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四十六、ギルバイン攻防戦⑧

四十六、ギルバイン攻防戦⑧


 フィリザードは急いだ、セリカたちと別れ彼は足早に歩みを進めている。

 しかし思った以上に大通りは逃げる住民でごった返していた。


「通してくれ…!」


 大通りには逃げ惑う人々、これはあくまでも東門付近に住んでいた人々。

 これ以上の混乱がこれから起こる。いや混乱だけならまだいい。魔王軍の目的が定かでない今、最悪の状況を想定しなければならない。

 最悪の想定、ギルバインの街が街ごと破壊され、ここに住む人々が蹂躙される。

 それをなんとか阻止しなければならない、それだけの思いでフィリザートは冒険者ギルドへ急いだ。


 かなりの時間を要し大通りから、冒険者ギルドがある脇道まで辿り着く。

 脇道までくれば、目的地の冒険者ギルドは目と鼻の先だった。


 冒険者ギルドは人で溢れかえっていた。

 混乱し迷い込んだ住民らしき姿、Bランク冒険者、ごった返す受付、あちらこちらで人の喧騒。

フィリザードは受付に急いだ。


「ラザラスはどこですか?」


「え、えっと…あの…」


「私はフィリザード。Aランク冒険者です」


 フィリザードは自分の名を名乗った、彼女が驚くのも無理もない、自分の顔すら知らない。この子が生まれる前からずっと隠居のような生活をしていた。

 先日、魔人キュルプクスの話を聞かされるまで、一か月以上も部屋を出ていない。

 自室で読書を行い、食事のときだけ外に出る生活しか送っていない。


「あ、あの…ギルド長は、あちらにおられます!」


 フィリザードの名前を聞いた受付嬢は、大きく可愛らしい眼をさらに大きく見開き、はっと我に返ったと思うと答えた。

 受付嬢はギルドの後方へ指差し、必死で笑顔を作った。


「ありがとう」


 フィリザードは彼女の答えを半分も聞かずに足早にギルド内の奥へと駆けた。

 そこは広い会場の場所にラザラスが居た、ラザラスはBランク冒険者に質問攻めにあっている様子だった。無理もない、フィリザートがBランク冒険者は全員ギルドへ帰れと言ったからだ。

 人の波をかき分け前へ出るフィリザート。

 人混みに押され危うく転びそうになりながらも、最前列へと移動した。


「ラザラス!」


「フィリザード…!」


 ラザラスはフィリザードの顔を見て、明らかに落ち込んだ表情を浮かべた。

 予想通り、Bランク冒険者から魔人キュルプクスの出現を聞いたのだろう。その方が説明の手間が省けて助かる。


 ラザラスはフィリザートの顔を直視できず、目を逸らした。


 仕方が無い、ラザラスはフィリザードの意見を聞かず、魔人キュルプクスの侵攻を食い止めるために隊を編成しローレッタ平原で迎え撃つ作戦をたてた。

 そのため、本来街を守るために策を巡らせたにも関わらず、それが逆に魔王軍に先手を取られてしまったからだ。


「すまない、俺は…」


「仕方がありません、貴方も私も魔人キュルプクスの出現を甘くみていました。お互い様でしょう。しかし今は落ち込んでいる暇はありません。急ぎ彼らBランク冒険者を編成し、東門の防衛を行いましょう」


「どういうことだ…?」


「聞いてください。魔人キュルプクスはただの入れ物です。本当の目的は魔王軍の兵士の大量転送です。先ほど魔人キュルプクスから魔王軍の兵士たちが出現したと聞かされました。それを迎え撃つためには彼らが必要です」


「ま、魔人が入れ物だと…それに魔王軍の兵士がこの街に!」


「そうです、魔人はあくまでもギルバインの街に兵士を送るための兵器です」


「まさか…そんな事が…」


「そのまさかが、今、この街に起きています」


「魔王軍はそれ程の覚醒者を従えていたのか…」


 ラザラスは自分の考えの甘さに唇を噛み締めた。


「なんて事だ…」


「魔王軍四天王レーデン自ら街を襲撃しています。今はジャックとヴァレリアが東門の外でなんとか持ちこたえています。しかし私の予測ではそう長くは持たない。早く彼らの救援に向かってください。この街で一番の強者である、あなたが!悔しい事ですが、魔王軍は我々よりも遥かに戦争慣れしている。我らの一手も二手も先を読んでいます。このままでは混乱に乗じてギルバインの東部だけではない。全区画がレーデンの手に落ちてしまいます」


「し、しかし…」


「良いですかラザラス。良く聞いてください」


 ラザラスはフィリザードの顔を見つめた。


「キュルプクスはシャルロットだけで抑えられるものではないでしょう。しかし敵は魔人だけではない。魔人、四天王、魔王軍、すべて相手にしなければなりません。我らがそれぞれに対応していっても戦闘に勝てても戦争には勝てません。やるべきは個別撃破です!それが戦略というものです!」


 フィリザードの言葉はラザラスの心に突き刺さる。

 ラザラスは当初魔人をローレッタ平原で迎え撃つ作戦を立てた。しかしそれは簡単に崩れたのだ。

 ならば、別の作戦を立てる必要がある。しかし魔王軍四天王レーデンが現れた。

 ラザラスの想定には無い事案。全くの想定外、これに何か対応する術がラザラスには無かったのだ。

 無理もない、フィリザードはラザラスの肩を軽く叩く。


 ラザラスは元々Aランク冒険者であって、戦略家でも戦術家でもない。


 ラザラスは少し俯き、ふうっと息を吐いた。


「わかった…申し訳ないが…ここを任せられるか…?」


 フィリザートは静かに頷いた。

 そして、ふっと鼻で自分を笑う。


「どのみち私では何ら戦いの役に立たないでしょう」


 ラザラスは群がる冒険者をかき分け、前に進む。


「ここに集う全冒険者に告げる。俺の名はラザラス・ザックハート!」


 騒ぐ冒険者たちが一瞬にして、その一言に静かになった。

 冒険者たちだけではない、受付の女性たち、ギルドを支える事務員たち、逃げ場がわからずギルド内に逃げ込んだ住民。

 その全員がその声に一瞬静かになった。


「皆も知っての通り、今ギルバインの街に魔人キュルプクスが現れた!しかも魔人だけではない、魔王軍四天王レーデン、そして魔王軍の軍隊がこの街を襲おうとしている!この街には軍隊は居ない、戦えるのは我々冒険者と憲兵団だけだ!」


 フィリザートがラザラスの横顔を見つめ、少し悲しげな表情を浮かべた。


「俺は今から魔王軍四天王レーデンを討つためにここを離れる!今より私が持つ全権限を、ここに居るAランク冒険者のフィリザードに預ける!全員、彼の指示に従ってほしい!」


 ラザラスは手を広げフィリザートを指した。


「このフィリザードは俺が知る限り、最高の戦略家だ。安心しろ!」


 フィリザートは照れて慌てて目線を逸らす。


「後は頼んだよ…父さん」


 ラザラスはそう言い残し、二階へ上って行った。

 全員の注目がフィリザードに集まる、彼は頭をポリポリと掻いて一瞬笑顔を浮かべた。


「皆、聞いての通りだ。えっと…まずは…街の地図をくれないか」


この度は私の拙い物語をお読み頂き感謝申し上げます。


レビューやいいね、ご評価頂き、またご感想等頂けますと大変励みになります。


まだまだ稚拙な文章ですが、皆様が面白いと思える物語に仕上げて参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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