六十四、ゴーレム対ゴーレム⑤
『うおおおおお!』
ミルキィの声がギルバインの街を包む。
人々は祈った、彼の名を呼び。
目の前には二体の巨人、一方は魔王軍が差し向けた古代戦争の兵器、魔人キュルプクス。もう一体はギルバインの街で有名な優しいゴーレム、ミルキィ。
人々は、それぞれに彼の名を呼び、彼を鼓舞した。
人々は祈った。
彼なら必ず勝ってくれる。魔人キュルプクスを止めてくれる。彼はギルバインの街を救う救世主なのだと。
ミルキィが魔人に駆け寄り、魔人の両肩を掴む。
勢いそのままにミルキィは力を込める。魔人はミルキィに押されながらも足を踏ん張りその勢いを殺そうとする。
しかしミルキィの勢いは凄まじく、足元の家を破壊しながら魔人は後退を余儀なくされた。次々と破壊される家屋に住民は悲鳴を上げるものの、依然としてミルキィを応援する声は止むことは無い。
大人、子供、老人までもが彼を応援している。
俺の、私の、僕の、街を救ってくれと。
勢いを止められたミルキィは、右の拳を振り上げる。そのまま勢いに任せて魔人の頭部に巨大な拳を振るう。凄まじい爆音が周りに響く。
続けざま左の拳を放つミルキィ。しかしその前に魔人の拳がミルキィの顔面を捕えた。魔人もミルキィへの反撃を試みる。振り上げられたその巨大な拳がミルキィを打つ。
ミルキィと魔人はお互い巨大なものの、ミルキィの方が一回り小さい。
身体の大きさで勝負したのであれば、ミルキィの方が分が悪いと言える。しかしミルキィは打撃を受けつつも一歩も退く事無く、魔人の攻撃を受けながらも攻撃の手を止めない。
少しずつ魔人の足が下がる、しかし魔人は足を踏ん張りミルキィに体当たりをかましてきた。あまりの勢いにミルキィは体勢を崩す。それを見守っていた人々が声を発した。
「ミルキィ!」
「がんばれミルキィ!」
中には子供の声が聞こえる。
ペンダントを砕いたことにより、自分の声はギルバインの人々に届く。逆に人々の声もミルキィには届いていた。
胸が高鳴っていくのがわかる、自分は人間ではない。自分はただのゴーレムだ。人間が生きようと死のうと本来自分には関係のない事なのかもしれない。
しかし自分はこの魔人を止めなくてはならない。この街で出会った人々を守りたい。例え自分が壊れたとしても、それだけはやらなくてはいけない。やらなきゃいけないのだ。
『私は……負けない……負けられない!』
ミルキィは足を踏ん張り、両腕を上げ防御を固め、魔人の猛攻を受け止める。
決して後ろには下がらない。その強い意思はこの街から貰ったものだと。
魔人の猛攻に防御に徹するミルキィ。
次の瞬間、魔人の拳がミルキィの左肩を砕く。ミルキィの肩から土と岩が零れ落ちる。落下した岩が家を破壊した。
防御をするための左手がダランと下がる。
続けざま、魔人がミルキィの顔面を拳で振りぬいた。
魔人の一撃がミルキィの顔面を捕え、大きな土煙が舞った。
ミルキィの巨体が揺れ、魔人が両手を振り上げた。
「ミルキィーーーーーー!」
子供の声がミルキィを奮い立たせる。
魔人の両腕が振り下ろされる瞬間、ミルキィは体当たりをぶちかまし魔人の胴体を掴んだ。
『つ、捕まえたァァァ!』
ミルキィの声がギルバインの街に届く。
魔人がもがき、ミルキィを振り払おうと身体を揺らす。しかしミルキィはありったけの力を振り絞り、魔人にしがみ付いた。
次の瞬間、ミルキィの背中が空き、巨大な噴射口がその姿を現した。
『皆様! 吹き飛ばされないように低い姿勢を取ってください!』
ミルキィがそう言うと、背中の噴射口から爆音と共に青い白い炎が上がる。ギルバインの街のど真ん中に太陽が現れたかのような強い炎。それ以外聞こえない程の爆音。
住民はしゃがみ込み耳を押さえる、ミルキィの背中から噴き出すその煙に街は包まれた。
一瞬にして強い加速力を得たミルキィは魔人を掴んだまま、一歩一歩歩みを進める。
魔人もその勢いに負けず足を踏ん張るが、両腕をあげられたままで体勢を整える事が出来ず、少しずつ下がらざるを得なかった。
魔人は家を、建物を壊しながら、ギルバインの城壁を背に着けた。
『まだまだァ! 一点突破!』
ミルキィは、魔人をガッチリと掴み、両手両足の噴射口を開いた。
続けて爆音と青い白い炎が上がった。その勢いは止むところか、さらに加速した。
ミルキィの背中から出る炎が翼のようにも見えた。
青い翼、それはギルバインの街に語り継がれる事であろう。
この街を救った、ゴーレムの名と共に。
魔人の背中が城壁に埋まりだした次の瞬間、大きな音と共に城壁が崩れた。
『うおぉおおお!』
ミルキィの声が爆音と共に街に響く。
魔人は城壁を破り、ギルバインの街の外へと押し出された。
城壁から出て、すぐにところで魔人は完全に体勢を崩し地面に倒れ込む。
ミルキィは噴射口からの炎を止め、魔人に上に乗った。
『この街から……出て行け!』
ミルキィは右手の拳で魔人の頭部を殴りつけた。
続けざまに左手の拳を振り下ろす、右手程の威力は無いにしろ、それは魔人の頭部を捉えた。
『これで……終わりだぁあああ!』
ミルキィはそう言うと魔人の頭部に目掛けて、渾身の一撃を放った。
凄まじい音と共に、魔人の頭部が完全に破壊されミルキィの拳が地面に届く。そして遂に魔人キュルプクスは動きを止めた。
人々恐る恐るは顔を上げ周囲を見る、謎の爆音と尋常ではない程の光、それによって起こされた凄まじい風と砂煙。それらが収まるのを待っていた。
それを見た者全員が我が目を疑った。先ほどまで目の前に居た二体のゴーレムはそこにはおらず、その代わりにギルバインの城壁に大きな穴が開いていた。
遠くを見渡すと街の外に二体のゴーレムが重なり合っているのが見えた。
白いゴーレムが黒いゴーレムの上に乗り、黒いゴーレムは動きを止めていた。
それが何を示すものか、その光景は何を示すものか、次第に薄れゆく砂煙。晴れていく景色。青空の下、白いゴーレムが立っていた。
そして、黒いゴーレムは完全に停止した。
目の前で起きた奇跡に、絶望に打ちひしがれたその日、彼ら、彼女らはその光景は一生忘れる事は無いだろう。
数か月前に突然、街に現れたゴーレム、そのゴーレムは優しく子供や老人が大好きだった。大きな体は土と銅で造られており、口調も優しかった。
一見すると強そうには見えない。しかし人々は知っていた。彼の優しさを。彼が好きだと言ったその言葉を。
街に住む者ならば、彼の名を知らぬ者は居ない。
突如として魔王軍から宣戦布告をされ、本国アーデルハイド公国にも見放された地方都市ギルバイン。そこに現れたゴーレム。
魔王軍の発掘兵器、魔人キュルプクスの手からこの街を救い出した英雄。
誰もが記憶に焼きつけるだろう、その日起きた光景を。
その日起きた奇跡を。
そして語り継がれるだろう、彼の名は『ミルキィ』
ギルバインを救った救世主。
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