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六十六、ミルキィ対レーデン②

 レーデンの鋭い爪が刃となりミルキィの左肩の装甲を貫く。

 破壊された装甲が地面に落ちる、まるで『硬く鋭い槍』とミルキィは思った。

 このまま防御を行っていては、いずれ全身の装甲は破壊され本体への損傷も考えられる。ミルキィはそう思うと攻撃に転じた。

 身体の大きさはほぼ互角、しかしレーデンの異形の姿は手足が非常に長い。

 同じ攻撃を繰り出しても、レーデンだけが届く。ミルキィの攻撃は空しく空を斬った。


 自分の攻撃だけが届かない。そう思ったミルキィは拳を強く握る、そして腰を落としレーデンの攻撃の切っ先、爪の先端を狙って拳を合わせた。


 鋼の拳対異形の爪。


 周囲に金属音が響く。それと同時に『グシャ』と言う音を鳴らし、ミルキィは異形の爪と指をへし折った。

 さしものレーデンも苦痛に顔を歪め、距離を取るため一歩下がった。

 そしてレーデンは砕かれた己の右手をギロリと見つめた。


「やるじゃないか……。俺の爪を狙ってのカウンターか。手足の長さで優る俺の攻撃を躱す事無く、逆に迎撃するとは……」

「お褒めに預かり光栄です。それでは博士の事を教えて頂けますか」

「は! なんというゴーレムだお前は」


 レーデンはそう言いながら右手を下す。彼の右手から赤いスライム状の液体が出て、それを覆う。液体は次第に固まり完全に右手を隠した。


「そこまで舐めた口を叩かれたのは久しい。面白いなお前……。面白いぞゴーレム」

「私にはミルキィという名があります」

「名前などどうだっていい。気に入ったよ。実に気に入った。本当にお前が欲しくなったぞ」

「それはご勘弁を。あなたに私のマスターは務まりません」

「は!」


 レーデンはまた一気に距離を詰めた。


 疾走速度では遥かにレーデンの方が早い。勿論、噴射口を展開した推進力なら自分の方が勝る。しかし爆発的な推進力を得るには噴射口へ魔力を収束させる必要がある。

 このレーデンがその隙を逃すはずはない。ここまでの戦闘でいくつかの戦闘パターンは理解出来た。しかし彼には自分のボディを砕く破壊力と数多にものぼる戦闘経験値がある。単純な殴り合いでは到底勝ち目はない。


 つまり自分は圧倒的不利な状況に立たされている。

 レーデンの虚を突き、右手を破壊したものの、それも既に治りかけている。


『どうすれば、レーデンに勝てる』ミルキィはそれだけを考えていた。


 詰めて来たレーデンは右手を振りかぶった、右手を覆う赤のゼリーが弾ける。

 そこには完全に治った異形の爪、指があった。


 ミルキィは再度、カウンターを試みる。

 右手を左手の拳で、左手を右の拳で破壊した。しかしレーデンは勢いを落とさず、長い足でミルキィの胴体を蹴り上げた。

 重いミルキィの身体が空中に浮き上がる。それと同時に胴体の装甲版が剥がれた。

 続けざまにレーデンは背中を見せる。


『これはまずい』


 ミルキィは咄嗟に胴体を両腕に装着している小盾で守る。

 しかし彼が回転を終え、次の瞬間レーデンの長い足がミルキィの頭部を蹴り抜いた。

 その勢いは凄まじく、鋼鉄の身体が吹き飛んだ。


 ミルキィの身体は速度を落とす事無く、後ろ側にあった魔人の身体であった岩に激突した。


「は! 全力で壊しちまったぜ……。せっかくいいオモチャだったのによ」


 レーデンは『やれやれ』と言いながら両手を広げた。そのまま吹き飛ばしたミルキィの方へ視線を向ける、大きな砂煙が上がり、ゴーレムの姿は見えない。

 自分の蹴りは確実にゴーレムの頭部を捉えた。並みの人間であれば首が吹き飛んでいてもおかしくはない。それだけの威力を込めた一撃だった。


 依然として砂煙が納まらない。


「しかし……マジですげえ兵器だ、あのゴーレムは。奴が居れば世界を手に入れるなんて目じゃねえ……」


 レーデンは苦痛に顔を歪めた。

 彼の両腕は肘から下がぐちゃぐちゃに曲がり、骨が付き出ていた。


「俺の攻撃に二度もカウンターを仕掛ける奴がこの世界に居るとは……。ギデオン、あいつ以外にも居るじゃねえか……強い奴がよ」


 レーデンの両腕からまた赤いスライム状の液体が滲み出てくる、それは両腕を包み、次第にゼリー状へと固まって行った。


「さっきのラザラスとかいう奴も強かったが……あのゴーレムは別格だ。強さの基準が違う。まるで別世界の……」


 レーデンはそういうと依然と砂煙が舞う岩へと視線を戻す。

 彼は耳を澄ます、風の音が聞こえる。足元の草が靡き、カサカサと音を立てる。その中に何かの音が混ざっている。


 キーン……。


 何の音だとレーデンは思った。

 今までに聞いたことがない音、いや、ついさっきこれと同じ音を聞いた気がする。ラザラスとの戦いに夢中でそれを聞き逃していた。正確には一方的な虐殺が楽しくて、それをちゃんと聞いている余裕が無かったと言える。

 奴か、あのゴーレムが何かをしているのか。とレーデンは両腕の再生を急ぐ。両腕のゼリーが腕から地面にボロッと落ちた。


 レーデンはそのまま身構えた。

 きっとあのゴーレムが復活し、何かをしようとしているのだと。

 気は抜けない、無尽蔵の回復力がある自分ですら、ここまで追い込まれた。


 風に舞う砂煙が少しずつ、その姿を現す。煙の向こうには人影。

 奴だ、立っている。



 両手で拳を握り、深く腰を落としている。

 何をする気だ。あの体制から何をする気なのだ。


 ミルキィらしき人影がゆっくりと動く、次の瞬間、その影が煙の中から飛び出してきた。

 尋常ではない速度でレーデンの目の前に接近してくる、レーデンは焦り両腕で顔を防御する。しかしミルキィの狙いは頭部ではない。

 ミルキィは急接近すると深く屈んだ。


「な……!」


 何故、屈む。レーデンはそう思った。

 そう思った瞬間、何か硬い物体がレーデンの腹部を襲った。信じがたい激痛が腹部を襲う。それがミルキィの左拳だとわかるまで幾分かの時間を要した。

 硬い鱗に覆われ、どんな攻撃でも防ぐ自分の鱗に絶対的な信頼をおいていた、しかし硬い鱗ごと腹部を貫いた。

 レーデンは我が目を疑った。

 自分は今何と考えた。『貫いた』と思った。『貫く』だと。人間のような拳がドラゴンの鱗よりも固い自分の鱗を貫くだと。

 いや、違う。


 身体の中に何か、拳ではないモノが入り込んでいる!


「ぐ……! な、なんだ、これは……」


 ミルキィはレーデンから拳を放し、彼は自分の腹部を貫いた、その何かを目で追った。


 鉄の杭。


 ミルキィの左腕に備え付けられた小盾。盾と腕の隙間、そこから長い鉄の杭が伸びていた。仲間のゴードンに渡した武器、パイルバンカーの小型版がそこに装着されていたのである。


 レーデンとミルキィの視線が合う。その間にミルキィの左手から排出された薬莢が二人の視界を遮った。

 排出された薬莢が小さな振動を起こし、二人の耳に聞こえた。


 キーン……。


 レーデンはその薬莢を目で追いかけた。『これは一体何なのだ』と。このような物体は見たことが無く、何を意味するかは想像すら出来なかった。

 しかしレーデンはその威力を、その身を持って知る事になる。


 レーデンの視線がミルキィに向けられる。

 『ああ、やっぱり』とレーデンは悟った。ミルキィの身体が反動を利用し、背中を見せた。そして再びミルキィが視界に現れたとき、右手は強く握られている。


『こいつ、俺が攻撃した連続蹴りをそっくりそのまま取り入れている』


 次の瞬間、レーデンの右胸を激しい痛みが襲った。

 ミルキィが放ったパイルバンカー、鉄の杭が右肩を貫いていたからである。レーデンは我が目を疑った。何度も何度もそれを見、確認する。しかしミルキィの放った鉄の杭が確実に、自分の肩を貫いていた。


「なぜ……肩を狙った……」


 レーデンはミルキィの行動が理解出来なかった。

 心臓、もしくは頭部を狙っていれば、確実に自分を仕留められたはずの一撃である。それを行わない理由がレーデンにはわからなかった。

 自分は魔王軍四天王で、さらに魔人キュルプクスを街に仕向けた張本人である。

 アーデルハイド公国に対し宣戦布告を行い、ギルバインを襲った人間である。

 覚醒者で人外の力を得たモノである。

 誰がどう考えても、自分は悪人なのだ、と。


「そうしなければ、あなたは死んでしまいます」


 今まで数々の冒険者が自分を狙って戦いを挑んできた。そのすべてが自分の命を狙ってきた。一切の手加減もせずに。

 手加減どころか、自分が手加減しなければ相手はすぐに死んでしまっていた。それほどんで来る者との差があったのだ。その自分に対して急所を狙わずに勝つ。そんな事が出来るモノがこの世に居たなんて。

 レーデンはそう考えた。


 ミルキィの初撃は自分の爪、次に両手。そして今の腹部と右肩である。


 最後の二撃は人間に繰り出したなら確実に致命傷と言えるだろう、しかし自分には異常なまでの回復力がある。その回復力を集中させれば、この二つの傷は治る。


「何だと……」

「あなたの覚醒能力はその異常な回復力にあります、しかし付け入る隙が無い訳ではありません。無敵だと思われるその能力、二つの条件が揃わなければ、発動出来ない」

「俺の能力に付け入る隙だと……!」

「条件のひとつが、あなたは足を止めなければ、傷を癒せない」

「!」

「私は先の攻撃であなたに損傷を与えました。しかしすぐ傷は治った。私はその治り方を分析しました。そのどれもあなたは足を止めていた。という事は、その能力を使うために、それが必要なのだと思いました」


 レーデンは心底驚いていた。目の前に居るゴーレム、こんな人造兵器が自分の能力を看破すると言う奇妙な行動に。


「そしてもう一つの条件は、傷を治す際にスライム状の粘液で傷を覆う必要があると言う事。その粘液は傷を塞ぎ、傷を癒す。つまりあなたは足を止め粘液を出さなければ、傷を治せないと言う事になります」


 レーデンは驚きのあまり口を閉ざした。


 ミルキィはレーデンの能力を逆手に取って、致命傷を与え、その動きを封じたのである。生き残るために足を止めるか、死ぬ事を恐れずにミルキィを倒すか。レーデンは究極の二択を迫られたと言う事になったのだ。

 レーデンは地面にしゃがみ込み、ミルキィを見上げた。


「これ以上の戦闘は無意味です。投降してください」


この度はお読み頂き、本当にありがとうございますm(*_ _)m


ブックマーク、レビューやいいね、ご評価、ご感想等頂けますと大変励みになります。


レビューや感想が面倒であれば、いいねや評価だけでも作者は大喜びで部屋を走り回ります笑


皆様が面白いと思える物語に仕上げて参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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