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五十三、冒険者対魔王軍⑥

 ヴァレリアは目の前で起こる光景に目を疑った。

 誰がどう見ても、勝負はあった。しかしこれは一体どういう状況なのだと。


 ラザラスの一撃が確実にレーデンの左肩を貫いた。それは完全なる致命傷と言える。

 しかし致命傷を負ったレーデンは笑い、一方致命傷を与えたラザラスは槍を構えて一瞬の気も抜かない表情を浮かべている。


 レーデンの右手はこの戦闘を前にジャックによって深手を負っており、まだに血は止まっていない。そしてラザラスの一撃は左肩を貫いた。

 両手は既に使えない。背中にもジャックから受けた傷、そして怒涛の連続突きによる傷の数々。


「な、何故……笑っている……」


 この圧倒的に不利な状況に、当のレーデンは笑っていたのだ。


「なんで笑っているのだ……!」


 レーデンが謎の高笑いにヴァレリアは不安を抑えきれず、ただ目の前で起こる光景を口にするだけしか出来なかった。

 肩を震わせ、顔を伏せ、目の前に蹲る魔王軍四天王。


「はははははははははは!」


 レーデンは顔をあげ、天を仰いだ。

 まるで空に向かって高笑いをしているかのような、その不気味な光景にヴァレリアの身体は震えた。


「想像以上だ、まさかここまで強い奴がこの街に居るとは!」


 レーデンは左肩を押さえながら、地面に転がる両手剣を握りゆっくりと立ち上がった。


「ヴァレリア……離れていろ」


 ラザラスはヴァレリアの前に立ち塞がり再び槍を構える。


 レーデンは全身血まみれのまま、ラザラスを指差し言った。


「お前……名を何と言ったか?」

「ラザラス・ザックハートだ」

「ラザラス……覚えておこう。この街にこれほどの強者が居た事を」


 尋常じゃない程の失血量、どんな人間であってもこれほどの傷を負っては立っている事すら出来ない。


「ま、まさか……覚醒能力……? 一体、何をする気だ!」


 ヴァレリアは忘れていた、ジャックとの戦闘では一方的に攻撃を受けた。その不気味さに只ならぬ雰囲気は感じたものの、忘れていたのだ。


「手加減はここまでだ」


 レーデンはそういうと目を見開いた。

 纏っていたローブを両手で破き身に着けていた鎧が地面に落ちる。

 一瞬にしてその目を赤く染まり、身体中にあった傷口から赤いドロドロした液体が流れ出て来た。液体は傷口を塞ぎ、身体を覆った。

 次第に赤から黒く染まる液体、両手はかぎ爪のように変化を遂げ、上半身も鱗のような模様に変わる。


「ギルド長……あれは……!」

「わからん……だが、奴はまだ本気じゃなかった。それだけの事だ」


 ラザラスが槍を強く握りしめ、レーデンに向かって駆ける。

 レーデンの眉間目掛け槍を突き刺す。

 鈍い金属音が辺りに響く、

 ラザラスが放った突きは兜に弾かれた。


「おいおい、まだこっちは準備中だぜ……焦んな」


 レーデンの声が周囲に響く、低くドス黒い声。

 彼の身体は黒く染まり、全身を鱗で覆われた。


「に、人間が……覚醒者がこんな……こんな事って……」


 レーデンを覆っていた謎の液体は、次第に消えていく。

 その代わりに彼の身体が大きく変わっていた。


「ば、化け物……!」


 元々あった髪は無くなり、その代わりに大きな角が二つ頭から生えていた。

 目は赤く光り、口からは涎を流し、吐く息は白い。身体中を覆う鱗は青黒く輝き、以前の身体よりも一回りも二回りも大きくなり、肩も腕も手も太く爪は鋭く伸びている。

 肘はせり出し尖りそれだけでも十分武器と言える程鋭い、胴体も青黒い鱗で覆われ以前のそれとは比べ物にならない程の分厚さに変化していた。


 全身の傷はすべて塞がり、背中には青黒い翼が生えている。さらに長く太い尻尾が生えている。履いていたブーツを爪が食い破り、装備品の殆どが内側から来る圧力により千切れ、形を成していない。


 ラザラスとヴァレリアが先程まで戦っていたその男の痕跡は無く、二人の目の前に異形の怪物が現れた。


「待たせたな」


 レーデンの声とやっとわかるような、低い声。


 そして異形のモノは、雄叫びをあげた。


 周囲の空気が震えているのが見て取れる、音波のような奇声。

 腹の底から響くその奇声にヴァレリアの背中は冷や汗でビッショリト濡れていた。

 ヴァレリアは横目でラザラスの表情を伺う。


 対峙するラザラスの額からも大粒の汗が流れている。


「こ、こんな事って……覚醒者が化け物に変わるなんて……」

「噂には聞いたことがある、人ならざる魔力を持った覚醒者は自らの身体を変化させることが出来るという」


 ラザラスは目の前の恐怖に飲み込まれまいと槍を強く握りしめた。


「人外……。そう言われている」

「あれが、じ……人外……」


 ヴァレリアはラザラスの言葉を繰り返した。


 ヴァレリアもAランク冒険者の一人、人外の噂は聞いたことあった。

 子供頃、エルフの里の長老が話していた。


 人ならざる強さ、魔力。人を捨てた存在。人外なるものが居るという事。


 それはヒトノカタチを維持する事さえ出来ない存在。人間の理性と身体を引き換えに異形のモノへと成り下がった覚醒者。


 人間の限界、人を超越したモノ。


 レーデンの身体からほとばしるその尋常ならざる魔力、奇声から発せられるとてつもない圧力。周囲の空間さえもどす黒い、得も言われぬ恐怖。

 所詮、長老の作り話かと思っていたヴァレリアは、その異形な存在を前にして、奥歯がガタガタと震えていた。


この度はお読み頂き、本当にありがとうございますm(*_ _)m


ブックマーク、レビューやいいね、ご評価、ご感想等頂けますと大変励みになります。


レビューや感想が面倒であれば、いいねや評価だけでも作者は大喜びで部屋を走り回ります笑


皆様が面白いと思える物語に仕上げて参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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