六、モンスターバトル
「なるほど。確かにお前が驚くのも無理はない。俺たちドワーフはゴーレムを従えて利用するが、意思を持ち喋るゴーレムなんてのは初めてきいた。ましてや自分でボディを造ってしまうなんてな」
このザーハというドワーフは、ランデベル大陸とワーファ大陸を行き来するその筋では有名な行商人だ。鉱石だけではなく依頼者が欲しいものを何が何でも調達するという、売れる者は情報でも人の命でも調達する悪い噂もある。
ミルキィをぐるりと見回し、ザーハはソファーに深々と座った。
恰幅のいい体格にドワーフ特有の短い手足、長い髭、一見するとどこでもいるドワーフだがその眼光は鋭く、隻眼であるため眼帯をつけている、それがまた彼の迫力が増していた。
「んで、ゴードンよ、俺に何をしろと?」
「このゴーレムをちょいと調べてくれないか。ドワーフの技術なのか、エルフの里でもゴーレムを使役していると聞く。このゴーレムがどんなのかが知りたい。後レプロス博士とマーリーという人物を調べてほしい」
「それは構わないがなんせ意思を持ったゴーレムだ。この俺ですら初めてお目にかかるシロモノだ。下手すると古代文明の遺跡から発掘された物じゃないのか。魔王ギデオンが造らせた可能性もある。時間もかかるし費用もそれなりに貰わなきゃならない。お前に払える金額とはとても思えないな」
「そこは昔のよしみでなんとか……」
ザーハテーブルの上に短い足を投げ出し、ふんぞり返った。
「無茶いうな。世の中金だよ金。調べるなら冒険者ギルドでこのゴーレム調査依頼や人探しでも依頼するんだな」
「わしとお前の中じゃないか」
「無理だ、金を持ってこい。人探しなら、よそでやりな。それこそお前ら冒険者ギルドの仕事じゃないか。ここは商人ギルドだぞ、金の匂いが無きゃ誰も見向きもしない」
金、金、金、このドワーフはそれしか言えないのか。
「それこそワーファまで行ってこいつを売りさばいた方が金になる。ま、売れればの話だがな」
「私は売り物ではありません」
突然、ミルキィが喋り出した。驚きを隠せないザーハ。
「いいかゴーレム、お前は命令だけを守っていればいいんだ。それが嫌ならその博士と嬢ちゃんを探す旅にでも出るんだな、自分で」
ザーハは立ち上がりミルキィの身体をコツンと叩いた。
「なるほど、その手がありましたか」
セリカは二人の会話を静かに聞いていた、こうしてみるととても普通のゴーレムには見えない。
「ゴーレムってのはな、主人を失ったら普通崩れ去るもんだ。遺跡なんかを守るゴーレムも見たことはあるがお前みたいに喋りもしないし、勝手に動いたりしない。目的が無きゃ朽ち果てるだけだ」
「私はどうすれば良いのでしょうか」
「知るか、こっちが聞きたいぐらいだ」
「お前の知り合いにゴーレムに詳しい人間は居るか?」
「居るよ、けどここギルバインには居ないな、ワーファのゲシュタントにはゴーレム技師が居ると聞く。そいつに紹介状を書いてもいいが、金は頂く」
「いくらだ」
「銀貨十枚ってとこだな」
銀貨十枚!
紹介状だけで銀貨十枚、ふざけている。銀貨が十枚もあればギルバインで一か月は暮らせる。
ザーハがふと何かを思いついたようで、テーブルにあった酒瓶に手を伸ばした。栓を口で開けグイっと一口飲んだ。ふぅと息を吐く。その息がセリカの顔に当たる。
酒臭い。それにドワーフの吐いた息は元々臭い。
ゴードンの当てが外れた、もしこのドワーフにゴーレムの知識があってもタダでは言わないだろう。セリカはすっと立ち上がり、ゴードンに目を送った。
「帰ろう、ゴードン。こんなドワーフに頼っても仕方ない」
「へへへ」
なめまわす視線でセリカを見るザーハ。一体何を考えているのか。ゴードンは何でこんな男を頼ろうと言ったのか理解出来なかった。この男は金にならない事はしない。
「まぁ……そうは言ったが、どうしてもというなら、聞いてやれなくはない」
急に態度が変わった、このドワーフは何か悪い事を考えているに違いない。
「金が無いなら、こいつで稼げばいいんだよ」
そういうとザーハはミルキィを指さし、ニヤリと笑った。
ザーハに案内されたのは地下に続く階段、ゴーレムのミルキィでも簡単に通れるほど幅は広い、これなら馬車や荷車でも運べそうな程。階段を降りると少しずつ人の声が聞こえだしてきた。歓声のようであり叫び声のようでもある。
それらの声が近づくにつれ空気に熱気が帯びてきた。暑い、湿度も高い。蒸した空気が鼻につく。暗い階段を降りようやくそこに到着した。
開かれたそこは控室のようだ、部屋は非常に広く、様々な人種がある。一目でここにいる人間は普通じゃない。そうわからせた。それぞれに武器を持ち、冒険者のようにも見えるがその者たちの鋭い眼光は、それとは違う。
闘技場
セリカはすぐに理解した。ギルバインの地下には闘技場があるという事は知っていた。表の顔では冒険者をし、裏では闘技場で稼ぐ、そんな人間がいることも知っている。
しかし自分の目で見るのは初めてであった。
またそれを主とする剣闘士が居るとも聞く、ここが噂になっていた闘技場。
まさか商人ギルドの地下にそれがあったとは。
彼らは命をかけ相手を打ち負かし、勝者には報奨金が出る。賭けの対象である。
なるほど、ここで賭けの対象となって勝てば大金が入る。しかしセリカはこういう場所が好きではなかった。賭けの対象になることも嫌だったし、賭け事にも興味は無かった。ましてやセリカたちは冒険者、冒険者ギルドの依頼ならまだしも、怪我をする可能性の高い、リスクの高いと闘技場で戦うなど考えもしない。
控室に居る剣闘士たちがセリカを見た、このギルバインではエルフは珍しく滅多に見ることはない。しかしセリカは好奇心以外の視線を感じていた。
なめまわすような視線、嫌悪感、明らかにセリカを女として見ている。性的な意味で。
嫌悪感に苛まれる中、セリカは必至で平静を装った。
付き添ったザーハはゴードンと何か話していた。
「金が要るんだろ、そのゴーレムをここで戦わせればそれなりの金が手に入る」
ザーハはセリカに言った。
「モンスターバトルだ」
静かにそれを聞いたゴードンもニヤリと笑った気がした。
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