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五十、冒険者対魔王軍③

 褐色の肌を持つエルフ、ヴァレリアは腰から投げナイフを取り出し、レーデンへ投げつける。

 レーデンは突然の投擲武器に驚き、剣でそれを防ぎそれを撥ね退けた。

 その隙をついてジャックの曲刀がレーデンの胴体を狙う。しかしレーデンは寸でのところで曲刀を躱し、後ろへ飛び退いて二人と距離を取った。


「なかなかやるじゃないか。冒険者と憲兵の集まりと聞いていたが、なかなか…歯ごたえのある奴が居る」

「なめんじゃねえよ。この街を好きにさせねえ」


 レーデンが口を開く。

 それに答えるようにジャックが言った。

 ジャックは息を整え、チラリと東門の城壁を見た。そこには黒い魔人キュルプクスが城壁を破壊している姿が見える。

 にわかには信じがたい事だが、魔王軍は魔人キュルプクスごと転送し街を襲ったのだ。


「貴様……こんな事してただじゃおかねえぜ」

「ならばどうする。俺を討って、あの魔人を止める気か?」

「当たり前だろうが……!」


 ジャックは奥歯に力を込め、曲刀を強く握りしめた。


 何とか致命傷は逃れているものの、ジャックの身体はいくつもの斬り傷を負い、身体のあちこちから血を流していた。

 それに対しレーデンは、殆ど攻撃を紙一重で躱し、これと言った傷は負っていない。

 さらにはジャックとエルフのヴァレリアの二人がかりでの戦闘である。

 それは誰の目にも明らかな、不利な状況と言えた。


「お前ら二人がかりでもまだ俺に傷のひとつもつけられていない。さあどうする? 奥の手でも使うか?」


 レーデンの一言に、ジャックは自身が見透かされた事に怒りを覚えた。


「ジャック、冷静になって。私たちが覚醒者でどのような能力を持っているかは冒険者たちなら知っている事、魔王軍に私たちの情報が伝わっていてもおかしくはないわ」

「そうだな。お前たちの情報は俺の部下たちが調べ知っているだろう」


 レーデンは顎を上げ、彼らを見下ろすように言った。


「安心しろ、俺はお前たちのような雑魚がどのような覚醒者かは知らない」

「ざ、雑魚……!」


 雑魚、Aランク冒険者のジャックにとって信じられない言葉だった。

 ギルバインの街でも彼に勝てる者はそう多くない。事単純な戦闘技術においてはギルド長のラザラスをも凌ぐという話が出たぐらいである。

 しかしそのジャックとの戦闘を行い魔王軍四天王レーデンは、彼を雑魚扱いとした。


「そうじゃないとフェアじゃないだろ? 俺だけがお前らの能力を知っているなんて」


 レーデンの言葉に驚く、ヴァレリア。


「さあ、かかってこいよ。そして見せてみろ、お前らの能力を」


 ヴァレリアはレーデンと距離を置きながらもジャックを横目で見た。

 肩で息をしていたジャックが呼吸を整え、能力を使おうとしているのが見て取れる。何度かパーティを組んだ経験があったため、ヴァレリアは彼の能力を知っていた。

 その能力は、実に彼らしい好戦的な能力と言える。


「なら、見せてやるよ……」


 ジャックはチラリとヴァレリアに目線を送った。それに気づいたヴァレリアは腰に携えた投げナイフを指で抜きレーデンに向かって投げつけた。

 投げられたナイフは真っ直ぐレーデンの頭を掠めた、ヴァレリアの投げたナイフは寸でのところで躱されたのだった。


「……!」


 ナイフを躱した事により崩れた体勢の先にまた別のナイフが投げられていた。

 ヴァレリアは二本のナイフを時間差でレーデンに投げつけたのだった。

 しかしレーデンは、二本目のナイフも身体を大きく逸らし躱した。


「!」


 そこに曲刀の刃が彼を襲う。疾風の如くその速さにレーデンは剣でガードせざるを得なかった。

 先程まで少し距離があったジャックが一瞬の間にレーデンの前に立ち、目にもとまらぬ速さで斬撃を繰り出してくる。

 さしものレーデンもすべて躱す事は出来ず、剣で受けに回った。


 目の前に現れたジャックが曲刀を振り回した瞬間、その姿は消えそこには斬撃の身が残って、また別の方向から斬撃が飛んでくる。

 右、左、上、下、前、後ろ、様々な方向から飛んでくる斬撃、それを受けたと同時にまた別の方向からの斬撃、一撃は重くないため受ける事は容易い、しかしその連撃速度は尋常ではなかった。


 東門の城壁前で風を斬るような斬撃がレーデンを襲った。

 そこに響く鋭い斬撃音。


(す、すごい……!)


 ヴァレリアはジャックの攻撃に驚きを隠せない。目にも止まらぬ連続攻撃とはこの事か。

 しかしそれと同時に、魔王軍四天王レーデンの強さにも恐怖を覚えた。


「これが俺の能力だ!」


 一瞬だけ、ジャックはレーデンの目の前に姿を現し、そう言ってまた目の前から消えた。

 怒涛の斬撃にすべてを受けきれる事が出来ず、次第に傷を負っていくレーデン。

 彼の身体を血が伝って、地面が赤く染まる。


「こんなモノがお前の能力か。まるで飛ぶハエのような攻撃だ」


 レーデンは、右手で斬撃受けつつ大きく身体を屈みこませた。

 屈んだことにより頭と体の前面への攻撃が出来なくなった、しかしそれでもジャックの斬撃は一向に止まず、残った背中と右手に集中的に攻撃を繰り出した。

 一撃一撃は致命傷にはならないまでも、確実ダメージは蓄積していく。赤く染まっていくレーデンの身体にヴァレリアは得も言われぬ恐怖を感じた。


(あの構えはなんだ……、あれではまるで……)


 そんな時、ジャックの曲刀が深々とレーデンの背中に刺さった。


「鬱陶しい!」


 レーデンはそう言うと左手で持つ両手剣を振り下ろした。


 城壁前の広い荒野にひとつの金属音が響いた。

 レーデンの放った一撃が、姿を見せなかったジャックの背中を捉えたのだ。

 それまで激しい聞こえた斬撃音は、一瞬にして静かになった。


 レーデンは振り下ろした両手剣を地面に突き立て、背中に刺さった曲刀を抜き地面へと投げた。


「姿が見えない程の速度の肉体強化、なるほど。こんな能力を持っていたとは」


 疾風のジャック、そう呼ばれる理由がそこにあった。

 自分の身体を強化させ、敵に姿を見せずに斬りつける。それがジャックの能力だった。


 身体強化の能力を持つ者は、珍しい事ではない。

 しかし目で追えぬ程の俊敏さを持つ者は少ない。ジャックがAランク冒険者になれたのもこの能力の影響が大きい。

 彼は何年もの経験を積み、自分の身体を限界にまで鍛え、ようやく疾風と呼ばれる程の俊敏さを体得したのだ。

 身体強化をする覚醒者の多くは筋力を求めるが、彼は速さに磨きをかけたのだ。


 レーデンの放った一撃に背中から血を流し、血を吐くジャック。

 一方のレーデンも血まみれであり、ところどころ深い傷を負っている。

 地面に横たわるジャックとそれを見上げるレーデン、二人の足元は血に染まっていた。


「面白かったぞ、お前の攻撃。だが速さだけに執着した、それがお前の敗因だ」

「な……んだと……」

「軽い、お前の攻撃は」


(そう、ジャックの攻撃には重さが無い。それはジャック自身もわかっていた。最後の止めに致命傷となる攻撃が必要となる。それをこのレーデンという男は一瞬で見抜き、そこに攻撃を繰り出したのだ)


 ヴァレリアの目の前で起こった、その出来事はまさに一瞬だった。

 レーデンは速さのみを追求した攻撃は致命傷にならないと悟り、ジャックが大ぶりの攻撃をする機会を待った。自分の身体が切り刻まれる事を恐れず、右手を犠牲にしてまで疾風のジャックを捉えたのだった。


 背中を斬りつけられたジャックは薄れゆく意識の中でレーデンを見上げた。

 血にまみれたレーデンが自分を見下ろしていた。

 ヴァレリアはジャックの元に駆け寄り、彼の身体を起こした。

 彼女は背中の傷を確認し、彼女の能力である癒しの力を発動させる。


「よせ……もう無理だ……」


 ジャックはヴァレリアの手を握り、そう言った。


「ジャック……!」

「へへへ……四天王サマよ……俺はただの時間稼ぎよ」


 ジャックが血にまみれた顔を上げ、口を開く。


 彼の言う言葉に嘘はない。致命傷は無くとも傷を受けたレーデン。フィリザートから捨て駒のように扱われた事は気に食わないが、少なくともレーデンの足は止める事は出来た。

 ジャックはレーデンの姿を確認する、彼はジャックの曲刀が深々と刺さった影響から背中ら血を流している。

 その出血量でレーデンの足元は血の海が広がっていた。


 その光景を見たジャックはニヤリと笑った。


「ざまあみろ」


 ジャックはレーデンに拳を突きつけ、そして拳は力を失い地面に触れた。


この度はお読み頂き、本当にありがとうございますm(*_ _)m


ブックマーク、レビューやいいね、ご評価、ご感想等頂けますと大変励みになります。


レビューや感想が面倒であれば、いいねや評価だけでも作者は大喜びで部屋を走り回ります笑


皆様が面白いと思える物語に仕上げて参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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