六十二、ゴーレム対ゴーレム②
ギルバインの城壁に立つ魔王軍の一人の男がその異変に気付いた。
街の中心部にある建物から、何者かが飛び出して物凄い勢いで向かってくる。
彼は自分の目を疑った。それは空を飛び、信じられない程の速度でこちらに向かってきている。
「な、なんだあれは……!」
彼はたまらず声を上げる、その声に反応し、周囲の男たちが同じ方向へ眼を向けた。
「人間……?」
そう言った瞬間、その人間は目の前に現れた。
男たちが見上げるその姿。
青と白と黒の鋼鉄の甲冑のようなモノ、しかしそれは甲冑とはどこか違う。全身の大部分は白い鋼で覆われており、関節部分は黒く、至る所に金色の装飾が施されている。
兜も青と白で出来ており口元が見えるが、それも金属で出来ている。
ステインが来ていたフルプレートアーマーに似た何か。両腕を覆うような小さな盾と他に白い杭のような先端が鋭く尖っていた。
足と背中には噴射口から青白い煙が吐き出されており、それがキラキラと輝いている。
腕も足も身体も鋼鉄で出来、そしてその全身は太陽を反射させ輝いていた。
それは、人間の形をした何か。白い甲冑を着た何か。
ヒトノカタチをした、その姿。
神々しくも思えたその姿に、その登場に男たちは目を奪われ心を奪われた。
その中にはセリカもステインも居た。
男はゆっくりと地面に近づき足をつける、それと同時に噴射口が身体に収納された。男はそのままセリカへゆっくりと進む。歩くたびに金属が床に触れる音が聞こえる。
そのままセリカの前でしゃがみ、彼女に声をかけた。
「セリカ様、ご無事で何よりです」
「み、ミルキィ……?」
「はい。今、身体の傷を癒します」
ミルキィはそういうと右手を出し、セリカの腹部を触った。
ミルキィの右手がぼんやりと光る、セリカは全身を襲っていた痛みが次第に薄れていく感覚を覚えた。
「え……ミルキィ……これって」
「はい、機能を向上させました」
「す、すごい……」
「遅くなって申し訳ありません。思っていた以上に時間がかかってしまいました」
「い、いや……」
ミルキィの真っ直ぐな目にセリカはたまらず目を逸らした。
そして、ミルキィの手がお腹に触れているとわかると、自分の頬が熱くなっていくのがわかる。
「今、お身体を分析致しました。骨折などは無く命に別状はありません。おや? 顔が赤くなっています。これは一体どういう現象でしょうか……」
「こ、これは…ま、まあ……うん」
ぼんやりと光っていたミルキィの右手から光が無くなる。
「完治とまでは行きませんが、これで動けるようになったはずです。後はこれを飲んでおいてください」
ミルキィはそう言うと、手の平をセリカの前に出す。
手の平の中心に穴が開き、そこから小瓶が現れた。
先程まで飲んでいた魔力回復薬だった。
「ありがとう、ミルキィ」
「いえ」
ミルキィはセリカにそう返すと静かに立ち上がった。
突然、現れた謎の男に一瞬我を失っていたが、それが敵だとわかるとそれぞれに武器を構えだした。
「あなたたちが魔王軍ですか」
「そ、そうだ……貴様……何者だ」
「私はミルキィ。この街のゴーレムです」
「ご、ゴーレムだと……? 嘘を言うな、ゴーレムが喋るものか!」
「そう言われましても、私がゴーレムであることに違いはありません」
「何者かは知らんが、我ら魔王軍の邪魔をする気なら生かしておかぬ! 覚悟しろ、後悔させてやるぞ!」
ミルキィは男たちとの会話を続けた後、最後の一言が気に障った。
「後悔?」
ミルキィはセリカから離れ、男たちにゆっくりと近づく。
そしてミルキィは両手を前に出し、静かに握った。
「あなたたちこそ、後悔してもらいます。この街を襲った事を」
ミルキィはそういうと足と背中の噴射口を展開させ、勢いよく噴射させる。
それは重いミルキィの身体を大きく加速させ、信じられない程の速度で男たちに詰め寄った。
そしてミルキィは拳を男に叩きつける。
殴られた男は口から血を飛ばし、地面に崩された。
「警告します、無駄な抵抗はやめて投降しなさい」
「と、投降など? ふざけるな!」
ミルキィの背後に一人の男が剣を振り上げた。そしてそのままミルキィに力いっぱい振り下ろす。
しかし剣は折れ、切っ先が宙を舞った。
「無駄な事を」
すかさずミルキィは、背後の男に拳を振る。殴られた男は横へ大きく飛ばされ地面へ伏せた。
「私の拳は、鋼鉄で出来ております。あなた方の骨をへし折る事ぐらい造作もありません」
ミルキィは、両手の拳を胸の前でガキンと鳴らした。
「貴様!」
ミルキィの左右から男二人が武器を構え、振りかぶる。
しかしミルキィはそれを躱す事無く、受け彼らの武器は粉々に砕けた。
そしてミルキィは二人の男の顔面に拳を浴びせる。ミルキィの鉄の拳を受けた男はその場で崩れた。
続けてミルキィの頭部にある青い鉱石が光る、小さな光がそこに集まる。
次の瞬間、頭部からビームが放たれた。
男はそのビームを躱す事など出来ず、手足を焼かれ苦悶の表情を浮かべる。
ミルキィは続けざまにビームを連射する、そのどれもが光った瞬間に対象を射抜き、そのどれもが苦悶の表情を浮かべた。
以前、ステインに放ったトライニウムビームよりは威力が低いものの、連射力が格段に上がっている事がわかる。
「す、すごい……」
セリカは目の前に現れたミルキィに驚きの声をあげた。
「どうやら……やっと来たようだな……」
「ステイン……あなた……何故……」
ステインがセリカに話しかけるものの、魔力切れらしく身体を動かせずにいるようだった。
「気の迷いだ。それだけだ」
「迷い……」
「私は……投降する。殺すなり何なりお前の好きにしてくれ」
セリカはその場で横たわるステインを見下ろした。
「……。だったら……」
セリカはステインの前まで歩み寄り、魔力回復薬をゴクッと口に含み飲んだ。
小瓶を振るとまだチャポっと音がする、半分ぐらいは残っている。そしてその小瓶をステインの口に当てた。
「飲んで」
「なんだ……何をする」
「良いから飲んで」
「や、やめ……むぐ……」
セリカはステインの口に小瓶を無理矢理突っ込んだ。
ステインはたまらず、小瓶の中の液体を飲み込む。
「き、貴様……」
「これはミルキィが作った回復薬。これで身体も魔力も回復するはずよ」
「……!」
「まだ街には魔人もオークも居る。手伝ってほしいの」
「貴様……正気か……? 私はたった今の今まで魔王軍だった人間だぞ」
「正気よ。さっきあなた言ったわよね。殺すなり何なりお前の好きにしてくれって」
「ば……馬鹿なのか……お前」
「馬鹿でもいい。私は街を守るためなら何でもする。だからあなたの力も必要だと、そう思っただけ」
ステインの身体に魔力が戻り、彼女はスクっと立ち上がる。
「エルフ……貴様……」
「何よ」
ステインは『ふん』と顔を背け、地面に転がっていた両手剣を拾い上げると、セリカに向かって両手剣を構えた。
「え……」
「屈め」
ステインがそういうとセリカはその場にしゃがみ込んだ。
そして、ステインは両手剣を振りかぶり、それを切り裂く。
「グギャアア!」
ステインの放った一撃はセリカの背後に居たオークの胴体を切り裂いた。
付着した血を払うとステインは言った。
「これよりオークの討伐に向かう。それでよいか」
「うん!」
セリカは頷くとミルキィのペンダントをステインに渡した。
「魔人は頼んだぞ」
ステインはそう言うと、城壁から身を乗り出し、街へと降りて行った。
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