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八、リアルマッチ

 重い鉄格子の門扉が開く。

 ダハンは歩みを進め、そこに佇むミルキィを見た。



 開始の合図を待つ、この瞬間が一番ヒリヒリする。ダハンは背中に背負った両手剣を構えた。相手はゴーレム、エブレールにいた時代に何度かゴーレムと戦った経験がある。


 魔王ギデオンに襲撃されたときにもゴーレムは居た。あいつらは無慈悲に人を殺した。感情などない、ただの殺戮マシーンだ。命令されそれを遂行するだけ。

 ゴーレムとの戦闘は久しぶりだ、あいつらはその巨体から繰り出される力と頑丈な身体を持っている。片手剣やダガーなどの軽い武器では傷を負わせられない。


 それに関しては幸いだった、ダハンが得意とする両手剣の一撃は、何体ものゴーレムを倒した経験がある。どこかに四肢を制御する中心核があり、それを破壊すれば動きは止まる。ダハンは対峙したゴーレムを分析した。

 見たところ、銅や石などで造られた身体。パワーはありそうなものの動きは緩慢だと思われる。四肢を切り落としても復活するかもしれない。復活する隙を与えないよう連続で押し切るしかないだようだ。


 あのゴーレムに何か恨みがあるわけでもない。しかしゴーレムの姿を見たときダハンの脳裏にエブレールが陥落した記憶が蘇った。

 圧倒的な敵の数、エブレールの城下町を焼き尽くしたあの戦火。突如として襲ってきた魔物、逃げ惑う国民を守るためダハンは謎の軍勢と戦った。

 敵には何人もの覚醒者もいた、それが軍隊となって襲い掛かってきた。軍事国家であるエブレールには強力な兵器も生きる伝説となった覚醒者もいた。一人の力ではどうすることもできない程の戦力差。絶対的不利。それでもダハンは戦った、一人の兵士として。

 しかし大国エブレールはたった一日で陥落したのだ。このゼレントでも強国として有名な軍事国家エブレールが。



 ダハンは持った剣を強く握る、エブレール陥落から十年、国を失ったダハンは剣一本だけでこの身を立てて来た。家族はエブレール陥落の際に殺され、国も家族も戦争によって失われた。ダハンに残されたもの、それは自分の身だけだった。


 一度は冒険者に身を置いたものの、依頼内容は様々でどうしても性に合わなかった。そんなときギルバインで闘技場が開催していると聞く。ダハンは戦いこそが人生であると考えた。しかし魔王ギデオンを討伐出来るほどの腕があるわけでもなくエブレールが敗北したときそれを悟っていた。


 自分の斬撃が弾かれる可能性もある。そうならないためにも覚醒能力を使い始めは様子見を考えた。

 ゴーレムの力は侮れない、あのエルフには悪いがこのゴーレムは破壊させてもらう。


「おい、石ころ。悪いがお前を破壊する」


 闘技場は熱気で溢れかえってきた、観客は久しぶりのリアルマッチで興奮を隠せない。


 リアルマッチ、これは全力を出していい勝負である。普段は覚醒者である者が優位に立ってしまうため覚醒能力は使わないノーマルマッチが多い。

 そうしなければ公平な勝負にはならず、一方的な勝負になってしまう。ダハンの能力を考えれば当然の結果と言える。


 しかしリアルマッチとなると魔法でも暗器でも使い放題だ。勝てば良い、それだけだ。どんな手段を使っても勝てば良いのだ。



 観客は今それぞれに賭けているに違いない、ダハンは掲示板に目をやった。

 9対1

 それが自分とゴーレムの期待値という事。大穴狙いでゴーレムに賭けている連中もいる事か。残念だったなとダハンは思う。万が一にでも自分が負ける事は無い。



 賭けが終了する鐘が鳴り響く。まもなく試合が開始される。二度目の鐘が試合開始の合図だ。開始早々、先制攻撃を仕掛ける。ダハンは距離を置いて覚醒能力を使う予定だった。



 カーン



 試合開始の鐘が闘技場内に鳴り響いた。

 その鐘が鳴りやむ前にダハンが動いた。ダハンは左手に精神を集中させ魔力を集める。それは小さな球体を作りミルキィに投げつけた。


 大きな爆音と砂煙が舞う。


 ダハンの覚醒能力、爆発球だ。

 威力は凄まじく闘技場内にその音が響く、それに呼応するかのように観客が叫びをあげる。


「さすがダハン!」

「すげぇ爆発だ!」


 観客が騒ぐ、しかしダハンは気を抜かない。再び左手に魔力を集め、爆発球を作り出す。


「すげぇ! 連続攻撃かよ!」


 観客からの歓声が闘技場を熱くさせる。

 ダハンは球体を作りまたそれをゴーレムらしき影に投げつける。砂煙でゴーレムの姿は見えないが天井から照らされた照明でそれだとわかる影があった。

 まだ人型を保っている、並みのモンスターなら一撃で仕留められる程の威力を込めたつもりだった。しかし相手はゴーレム、もしかしたら当たり所が浅かったのかもしれない。

 ダハンは何度も爆発球を作り出し、ミルキィに投げつけた。


 ダハンの魔力量はそう多くない、魔法を得意とするエルフには到底及ばない。しかしなるべく近接戦闘は避けるべきだと戦闘経験からそう悟っていた。接近戦では身体の大きさが左右する。ありったけの爆発球を作り出し、奴に投げつけた、運が良ければこれで勝負が終わる。ダハンはそう思っていた。


 何度も闘技場内で爆発が起こる、観客にも砂や爆音が届く。観客はその爆発の度に歓声を上げ闘技場内は人の声に溢れかえった。


 ダハンは額に汗をにじませようやく左手を下した。さすがの砂煙で相手の姿が全く見えなかった。魔力を消費すると身体に急激な疲労感が襲ってくる。しかしダハンはその疲れを見せず両手剣を構える。兵士は最後まで気を抜かない。エブレール時代にダハンが上官に教わった事だ。


 砂煙が落ち着き、奴が姿を現す。


「ば、馬鹿な」


 あのミルキィと呼ばれるゴーレムはこちらを見て立っていたのだ。それも無傷で。


「無傷だと! そんな馬鹿な事があるか!」


 ダハンは困惑しながらも冷静にミルキィに斬りかかった。そんな馬鹿な、全力の爆発球を何度も受けたはずだ。あの短時間に修復したのか。ありえない。魔王軍と戦った時でもそこまでの回復力は無かったはずだ。

 ダハンの斬撃がミルキィの頭部を狙う、しかしそれは空を切った。

 ミルキィは斬撃を軽々と躱したのだ。


「ありえない!」


 踵を返し下段斬りを放つ。しかし寸でのところでこれも躱された。バランスを崩したダハンは身構える。反撃が来た際に背中に攻撃を受けてしまう。咄嗟にダハンは左手に爆発球を作り出す。先ほどまでの魔力まではいかないが目くらまし程度にならなる。

 しかしそれも不発に終わる、ミルキィはダハンの左手を握ってきた。


「なんて速さだ」


 ダハンはそう思った。このゴーレムの力を侮っている訳ではない、このまま左手が握りつぶされる可能性も視野に入れた。しかしその手は軽く握られているだけで、一向に動く気配がない。


「どうして私に攻撃を仕掛けるのでしょうか」


 ミルキィはザハンに話しかけた。ダハンは困惑しながらも、その手を必死に払う。簡単に振り払える、つまりこのゴーレムは手加減をしているのだ。


「私に交戦の意思はありません。マスターへの振る舞いを謝罪頂ければ幸いです」

「ふ、ふざけるな!」


 ダハンは両手剣を強く握り再び頭部を狙う。刹那ミルキィの右手がそれを防ぐ。ガキンと固い音が響く。

 剣技には自信があった、この闘技場の中でも自分は高ランクの剣闘士、しかも両手で振った剣。それを防ぐ剣闘士もそうは居ない。しかしこのゴーレムはそれを易々とやってのけた。どういうゴーレムなのだ。このゴーレムの戦闘力が全く計れない。


「何故、反撃しない!」


 ザハンはミルキィと距離を取った。


「戦闘行為の中止を進言致します」

「この岩石野郎が!」


 ダハンの斬撃がミルキィを襲う、闘技場内に激しい剣戟の音が響く。

 初めは歓声をあげていた観客たちも唖然とした顔で闘技場の二人を見ている。あのダハンが苦戦している、そんな声がどこかからか聞こえてきた。

 力任せの攻撃は当たれば威力こそ高いが振りは遅い、ダハンは斬撃の種類を変えた、今までは叩き斬るための斬撃、これからは切っ先だけを掠らせる斬撃だ。

 切っ先は早く如何に俊敏なゴーレムと言えすべて躱す事は容易ではない、ダハンはそう思っていた。そしてダハンの斬撃はミルキィの四肢に当たり出した。

 先端だけで斬る、両手剣よりも片手剣が得意とした斬撃だ。しかしダハンはこれを重い両手剣でやってのける、これだけでもザハンが相当な手練れだという事が見て取れる。

 いつしかミルキィは攻撃の回避を止め、頭部をガードし防御態勢を取っていた。


「どうしたゴーレム!かかってこい!」


 当たり出した斬撃に気をよくダハンは尚も激しい斬撃を繰り出す。しかしわかっていた、このままではジリ貧となりこちらに分が悪い事を。魔力も消費し、斬撃によるスタミナの低下、しかしこのゴーレムはパンチの一発の繰り出していない。

 それにいくら四肢を切り裂いても弱点であろう頭部への斬撃は一つも当たっていない、ダメージはほぼないと言ってもいいだろう。


 少しの間だけこのゴーレムの気をそらす事が出来れば、ありったけの魔力を込めた爆発球で頭部を吹っ飛ばしてやる、ダハンはそう考え、期を伺った。


「戦闘行為の中止を進言します」


 ガードを固めながらもミルキィはダハンに進言してきた。

 ダハンは斬撃を止め再び距離を取るために後ろへ下がった。


「これ以上の戦闘行為は無意味です」


 ダハンは息を整え、握った両手剣を地面に突き立てた。両手で残った魔力をかき集める。


「俺に勝ったらあのエルフの嬢ちゃんに謝ってやるぜ」


 そう言うが早くダハンの爆発球がミルキィの頭部目掛け空を舞った。


「わかりました」


 それを軽く躱すミルキィ、身を乗り出しダハンへと距離を詰めた。

 これを待っていた、ダハンは踵を返し、突き刺していた両手剣で頭部目掛け重い一撃を放った。



 激しい爆音が闘技場にこだました。ダハンが放った爆発球が闘技場の壁にぶつかった音である。その音に紛れて小さな音が鳴った。


「ぐえ……」


 ダハンの腹部にミルキィの重い拳が深々と刺さった。ダハンは口から胃液をまき散らし、その場に倒れた。

 静まり返った闘技場、そして大きな歓声が巻き起こった。


 一撃、ミルキィはたったの一撃で剣闘士の手練れダハンを倒してしまった。


この度は私の物語をお読み頂き、本当にありがとうございますm(*_ _)m


レビューやいいね、ご評価頂き、またご感想等頂けますと大変励みになります。


レビューや感想が面倒であれば、いいねや評価だけでも作者は大喜びで部屋を走り回ります笑


皆様が面白いと思える物語に仕上げて参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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