五十八、風を操る者②
「風を操る者だと? なんだそれは!」
黒いローブの男がセリカに問いかける。
「言ってもわからないわよ。私ですら良くわかってないんだから」
(長くは戦えない……。着けているだけでドンドン魔力が奪われていく。敵の数が凡そ二十人、ステインも姿も見える。速攻で倒すしかない……)
セリカはそう思うと、黒いローブの男たちに向かって走った。
男たちは、目の前で起きた謎の現象に恐怖を覚え、向かってくるセリカに背中を見せた。セリカはそれを見逃さず、風を操る者を強く握り、インパクトの瞬間魔力を放出した。
男の一人が物凄い速度で宙に弾き飛ばされた。
そして、また遅れて衝撃波と爆音が周囲に鳴った。
「くっ……」
セリカは風を操る者から出た爆音に鼓膜が揺れるのがわかる。
『この武器を使用するときは風の魔法で前もって自分に防御壁を展開しておいてください』ミルキィにそう忠告されていなければ、自分の放った衝撃波と爆音で深い傷を負っていたに違いない。
しかしミルキィはなんという武器を自分に持たせたのだろうか。長年エルフの里で学んだ風の魔法よりも遥かに威力のある攻撃。手袋を装着し手に魔力を集中させるだけで、ここまでの破壊力を生み出した。
原理が全くわからない未知の武器、『ミルキィは兵器だ』と言ったザーハの言葉が今まで以上に、それを実感させた。
黒いローブの男たちは、謎の武器を扱うセリカに恐怖し、皆戦意を喪失させている。
「下がれ」
黒いローブの男たちの中で誰かが言った。
それは魔王軍四天王レーデンの忠実な部下、ステインだった。
ステインは男たちをかき分け、セリカの前に立つ。黒のフルプレートアーマーを着込み、背中には以前と同じ両手剣を装備している。
「ステイン……」
「久しいなエルフ。少し見ない間に腕をあげたものだ。あのゴーレムはどこだ」
「まさかこの街を襲ったのもミルキィを捕まえるため……?」
「のぼせ上がるなエルフ。我が魔王軍にもゴーレムは居る。それもあれより高性能な奴がな」
セリカは、嘘だと思った。
確かに魔王軍にもゴーレムは多くいる、この魔人キュルプクスもその一つだろう。しかしミルキィを超えるゴーレムが存在するとは到底思えない。
「そこをどけエルフ。私は、女は斬らぬ」
「とんだ騎士道ね。こんな事をするのがあなたの騎士道精神だったなんて」
「貴様!」
ステインは背中の両手剣に右手をかけ、セリカに向かった。
セリカはたまらず両手で頭を防御する、しかしステインは両手剣を振りかざす事は無く、残った左手でセリカの腹部を殴打した。
腹部に強い殴打を受け、セリカは後ろに吹き飛ばされた。
背後にあった木箱に身体を打ちつけられ、そのまま地面に崩れ落ちた。
「ふん……この程度のフェイントもわからぬとは」
「さ、さすがステイン! やれ! その女を殺せ!」
ステインの背後から男たちの奇声が聞こえた。それを聞いたステインは両手剣を抜き、何もない地面にそれを突き立てた。
「黙れ雑魚共! お前らは早く街を占拠するのだ!」
「ひぃ!」
突然のステインの怒号が、男たちを震え上がらせた。
「す、ステイン貴様……誰にモノを言っている! 我らはレーデン様の直属の部隊だぞ!」
「喧しい! エルフの小娘一人に震えあがっていた連中が何を言う! さっさと街へ行って憲兵団と冒険者を捉えて来い!」
「き、貴様……、少し腕が立つからといって図に乗りおって」
腹部を強打されたセリカは、お腹をおさえゆっくりと立ち上がる。
飛ばされた背後が木箱で良かった、木箱がクッションとなり思ったよりはダメージは受けていない。しかしステインの拳は重く、セリカは危うく戻しそうになったが、口を抑えそれを堪えた。
しかしこの言い争いは一体どういう事だろう、魔王軍とは言え一枚岩ではないという事か。
「まだ、立つか」
「ステイン! 早く殺せ!」
「黙れと言っている!」
ステインは再び両手剣を振り上げ、もう一度地面を突き刺した。
「き、貴様……!」
「私は元よりこの作戦には反対だったはずだ! 速攻をしかけ住民を巻き込まない、そういう約束だったはず! そのために我らはこの暑苦しい魔人の中で耐えたのだ!」
セリカは、ステインのその言った言葉に驚いた。
『住民を巻き込まない約束』ステインはそう言った。
しかしこれはどういう事だろう。
突然の魔人と四天王レーデンの襲来、そして魔人から現れた魔王軍とオークの群れ、これのどこが住民を巻き込まない作戦なのか。
「住民を巻き込まない作戦……ですって?」
「!」
ステインは背後の男たちとの諍いに気を取られセリカが立ち上がっている事を忘れていた。
「これの……これのどこが……住民を巻き込まない作戦なのよ!」
セリカはステインに向かって走った。
右手に魔力を込めるそこに小さな竜巻が現れた、ステインはそれを察知し身体を翻した。セリカの右手の小さな竜巻は外れた。
ステインはその右手を掴み、能力を発動させようとした。
しかしセリカは残った左手で風を操る者の一撃を繰り出した。
その瞬間――ステインの身体は大きく吹き飛んだ。
遅れてやってくる衝撃波と爆音に、黒い男たちが悲鳴をあげる。
空高く打ち上げられたステインの身体は、力を失い地面に落ちる。しかしステインの身体が地面に設置する瞬間、フワッと少し浮き上がった。
「す、ステイン!」
男たちはステインがやられたと思い、声をあげた。
しかしセリカにはわかっていた、ステインの身体に風を操る者の一撃を放った。そのまま地面に落下すると思われたステインは、地面スレスレでブレーキをかけ、落下時の衝撃を抑えたのだ。
ゆっくりと地面に足をつけるステイン。
「本当に腕をあげたなエルフ」
着地したステインが、地面に刺さる両手剣を抜いた。
「どうやら私はお前を甘くみていたらしい」
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