六十八、首都アーデルハイドへ
フィリザードの目の前にミルキィ、セリカ、そしてシダが立っていた。フィリザードは右手を差し出し、机の前のソファーを指す。三人はフィリザードの指すソファーに腰かけ、無言のままフィリザードは立ち上がり三人の前のソファーに腰かけた。
「コーデリア、三人にお茶を」
コーデリアは、はいと頷き部屋を後にした。
しばらくするとコーデリアが人数分の紅茶を用意し、四人がかけるテーブルに置いた後、軽く会釈をして部屋を出ていった。
フィリザード出された紅茶を一口飲む。そして前のめりに身を乗り出し、膝の上で両手を組んだ。
「さて、話とは一体……? ギルバインの英雄が二人揃って私に話など……ただの表敬訪問には思えませんが」
「本日はお願いに伺いました」
「お願い?」
ミルキィが口を開いた。フィリザードは直接ミルキィと話すのはこれで二回目、Aランク冒険者へと昇格した際に一度会っただけである。
ミルキィの話は以前からラザラスから聞いていたし、『ギルバインの奇跡』をギルドの屋上からすべて見ていた。ミルキィは自分の力など必要としていないのは理解出来た。
とすると必要なのは、『力』ではなく、それ以外のモノである。
「はい、私はゴーレムです」
「それはラザラスからも聞いておりました。何でもレプロスという博士があなたを造ったと」
「はい、レプロス博士に私は造られました。そして以前は孫娘のマーリーと三人で暮らしておりました」
ミルキィはゆっくりと話を続けた。
ミルキィのお願いはこうだった、レーデンが言った『RED』という謎の言葉。そしてそれにはアーデルハイド公国がかかわっている。冒険者ギルドの力を借りて、本国アーデルハイドで『自分が何者なのか』が知りたいと。
ミルキィは自分の分析と推理も含め、フィリザードへすべて話した。
「なるほど……つまりアーデルハイド公国が何かを隠していると言う事ですね。そして『RED』という謎の言葉がレプロス博士とレーデンを繋いでいると」
「はい、隠しているという言い方が正しいかはわかりません、しかしそれは魔王軍とも繋がっているように思えます」
セリカとシダは、ミルキィの言葉に反応した。『アーデルハイド公国が魔王軍と繋がっている』それは誰しもが疑った。しかしそれをはっきりと口にする者は居ない。
「フィリザード様は『人外』という覚醒者をご存じでしょうか?」
「知っていますよ」
「レーデンは『人外』でした。尋常ではない魔力量を持ち、相手を絶望させるほどの回復力を持っていました。あれは人の範疇を超えております」
「私の生まれたエルフの里では、伝承として伝わっています。人知を超える覚醒者を人外と言います。一体どれ程の修行を重ねれば、その頂きへと登れるのかはわかりませんが、レーデンはまさしく人外と呼んでも相違はないでしょう」
「アーデルハイド公国、レプロス博士、レーデン、RED、人外。それらすべてが何かひとつに繋がっている気がします」
「その調査をしたいと?」
「はい、首都アーデルハイドにも冒険者ギルドが存在すると聞いています」
「なるほど。私にアーデルハイドのギルドへの紹介状を書けと」
「私は知りたいのです、何故私が生まれたのか」
「生まれた?」
「はい、私は自分が何者なのか、何故造られたのか」
「失礼な言い方ですが、あなたはゴーレムなのでしょう? ゴーレムは生命体ではない、生まれたと言う表現は正しくない」
「フィリザート様、そんな言い方はあんまりじゃありませんか」
セリカはフィリザードの言葉に怒りを覚えた。確かにミルキィはゴーレム、生命体と呼ぶのは難しい。
しかしフィリザードの話は止まらない。
「では、ゴーレムとは一体何なのでしょうか? エルフの里、ドワーフの技術、古代文明、そのどれもがゴーレムを生命体として扱っていません。傀儡、人形……。言い方は様々ですがミルキィ、あなたはそのどれにも当てはまらない」
「はい」
「あなたは自分をゴーレムと言う。しかしあなたは意思を持ち、自ら喋り、自ら進化し、自ら行動する。矛盾の塊です」
「フィリザート様! さすがに失礼すぎませんか!」
フィリザードはシダに怒鳴られ、ハッと顔を上げた。すると頭をポリポリと掻き、バツの悪そうな表情を浮かべた。
「申し訳ありません。つい熱くなってしまいました。アーデルハイドへの紹介状の件、私の方で用意します」
「いえ、当然の事と思います。今、フィリザード様の仰る通りです。だから余計に知りたいのです。私が造られた意味を。命には等しく生まれた意味があると私は思っています」
「意味……意味ですか……。それはなかなか壮大な事ですね」
セリカとシダは顔を見合わせて、不思議そうな顔でフィリザートを見た。
「では少し話を変えましょう。人間とは何でしょうか?」
「は? フィリザード様、一体何の話を?」
「シダ、セリカさん、考えみてください。あなたは何のために生まれたのでしょうか?」
「は……? 言っている意味がわかりませんよ」
「何のために生まれた?」
「父親と母親が出会い、子が生まれます。そこに何の意味があるのでしょうか?」
「そ、それは……行為の話ですか?」
シダが顔を真っ赤にしてフィリザードの質問に答えた。
「違います。意味です」
「い、言っている内容がさっぱりわからないです」
「人間は何故生まれ、死ぬのでしょうか。そこに意味はあるのでしょか? 人類が誕生して数万年、猿から進化した我々人類は、何のために生きているのでしょうか?」
「哲学の話ですか?」
「はい、あなたは『何を為す』ために生まれたのでしょう」
三人はフィリザードの話を荒唐無稽と感じながらも、それに聞き入った。
人は何故生きるのか、何故死ぬのか。肉体の死は精神の死なのか。意識はいつ生まれたのか、意識は死ぬとどうなるのか。
ミルキィが造られた意味はきっとあるだろう、しかし命を宿した彼は何を為すべきなのか。フィリザートはミルキィがそう言っているように感じたのだ。
「命は万物に宿ります。人間以外にこんなことを考える生物はいないでしょう。しかしミルキィはそれを知りたいと言う。彼は人間ではないのに」
フィリザートは立ち上がり、窓際に立つ。外を眺めるとギルバインの街が広がている。
「これは壮大な事ですよ、人は誰しも考えながら、その答えを持ち合わせて居ない。人類と等しい存在といっても過言ではない。ミルキィ、私もその意味を知りたいものです」
フィリザートはそういうと、話をガラリと変えた。
アーデルハイドへのギルドの話や、生まれたエルフの里、孤児だったラザラスを引き取り自分が育てた事など様々だった。
話が長引き、いつしか日が暮れていた。
「おっと……。つい長話が過ぎました。楽しい時間をありがとう。ミルキィ」
「こちらこそ、フィリザート様のお話楽しく聞かせて頂きました」
フィリザートは立ち上がり、右手をミルキィに差し出した。そしてそれに答えるようにミルキィも立ち上がり、二人は強く握手を交わした。
「ギルドへの紹介状、少しお時間をください。明日持参します」
「ありがとうございます」
次の日、宿で休んでいたミルキィとセリカの元に、フィリザートが書いた紹介状がシダによって届けられた。首都アーデルハイドの冒険者ギルド長、エドワード・ヴェス・ヨーゼスに宛てた紹介状の中には、ミルキィとその一行の名が記されていた。
旅立つ際にミルキィはセリカと共にまたレプロス博士とマーリーの三人で住んでいた廃墟を訪れた。
そこにはレプロス博士とマーリーの墓が建てられ、しなびた花が添えられていた。
『自分が造られた意味』それを求めて、ミルキィの旅が始まった。
目指すはランデベル大陸最大の都市、首都アーデルハイド。
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