三十七、地響き
突然の魔王軍四天王レーデンの強襲の時。
ミルキィはザーハの元を訪ねていた。
「こんな朝っぱらから人使い悪いゴーレムだぜお前は」
「申し訳ありません。これがお願いしていた結晶ですね」
「ああ、お前の注文通り。トライニウムの結晶だ」
暗い部屋の中にミルキィがひと際輝く結晶が入った小箱を手に持っていた。
それは周囲の光を集めたかのように眩く、輝いている。
「ありがとうございます」
「まあお前には借りがあるからな、ピューリッツ坑道も無事解放してくれたらしいじゃないか。あそこにも良質な鉱石が眠っている。ありがとよ」
「いえ、依頼ですので、当然の事をしたまでです」
「ただし、トライニウムの結晶は値が張る。まだまだお前に稼いでもらうからかな」
「問題ありません、ギルドへ依頼ください」
「しかし何かわからねえが、それをどうするつもりなんだ?」
「魔人キュルプクスの話はご存じでしょうか」
「ああ、もう商人ギルド内でも大半の人間は知っている。今朝にでも避難命令が発令するらしいな。忙しくなるぜ…」
ザーハはふぅとため息をついた。
「はい、間もなく魔人キュルプクスの侵攻を食い止めるため冒険者がローレッタ平原へと向かうでしょう」
「なんだ、お前はそこに行かないのか」
「私はこの街の防衛の任に着くことになりました」
「そうか。ま、冒険者ギルドのやり方に口出しはしねえさ。だがお前ならその魔人キュルプクスってのも倒せそうな気もするんだがな」
ザーハが懐から煙草を取り出し、一本口に加える。そしてポケットからマッチを取り出し、火を受つけた。
「しかしギルバインの街を見捨てるなんざ、アーデルハイド公国の官僚たちは何を考えてやがるんだ。」
「良くある事なのでしょうか」
「あるわけねえよ。魔王ギデオンが現れてから十年、滅んだ国のどれも魔王に立ち向かったさ。ま、どの国も勝てなかったがな」
ザーハはそういうと再び煙草を口に咥え、煙を吐いた。
白い煙が部屋に充満し、やがて煙は静かに消えていった。
その時、激しい地響きが暗い部屋を揺らした。
部屋の中にある家具が上下に激しく揺れる、ザーハは驚き周りに置かれていた調度品を押さえる。
「な、なんだあ?何がどうなってる!」
「わかりません、しかし時間はあまり無いように思います」
ミルキィはそういうと小箱からトライニウムの結晶を取り出し、もう片方の手で服を捲し上げた。
するとミルキィの胴体が姿を現した。胴体の心臓部分に当たる左胸にミルキィの温帯である球体が存在していた。
そしてミルキィは手にもったトライニウムの結晶を左胸にある球体の中に押し込んだ。
するとミルキィの身体が光出した。
「お、おい…」
「離れていてください」
「ちょ、ちょっとお前。何をいきなり……」
ミルキィの身体からあふれ出る光が次第に強くなる。
――
謎の振動にバルザックは驚いていた。
「どうした?何事だ」
バルザックは憲兵団団長室で避難計画の最終打ち合わせを行っていた。
周りには憲兵団副団長の姿があった。
「この地響き……一体……」
揺れは続き、部屋の中のコップやガラスが割れだす。
家具は激しく上下に揺れ、今にも倒れそうな程。団長室の外から小さく悲鳴が聞こえた。
バルザックたちは屈み、揺れが収まるのを待つ。
暫く待つと大きな振動は収まった。
「や、止んだ。いや……」
しかし振動は周期的にやってくる。その振動は最初のよりかは小さいものの、緩やかに地面を揺らす。
「ど、どう言う事だ、何かが歩いている」
バルザックは自分が言った一言に戦慄した。
(何かが歩いている? そんなまさか、こんな馬鹿な事があるか!)
バルザックは憲兵団団長室を飛び出し、走った。
部屋を飛び出したバルザックは、団員室で仮眠をとっている団員たちのどよめきを無視し、東側にある窓を勢いよく開いた。
「だ、団長……?」
後ろから憲兵団員のコリアの声が聞こえた。しかしバルザックは振り返らず、目の前に広がる光景を凝視した。
バルザックの目の前にはいつもの光景、ギルバインの街の朝があった。白い鳥が朝を告げる。
鳥は羽ばたき青い空を駆ける。
その空は雲一つない、真っ青な空。
いつもと変わらぬ朝、いつもと変わらぬ青空、ただ一つ異形な姿を除いて。
バルザックのその目に映っていた。
街の城壁を大きく超す黒と赤の巨人、魔人キュルプクスが。
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