えていた。なにしろ、身分が上の人に話しかけられるまでこちらからは何もできないのだ。ゲームではほとんど攻略対象の教室や生徒会室に入り浸っていたから、ヒロインが在籍しているクラスのことはあまり知らなかった。


「ダールアイアー侯爵令嬢」

呼びかけられたミルカは顔を上げて、慌てて最敬礼をとった。

「顔を上げてよろしくてよ、ダールアイアー()()()()

少し嫌味っぽい物言いにカチンときたが表情に出すことなく、ミルカは薄い微笑みを張り付けて顔を上げる。

波打つプラチナブロンドの髪、ルビーレッドとサファイアブルーの二色に分かれたダイクロイックアイ。間違いない、この女がゲームにおける悪役令嬢だ。

「アイヒェンドルフ公爵令嬢、エルネスタですわ。お前の名は?」

「ダールアイアー侯爵令嬢、ミルカと申します。アイヒェンドルフ様」

「エルネスタでよろしくてよ、ミルカ」

「ありがとうございます。エルネスタ様」

「お前、聖魔法の適性があるのですってね」

「未だ適性があるのみでございます。二属性魔法をお使いになられるエルネスタ様には到底及びません」

「そうでしょうね。希少な聖魔法の適性も、研鑽しなければ無用の長物。その大きな胸で稼ぐ羽目にならぬよう、努力しなさい」

ミルカは笑顔の仮面が剥がれそうになるのを必死にこらえた。公爵令嬢にあるまじき下品な発言で侮辱されたのだ、本来ならすぐさま訂正を求めることができる。しかし、この悪役令嬢がただの悪役令嬢か転生者かはっきりしていない状況で波風を立てることは避けたい。今は我慢の時だとミルカは自分に言い聞かせた。

「ありがとうございます、エルネスタさ――「アイヒェンドルフ卿はご息女にずいぶんおもしろい教育をなさっているようね」

ミルカの返事を遮るように、聞き覚えのあるセリフが割り込んできた。


「誤解があるようですわね、ロヴィーサ様。わたくしはただ、この者の行く末を案じていただけですのに」

「その割にはずいぶんとはしたないお言葉遣いをされているように聞こえましたわ。それとも、アイゼンシュミットでは美しい女性のことを売女と表現するのですか?」

「…言葉が過ぎましたわ、ミルカ。わたくしたちのために、その力を磨き貢献なさい。それでは」

ミルカを使用人扱いするかのようなを残して悪役令嬢は去った。


「紹介が遅れましたわね。わたくしはリリェバリ公国第一公女、ロヴィーサです。お前は?」

「ダールアイアー侯爵令嬢、ミルカと申します。第一公女殿下」

ミルカはそう言って最敬礼をとった。

隣国リリェバリ公国から留学しているロヴィーサ第一公女は、ゲームにおける攻略対象である。本来の遭遇イベントはもっと後で、今のようにエルネスタに虐められているところを助けに来てくれるところから関係が始まる。腰まである銀髪に赤い瞳の可憐な少女だが、見た目に似合わず高飛車で毒舌家。しかし、懐に入れたものは必ず守る情に厚い人で、好感度が上がるとヒロインにだけ甘えてくれるようになる。

「ロヴィーサでいいわ、ミルカ。さっきは災難だったわね」

やはり聞き覚えのあるセリフ。かなり早いけれど、これが遭遇イベントになるようだ。そしてゲームでも見た選択肢が視界に現れた。


《「めっそうもございません」》

《「助けていただきありがとうございます」》

《黙って震える》


選択肢を見て、ミルカは妙なことに気づいた。


(あれ?好感度アップ選択肢も変な色になっていないな?)

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