五十一、冒険者対魔王軍④
ジャックの身体が力を失い、突然重たくなった。
ヴァレリアは、ジャックの身体をゆっくりと地面へと寝かせる。
彼女は立ち上がり、目の前の男を真っすぐ見た。
そこに居るのは、魔王軍四天王レーデン。
深手は負っているものの、常勝無敗の魔王軍の四天王。一切の気は抜けない。
「逝ったか。時間稼ぎだと?なんの時間稼ぎにもならんな」
レーデンは相変わらず、ただ立ち尽くしている。両手剣は持っているものの、背中からの出血量は未だに流れ出ている。
ヴァレリアは癒しの覚醒能力を持つ、レーデンの出血量を見れば、どれぐらいの傷を負ったかはある程度わかっているつもりだった。
「深手とは言わない……しかしお前もジャックの攻撃で傷を追ったはずだ。魔人共々退け」
「馬鹿を言うな。この街を貰いに来たと言っただろう」
確かに致命傷にはなっていない、見た目ほどの傷ではなかったのか。
ヴァレリアは、目の前の男が起こす行動に得も言われぬ不気味を感じた。
ヴァレリアの不安をよそにレーデンは両手剣を背中にしまい踵を返し、ギルバインの東門へと向き歩いて行った。
「待て! 行かせない!」
彼女はそう言うと腰からナイフを取り出し、レーデンへ投げつける。
先程同じ攻撃だった。一本目は躱される前提で投げ、躱した際に命中するように時間差をつけて投げた。
レーデンは一本目を難なく躱し、二本目も躱される、そうヴァレリアは思っていた。
短剣を構えレーデンに向かって走る。
しかしレーデンはナイフを躱す事無く、一本背中に刺さる。そして二本目もレーデンの太ももに刺さった。
その光景に逆に驚いたヴァレリアは、歩みを止めた。
「な!」
歩みを止めたヴァレリアに対し、レーデンが振り返った。
彼の背中と太ももにはナイフが刺さっている。
レーデンは左手で背中に刺さったナイフを抜き、地面に捨てた。
ヴァレリアは驚きが隠せなかったものの、手に持った短剣をレーデンに向かって振りかぶった。
しかしレーデンは手に持った両手剣でヴァレリアの手首を弾いた、手に持った短剣が宙を舞い地面に刺さる。そしてレーデンはヴァレリアの喉元に剣を突き立てた。
「よせ。俺は、女は殺さない」
レーデンはそう言うと太ももに刺さったナイフも抜き、地面に捨てる。
ナイフを抜いたことにより、また血が飛び散り地面を染めた。
ヴァレリアはその姿とその言葉に、手首を抑えて力なく地面に膝をついた。
ヴァレリアは手首の傷を見た、手には血が滲んでいた。しかし致命傷ではない。明らかに手加減された傷だ。
「ま、街には……」
レーデンはヴァレリアの声を聞き、歩みを止めた。
「街には、大勢の人々が暮らしている! 女も子供も大勢だ! お前たち魔王軍はどうしてこんなことをする! 結果的に大勢の人が死ぬことになる!」
レーデンはヴァレリアに振り返る事無く言った。
「アーデルハイドを潰すためだ」
ヴァレリアは地面に座り込み、拳で地面を殴りつけた。
わかっていた事だ、話し合いが通じる相手ならば攻めて来る事は無い。魔王軍の目的はギルバインの街を陥落させる事だった。
自分がもっとジャックの援護をしていれば、彼が死ぬことは無かったのかもしれない。悔やんでも悔やみきれない。
しかも彼を殺した魔王軍四天王は、自分が女だという事で情けをかけ殺そうともしない。これほどの屈辱を味わった事は無い。
フィリザートはジャックと二人でレーデンを抑えるように言った。
しかし結果はどうだろう、ジャックはレーデンに殺され自分は敵に情けをかけられ殺す事無く、自分の前から立ち去ろうとしている。
「く……」
力なく地面に両手を突き、ただ地面を見つめるヴァレリア。
それを無視し、レーデンは再び歩みを進めようとした。
突然、レーデンが大きく身体を仰け反らした。
その瞬間、東の城門前から巨大な槍が飛んできた。
槍はレーデンを掠め、とてつもない衝撃音と共にヴァレリアの目の前に突き刺さった。槍は赤拵えの長槍で、先端部分はその衝撃からが殆どが埋まってしまった。
驚く二人は東の城門前を見た。
そこには馬に乗った一人の男が駆けてくる。
ヴァレリアの知った顔、ギルバイン最強の男、ラザラス・ザックハートである。
「新手か」
レーデンはラザラスの姿を見て、歩みを止める。
「ギルド長……!」
レーデンはその言葉に反応し、背中に収めた両手剣に手をかけた。
馬に乗ったラザラスは声をあげながら、レーデンへと向かっていく。ラザラスの手にはまた別の大型の槍が握られており、それを前方へと構えた。
「うおおおお!」
ラザラスが雄叫びをあげ、レーデンの身体目掛け槍を突き出す。
しかしレーデンはそれを寸でのところで躱し、背中から両手剣を振り下ろした。振り下ろされた両手剣はラザラスの乗る馬を両断し、血しぶきが舞う。
馬は悲鳴をあげ大きく仰け反った。
ラザラスはレーデンの一撃を受けるや否や、空中へと跳躍し、再びレーデンの身体目掛け槍を構える。しかしその槍も空しく地面に刺さる。
槍の衝撃で地面が少し揺れる。砂埃が舞い、ラザラスはゆっくりと刺さった槍を地面から抜いた。
「貴様が、魔王軍四天王だな……」
「そうじゃないと言ったら、どうするつもりだ。人違いじゃ済まないぜ」
ラザラスは槍を構えレーデンに向き合った。
「違うなら、俺の攻撃は避けられないはずだ。お前がレーデンだな」
「ははは! 無茶苦茶な奴だ! お前みたいのがギルド長とは!」
ラザラスは槍を構えレーデンと一定の距離を保ちながら、ヴァレリアに近づき彼女に声をかけた。
「大丈夫か、ヴァレリア」
「私は大丈夫です……しかしジャックが……」
ヴァレリアはそう答えると、後ろに横たわるジャックの姿に視線を向けた。
ラザラスはヴァレリアの後ろに居るジャックを見た。
「ジャック……すまない……」
ラザラスはジャックの力なく横たわるその姿をみて、一瞬だけ両目を閉じた、そして槍を握る力を強めた。
ギリギリと槍の柄が音を立てる。ラザラスが込める力の強さがその音をあたりに響かせた。
「魔王軍四天王レーデン……お前がこの街にした事……後悔させてやる」
「邪魔をするな」
レーデンは分厚い剣を左手で持ち言った。
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