五十四、冒険者対魔王軍⑦
物語は少し遡る。
セリカとガガオと別れたゴードンはある場所へ向かい走っていた。
彼にしては珍しく昨夜深酒を控えたため、駆ける足取りも軽快である。
ゴードンは大きく長い包を背中に背負い、手には同じく大きな鞄を抱えていた。
大きな鞄が走るたびにジャラジャラと音を鳴らす。
魔人キュルプクスが現れてまだ幾分かの時間しか経ってはいない、しかしどの道も魔人から逃げ惑う人に溢れ思うように目的地まで辿り着かない。
「くそ……重いな……」
ゴードンは路地の脇で立ち止まり、息を整える。
額から汗が流れ落ちるのがわかる、定宿を出発してここまで止まる事無く駆けて来た。
しかし人波に阻まれ思うように進んでいない。彼の目指す場所はまだ遠い。
それもそのはず、彼は押し寄せる人から逆らっているからだである。
「もう少しだ……」
ゴードンは背中の大きな包みを背負い直した、腕に抱えた鞄が地面へ落ちる。
落下した衝撃で鞄の中から、小さな石が零れた。
「しまった」
ゴードンは慌てて蹲り、その場にしゃがみ地面に散らばった石を拾い集める。
小さな石は青く輝いており、それが鉱石だとわかる。
ゴードンが石を拾い集めていると上から謎の奇声が聞こえる。
声は遠いがやけに腹の底に響く声。
「さっきガガオが言っていたオークか……もたもたしちゃいられねえな」
上を見上げたゴードンが再び地面に視線を向ける、震える指でひとつひとつ石を拾い、鞄の中に入れる。
「へへへ……わしは何ビビッてるんだ。死線を潜り抜けた数ならあいつらの非じゃないわい」
ゴードンは自分の震える右手を左手で包んだ。
「わしらがタダの冒険者じゃないって事を思い知らせてやる」
ゴードンは震えた手で落ちた石をすべて拾い上げ、鞄を抱え立ち上がる。
息を整え、東門の城壁に目をやった。
黒い身体をした物体がうごめいている、先ほどガガオが知らせてくれたオークの姿だ。
高い城壁を埋め尽くすように、それが溢れ今にも零れそうな程の物量だった。
何匹かのオークがゴードンの姿を見て、城壁から飛び降りた。
「まずい……」
ゴードンと距離は離れているものの、真っ直ぐこちらに向かって来たら、すぐ鉢合わせしてしまう。
彼の目的地は、もう少しだというのに、それだけは避けなければならない。
ゴードンは身体を低くし、再び目的地を目指した。
……。
…………。
周りにオークの声が聞こえる、全身から噴き出す冷や汗で衣服が濡れ肌にくっつく。
その不快感に襲われながら、ゴードンはようやく目的地に辿り着いた。
彼の目の前には、東門にある赤いレンガで造られた古い倉庫がある。
「ミルキィ、着いたぞ」
ゴードンは静かにミルキィの名前をペンダントに向かって言った。
「ありがとうございます、では中へ入ってください」
ペンダントからミルキィの声が聞こえる。
そう言われゴードンは、倉庫の扉に手をかける。
扉は木で出来ているものの、鉄拵えでところどころに鉄鋲が打ち込まれている。
施錠がされており、大きな錠がついていた。勿論、鍵は刺さっていない。
ゴードンは鞄を床に置き、背中に背負った包みを取り出す。
ゴンと鈍い音が周りに響く。
両手で抱えた包みで錠の破壊を試みた。
「くそ……」
二度、三度と錠を殴りつける。そして四度目、錠の一部が外れ地面に落ちた。
ゴードンは再び大きな包みを背負い、鞄を拾い上げ右手で扉を押した。
「へへ……勝手知ったるギルドの倉庫……ってな」
ゴードンは少しにやけながら倉庫の中へ足を進めた。
倉庫の中を眺める、木と土の匂いがすぐ鼻をついた。倉庫の中は暗く明かりもない。扉から差し込む光だけが中を照らしていた。
目の前には、巨大な木箱がいくつも重なり並んでいる。
ゴードンは倉庫の中を歩き、彼の身長よりも高く積まれた木箱を眺めた。
「わしもここには初めて入ったが…これでいいのかミルキィ」
「はい、お願いします」
「わかったよ……頼んだぜ」
ミルキィと会話をしながら、ゴードンは手に持った鞄から先ほどの石を取り出した。
それを勢いよく、木箱に向かって投げた。
「全部、お願いします」
「はいよ」
ゴードンは鞄から何度も石を取り出し、周りにあった木箱に向かって投げつける。
二度、三度、数得られない程の石が木箱にぶつかり地面に落ちた。
「そらよ!」
ゴードンは倉庫内の木箱という木箱に石を投げつけた。
「これが最後だ」
鞄を床に落とし、最後の一握りの石を投げた。
「ありがとうございます、ゴードン」
「いいって事よ」
ゴードンは何かの気配を後ろに感じ、倉庫の入り口を振り返る。
そこには三匹のオークが涎を流し、武器を構えていた。
「気づかれたか……ミルキィ、どれぐらいかかるんだ!」
「わかりません」
「おいおい、そりゃないぜ……」
倉庫の入り口はオークに完全に塞がれ、どう頑張っても逃げられそうにない。
額から汗が流れ服を濡らす、ゴードンは背中に背負った包みに目をやった。
「仕方ねえな……」
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