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四十、ギルバイン攻防戦②

四十、ギルバイン攻防戦②


 少年は名もない村で育った。

 村は平和で穏やかな日々だった。近くには小さな川が流れ、近隣には森もあり実にのどかな生活だったと言える。

 そんな村で育った少年は、どこにでもいる村の青年になっていた。

 贅沢な暮らしは出来ないものの、貧乏と言える程ではない。村での生活は平凡に過ぎ、あっという間に少年期を過ごした。

 娯楽と言えば、近くを訪れた冒険者が聞かせてくれた冒険談ぐらいのものである。


 彼らは少年の想像をも超える話をいくつもしてくれた。

 北の山脈でドラゴンを退治した話、東方にあるドワーフの里、そこで見た文明。

 西にはエルフの里があり見たことも無い程の美男美女が静かに暮らしているという。

 エルフは生まれながらに覚醒者で精霊の力をその身に宿し、様々な魔法を操る。ガガオの生まれ育った村には覚醒者は居なかった。

覚醒者の話、それだけで目を輝かせて食い入るように聞いていた。


いつか冒険者になって、いろんな冒険がしたい。

少年は、それを強く願うようになっていた。


 そんな平凡な少年にひとつの転機が訪れる。

 朝目覚めたとき、妙な感覚に襲われた。

 台所で家事をする母親、朝食食す父親、食器の音、朝から駆けまわる近所の子供の声、牛に水をやる村人、馬の嘶き、虫のさえずりさえも聞き取れた。

 これはおかしい。


 少年は、着の身着のままに外に飛び出した。

 村は大きくない、五十人足らずの小さな村だ。少年にはそのすべての村人の挙動が聞こえた。

 目の前には山、目を凝らすと木々の揺れがはっきりと見て取れた。普段なら絶対に見る事の出来ない距離にも関わらずそれははっきりと見えたのである。

 少年はその時、何かが変わったと思えた。


 自分が覚醒者になった!


 夢にまで見た冒険者になれる。そう思ったからだ。

 自分の身体に起きた現象を両親に話すも信じてもらえず、冒険者になる事も反対された。村の友人にも話を聞いてもらえず、そのうち変人扱いされていった。


 父はこういった。


「いいか、冒険者になってもなんら良い事はない。あれは何の取り柄もない奴がやるものだ」


 そんなはずはない。

 俺は覚醒者だ、それに自慢の弓術がある。

 冒険者になって、いつか金持ちになるんだ。こんな平凡な暮らしは真っ平だ。

 親父の言ってる事は嘘だ、俺がそれを証明してやる。


 村に不満があるわけではない、ただ村には刺激が無い。

 俺は覚醒者になったのに、ただこの平凡な村で一生を過ごすのか。街に行けば冒険者ギルドで依頼を受け、命を懸けた冒険の日々を送れる。


 その日少年は、父親と大喧嘩した。

 事の発端は、少年が冒険者になりたいとまた口走ったからである。

 喧嘩の最中に父親に手をあげてしまった。止めにかかった母親にさえ暴言を吐き自室に閉じこもった。

 両親は泣いていた。少年は自分がとんでもない事をした事を悟った。


少年は両親が寝静まった夜、金のために親の金を盗み少年は旅に出た。

 村を出て数日、ようやく少年はとある街にたどり着く、そしてその足で夢見た冒険者ギルドへ向かった。

 冒険者の登録には幾ばくかの金が必要だった。

 しかし村を飛び出た少年には殆どの金をここまでくる旅路で浪費しており、明日の宿代すら厳しい状況だった。

 受付に懇願し、なんとか冒険者登録が出来る事となり念願の冒険者となった。


 その勢いで依頼のある掲示板に目をやる。

 牛舎の掃除、薬草の採取、憲兵団の下請けなどどれも酷いものばかりだった。こんなの村でやっていた事ばかりだ。

 中には婆さんとの話し相手という依頼もあった。


 こんなものが冒険者なのか。


 冒険者の一人を仲良くなり、彼から話を聞く。


「腕自慢だって、覚醒者だって、ここにはなんてごまんといる。ちょっとばかり能力があっても、それを生かせる依頼が来るなんて殆どない。冒険者といっても要は依頼者の代理人よ。大半の冒険者は無謀な行動を起こし死ぬ運命だ。余程の実力と強運がなければ一流の冒険者にはなりわせん」


 少年は愕然とした。

 夢にまで見た冒険者、それになってもそこからいきなり冒険に出られるわけではない。結局依頼が無ければ何もできない。


 まさに依頼者の代理人。


 その現実を突きつけられ、少年は意気消沈した。

 旅をするにもそれなりの金が要る。その金を稼ぐためにも依頼を受けなければならない。それが、自分が望まない依頼であっても。

 生きるためには、金が要る。


 実に単純な事である、覚醒者になれば冒険者になれる。しかし数ある冒険者の中でも一握りの者だけが、少年の夢見た冒険者になれるのだ。そのことにようやく気付いた時には、既に少年は遅かった。


 父に暴力を奮い、両親の金まで盗んで村を飛び出し、夢にまで見た冒険者になった少年に帰る場所などありはしない。


 そこから数年、少年から青年に成長した彼は一人のエルフと出会う。

 彼女の名はセリカ。驚く程の美女だが、どこか間が抜けている。

 貧民街の子供たちを養いたいという彼女の希望を鼻で笑う。まるで現実がわかってない。


 彼女とパーティを組み一年が過ぎた頃、ひとつの出来事があった。

 

 街に魔人が襲い掛かってくるという。

 現実を知る青年は、身の安全を考えエルフを諭した。


 しかしエルフの彼女は言う。


「私の力なんて微々たるものかもしれないけど、私はこの街を守りたい」


 そう、彼女の力は良く知っている。

 風の魔法を得意としているが、覚醒者としては未熟と言ってもいい。戦闘経験も浅くとても魔人に敵うとは思えない。

 しかしそんな彼女が魔人と戦う選択をするとは思っていなかった。


 青年は考えた、これが、俺が夢見た冒険者の姿なのではないのか。


 勝てないから立ち向かわない。そうじゃないだろ。

 命を懸けた冒険、それがこれじゃないのか。



 ガガオはセリカとゴードンと別れ、ギルバインの城壁へ向かった。

 怯える憲兵団を無視し城壁の中に入り階段を駆け上る。

 途中でから全身から汗が噴き出してきた。そして身体が震え出した。それが今から始まる戦闘の恐れによるものか、それとも待ちに待った大舞台からか。


 長い階段を駆け上がり、ようやくガガオは城壁の外に出た。

 ガガオは全身汗にまみれ、息も絶え絶えだった。

 手に持った超大型の弓がひどく重く感じる。


 周りを見る、憲兵団の団員たちが目の前に現れた魔人キュルプクスに完全に飲まれている。無理もない、冒険者である自分ですら全身が震えている。

 恐怖に打ち勝つのは並大抵の事ではない。

 冒険者になって数年、命のやり取りは数知れない。しかしこの数か月起きた事を考えればそれも大した事は無い。

 あのミルキィを拾ってからガガオの運命は大きく動いた。

 そう思えた。


 ガガオは走りながら憲兵たちに、声をかけた。


「お前たち!何をビビってやがる!この街、ギルバインを魔王軍の好きにさせていいのか!戦うぞ!」


 ガガオは背中の矢筒から矢を取り出した。

 手に持った超大型に弓を構える。その弓は非常に長くガガオの身長程あった。

 弓の中心には青く輝く石が埋め込まれており、光の加減で大きく輝いていた。


 ガガオはその先の改めて魔人キュルプクスの姿を見る。


 家や建物よりも遥かに高い城壁をも超す巨大な魔人。

 どこもかしこも岩のような身体、とても普通の矢が利くとは思えない。しかしガガオにはミルキィ特製の大型に弓があった。

 ガガオは普段、扱いやすい小型の弓を携帯している。射程距離はあまり無いが取り回しが良く、連射も可能だからだ。

 しかし今回ばかりは一撃の威力が必要だった。


「こちらガガオ。東の城壁で魔人キュルプクスを確認した。今から奴との交戦に入る」


 ガガオはペンダントを握りしめ、そこに向かって話しかける。


「わかったわ、ガガオ。でも無茶はしないでね」


「やったれガガオ」


 ペンダントからセリカとゴードンの声が聞こえる、ガガオはセリカの言葉に少し笑った。


「魔王軍…魔人キュルプクスだかなんだか知らねえが、この街に俺が居たことを後悔させてやるぜ…」


 ガガオは強く弦を引く。そして覚醒者の能力を発動させた。

 すると大型の弓の中心にあった魔石が発光した引かれた弓がギリギリと音を立てる。


「さすがミルキィちゃん。こいつ俺の魔力を吸い取っているじゃないの」


 ミルキィがガガオに持たせた弓には魔石が埋め込まれている。その魔石がガガオの魔力を吸収し、弦をさらに強く。


「俺には…見えるんだよ。お前の崩れそうな部分がよ」


 ガガオはそう言うと、一本の矢を放つ。

 疾風の如く弓から放たれた矢は、風を切り魔人キュルプクスの頭部に直撃した。


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