六十三、ゴーレム対ゴーレム③
街へと降りて行ったステインを見送り、セリカはミルキィに視線を戻す。
ミルキィは数十人居た黒いローブの男たちを、彼はいとも簡単に戦闘不能の状態にさせていく。
一人は顔を殴られ気絶し、一人はビームで手を貫かれ武器を落とし、一人はミルキィの蹴りを食らい地面に崩れた。
しかしその一撃一撃には、相手に対する優しさに溢れている。
『命までは取らない』
彼の無言の立ち回りに、セリカはそう感じた。
ステインとの戦いも、剣闘士ダハンとの戦いも、銀行強盗の時も同じだった。
彼は決して『相手を殺さない』信念のもとに戦っている。
その姿は変わっても、自分が知る優しいミルキィである事に、彼女は胸の高鳴りを感じていた。
「あなたで最後です」
「ぐは……」
ミルキィは拳を振り下ろす。彼の硬く重い拳を頭部に受け、男は気を失い地面に倒れた。
「ミルキィ……!」
セリカは彼の名を叫ぶ。しかし彼はまだ戦闘態勢を崩さない。
足を大きく開き、拳は握りしめたまま。彼は立ち上がって来る者が居ない事を確認し、拳を下げた。
ミルキィはセリカに振り返る事無く、ガガオの元に歩み寄った。
血だらけのガガオが地面で横たわっている。ミルキィはその前まで来ると、その場にしゃがんだ。
「ガガオ。良く戦ってくれました」
ミルキィは手を差し出し、ガガオの腹部に当てた。
「惜しい人を亡くしました……」
「え……」
セリカはその言葉を聞き驚きの声を上げた。
『まさかそんな』と彼女は思った、確かに彼は血を多く流しており、何本も骨が折れているようにも見えた。
しかしミルキィの回復薬を一本丸々飲ませた。
セリカはこの戦いが始まってから何度もそれ飲んだ、その効力は身を持って知っている。致命傷となっても治る程の効力があったはずだ。
「ガガオ……そんな……こんな事って……」
セリカは少しガガオに歩み寄り、その場でストンと力を失い地面に座り込む。
「ミルキィ、てめええ! 勝手に殺すな!」
「ガガオ!」
突然、ガガオが叫ぶ。
セリカはガガオの元気そうな声を聞き、安堵の声をあげた。
「これは失礼しました。動かないもので、てっきり」
「てっきりって何だゴルァ! お前が来たから安心して、少し眠ってたんだよ! せっかくならセリカに起こしてもらいたかっただけだ!」
「ふふ、それだけ元気なら、私の治療は必要ないでしょうか?」
「いや、してくれ! セリカじゃ回復魔法は仕えないからな」
「かしこまりました」
ミルキィはそういうと差し出していた手をガガオの腹部に当てた。
先程セリカを治療した際と同じように、ポワッと手が光る。
ガガオは悪態をつきながら、ミルキィの姿を見た。
「しかし……ミルキィ、お前えらくゴツくなったな。騎士が着る鎧みたいな身体になっちまって……」
「これは戦闘用の身体です。今までの身体では魔人キュルプクスに勝てないでしょうし、長い戦闘にも行えないと思い機能を向上させる必要があると判断致しました」
「にしても、時間かけすぎだぜ……。もう少し遅かったら俺たちはやられていた」
「それは本当に申し訳ないと思っております」
ミルキィの手が光を失い、拳を握った。
ガガオはゆっくりと立ち上がり、全身を確認する。折れた腕も繋がり深い傷を負った足も治っていた。
「遅れた分の仕事はさせて頂きます、これ以上魔王軍の好きにはさせません」
ミルキィは立ち上がり、セリカとガガオから少し離れた。
「ミルキィ、何を……?」
「魔人キュルプクスを街の外へ押し返します」
「お、押し返すって言ったって……あの巨体だぞ……いくらお前が強いからってそこまでは……」
「そのために、ゴードンにお願いしておりました。ゴードン、倉庫から離れてください」
ミルキィはそういうと二人に振り返り、手を広げる。
ペンダントから『もうとっくに外に出ておるわい』とゴードンの声が聞こえた。
ゴードンの返事からしばらくして、地面が揺れ足元から『ゴゴゴゴ……』という地鳴りが聞こえた。
ガガオとセリカは謎の地鳴りに周囲を見渡す、まさかまた魔人の仕業かとキュルプクスを見るものの、キュルプクスは既に街に入り込み、自分たちの地面を揺らす脅威ではなかった。
「な、なんだ……? 何をする気だ?」
次の瞬間、城壁の近くにあった倉庫が壊れ、その中からゴーレムが飛び上がり、空中に静止した。
そのゴーレムは出会った頃のミルキィだった。
「み、ミルキィ……! あれって!」
「あれは! あの土と銅で出来た、出会った頃のミルキィじゃねえか!」
「そうです。急ごしらえのボディです」
「ど、どういう事だ? あんな身体お前がさっき通用しねえって言ったばかりじゃねえか!」
「はい、一体だけでは無理です」
ミルキィがそういうと、二体目のゴーレムが倉庫から飛び出て空中に静止する。
「い、一体……なにが始まるんだ……」
ガガオはミルキィが何をしようとしているのか、全く想像出来なかった。
それはそうだ、今まで何度自分の常識を崩してきたのだろうか、このミルキィというゴーレムは。
三体目、四体目、五体目……。
次々と倉庫からゴーレムが浮上し、空中に静止する。
その数、なんと三十体。
「フィリザート様、バルザック様、今からキュルプクスを街の外へと押し出します。街で戦う冒険者への指示と、住民に被害が出ないように避難誘導をお願いします」
ミルキィは両足と背中の噴射口を開け、空中に浮かんだ。
「セリカ様、ガガオ。そこで寝ている魔王軍の連中をお願いします」
「良くわかんねえけど、任せろ! 魔人を止めてこい、ミルキィ!」
「はい」
そういうとミルキィはゴーレムの元へ飛ぶ。
三十体のゴーレムが空中に浮かんでおり、その中心にミルキィも浮かんだ。
「合体を開始します」
ミルキィの合図を元に、浮かんでいたゴーレムが合わさり繋がっていく。
一体のゴーレムが別のゴーレムと繋がり、また次のゴーレムと繋がる。
繋がり合わさったゴーレムが形を変え、巨大な足に変わっていく。
別のゴーレムはまた違うゴーレムと繋がり合わさる、次第に形を変え、それは巨大な手に変わっていく。
複数のゴーレムが合わさり一気に姿を変え、巨大な胴体に形を変えた。ゴーレムたちは何度も何度も結合を繰り返し、次第に形を整えていく。
三十体居たゴーレムたちがひとつの巨大なゴーレムへと姿を変えた瞬間だった。
ギルバインの上空にもう一体の巨大なゴーレムが姿を現した。
その大きさは魔人キュルプクスと同等かに見えた。
魔人キュルプクスが現れ街を破壊していくその様を、住民は逃げながらも絶望に打ちひしがれていた。
空を見上げるとまた別の巨大なゴーレムの姿。
人々はまた絶望を覚えた。
大人たちは死に物狂いで子供の手を引き、魔人から逃げた。
しかし遥か上空に現れた新たな巨人の登場に人々は逃げる事すら忘れてしまった。
ある一人の父親が子供の手を引き、大通りを走る。子供が転び、父親は立ち止まった。
子供の頭の上には白い巨人の姿、顔面蒼白になる父親。
『もうだめだ』と諦めかける父親の表情を見る子供。
子供は父親の視線が気にかかり後ろを振り返る。そこには白い巨人が空中に浮かんでいた。
「も、もう……この街は終わりだ……」
父親は地面に手をつき、涙を流した。
そんな時、その子供が言った。
「あれは……ミルキィ……! ミルキィだよお父さん!」
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