四十四、ギルバイン攻防戦⑥
四十四、ギルバイン攻防戦⑥
「これを使えば私たちのパーティと憲兵団団長バルザックさんと話すことが出来ます」
「なんですと!」
シャルロットは目を輝かせてペンダントをまじまじと見た。
「これは…どういう原理?通信能力を持った覚醒者があなたたちに居るの?古代文明の遺跡からも通信装置は発見されてみた事あるけど、もっと大規模な装置だったはず…」
「いえ、これは覚醒者の能力ではありません、それに私たちにはそのような能力はありません。これはミルキィが造った魔法具です。これを首から下げてください。自分が通信したいと思った時にこのペンダントを介して同じペンダントを持つ人と通信が出来ます」
「なんですとー…覚醒者の能力も使わず…大きな機械も使わずに…こんな事が出来る…なんて素晴らしいの…。きっとこの魔石に秘密があるのね…!そうよ、この魔石が覚醒者の魔力を利用して通話可能になるんだわ…!」
シャルロットはペンダントを手に取り裏表と色々観察している。
こんな非常事態に良くもそんなに呑気な事が出来るものだ。
噂に違わぬ変人、賢者シャルロット。
いや、普通に使っている自分たちの方が変なのかもしれないとセリカは思った。
「時間がありません。フィリザード様、あなたがシャルロット様にお話しした魔人キュルプクスの侵攻。それが今、現実のものとなっています。」
セリカは簡単に現在の状況をフィリザードとシャルロットに話し出した。
突然、東門の外に現れた魔人キュルプクス、そして魔人キュルプクスから出現した夥しい数のオークの兵士。現在は城壁の憲兵団とセリカの仲間のガガオが戦っているが、早く救援に向かわなければならない事を。
そして、ゴーレムであるミルキィもこの事態を予測していた事。
パーティに強力な武具を持たせた事。
その間もシャルトットはペンダントに興味津々で、聞いているのか聞いていないのか、セリカにわからなかった。
しかし当のフィリザードは顎に手を当て、静かにセリカの話を聞いていた。
長身で金髪の長い髪、身にまとったローブ、一見するとエルフの里ではなんら珍しくないエルフの男性。
これと言った武器も持たず、普通の町人のような恰好。まったくの無防備な姿。こんなエルフがAランク冒険者なのだろうか。
いや、人は見かけだけではわからない、もしかすると凄まじい覚醒能力を持っているのかもしれない。
それにフィリザードはこの状況を言い当てている。
ならば逆にこの状況を打破出来る策を持っているのではないか。
セリカにはフィリザードと男を信じている訳ではない。同じエルフであっても、素性もわからない男を簡単に信じられる程、幼い訳じゃない。
しかしミルキィが言った。
「フィリザード様なら、何か打開策があるかもしれません」
シャルロットから昨夜、フィリザードの事は簡単に聞かされた。
頭脳だけでAランク冒険者になったエルフ。
冒険者ギルド内でも彼の評価は賛否両論、類い稀なる人物と評価する者も居れば、冒険者として全く使えないという者までいる。
セリカもガガオもゴードンもフィリザードの能力を知っている訳ではない。
三人が冒険者になるずっと前から、彼はAランク冒険者だった。
しかし昨夜のシャルロットから聞かされた話、何故かミルキィがフィリザードを高く評価した、ただそれだけだった。
ミルキィがそう言ったから、ただそれだけだった。
フィリザードを信じられるかどうかはわからない、しかしミルキィの予測と彼フィリザードの予測が合致したという事。
それだけで信じるに値する。
「フィリザード様、私たちはあなたを信じ…」
「いや、私たちを様付けする必要はない。私たちはただの冒険者、君たちの仲間だ。そうだろうシャルロット?」
フィリザードが手をあげセリカの話を遮った。
「そうよん、商売敵でもあるけどねえ」
フィリザードが頭を掻いた。
フィリザードはやれやれと言った表情を浮かべ、セリカを見つめた。
「現在の状況は把握した。これを私に渡すという事は、私を少なからず評価してくれているという認識で間違いないね。セリカ、ペンダントの予備はあるかな?できればラザラスにも持たせたい」
セリカは頷き、ポケットからもうひとつペンダントを取り出した。
「勿論です、ギルド長の分は元々あります」
「ありがとう、私は冒険者ギルドに戻り現状をラザラスに伝える。そしてBランク冒険者をかき集めオークの討伐に向かわせよう。急がねば東地区だけではなく、ギルバインの街全部が魔王軍に占拠されてしまう。ここまではいいね?」
「はい」
セリカは取り出したペンダントをフィリザードに渡す。
「今、東門の向こうでジャックとヴァレリアというAランク冒険者が魔王軍四天王レーデンと戦っています」
「ま、魔王軍四天王…!」
ステインが言っていた魔王軍支店王レーデン。
まさか自身でギルバインの街を強襲するなんて、セリカには夢にも思っていなかった。
自分が思っていたよりか、現状は遥かに悪い。そう思った。
なるほど、それで二人がなかなか見つけられなかったのか。
「ジャックとヴァレリアは冒険者の中でもかなりの手練れです、簡単にはやられません。しかし相手はあの魔王軍の四天王、どんな覚醒能力を持っているかわかりません。私たちは魔人キュルプクスの侵攻の阻止と魔王軍四天王レーデンを同時で相手をしなければなりません。まずはオークを掃討し、次に魔人キュルプクスを倒し、そしてレーデンを討つ必要があります」
「簡単に言うわねえ」
「それには賢者シャルロットの能力も必要となります。良いですね」
「まぁやれるだけは、やってみるけどねえ」
「しかしセリカ、そのミルキィというゴーレムは一体どこに」
「先ほどまで通信が可能でしたが今は声が聞こえません。今彼は準備を整えているものだと思います。正直ミルキィの能力は私の予想を遥かに超えています。けれど彼はこの街が壊されていくのを黙ってみているとは思いません。きっと強力な味方となるはずです」
「まあ、私のピースに加えておきます。しかしゴーレム一体居たところで戦術上大きく変わるものではありません」
ミルキィの評価が低い、セリカはそう感じた。
しかしフィリザードはミルキィの能力を知らない、仕方が無い事だろう。
マスターであるセリカでさえ、ミルキィが今どんな状況なのかを知らないのである。
それでもセリカにはミルキィを信じている。
彼ならきっと、この絶望的な状況を打破してくれるはずだと。
「私は今から冒険者ギルドに向かいます。その道中に私が策を練ります。二人はそれに従ってください」
「まぁ仕方が無いわね」
シャルロットがペンダントを首から下げる。
彼女はニコリと笑った、まるで子供のような表情で。
それ言ったフィリザードは足早に大通りに消えていった。
大通りは今も逃げ惑う住民で溢れていた。
一体どれだけの住民が、このギルバインの街に居るのだろうか。
五万人。
バルザックはそう言っていた。その人数をセリカには到底想像が出来なかった。
東門付近の住民の避難は終わっている、しかし今でもまだ魔人から逃げる人々が溢れている。
ギルバインの街は東西南北、四つの区画で分けられている。
一つの区画だけでも最低一万人以上が暮らしている。ただ居るだけではない。そこで暮らしているのだ。
「じゃあ先に行くわ。後で合流しましょ。さ、お掃除お掃除っと」
「はい」
自分にもっと魔力があれば、二人を目的地まで運ぶほどの魔法が使えた。
しかしセリカの魔力量はそれ程多くは無い、自分を浮遊させるだけで精一杯だった。
もっと修行していれば、もっと魔法の練習をしていれば。街に消えていくシャルロットの後ろ姿を見て、自分の無力さを痛感していた。
この度は私の拙い物語をお読み頂き感謝申し上げます。
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まだまだ稚拙な文章ですが、皆様が面白いと思える物語に仕上げて参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。




