三十六、強襲
上級貴族バルザックからの依頼から翌朝、Bランク冒険者たちは一同に召集される事になった。
ギルバイン東門から出てすぐの場所に、集められた冒険者は約七十名。
栄えるギルバインの街でも東門は人気が限りなく少ない。しかも早朝という事で冒険者以外の人影は見えない。
集まったどの冒険者も強者揃いであった。しかしどの表情も自分たちで魔人キュルプクスの侵攻を食い止められる事が可能なのかという不安感により暗かった。
魔人キュルプクスは東門から出て、遠くノーマの民の遊牧地で目撃された。それが昨日の夕方の事である。ノーマの民の遊牧地からギルバインの街に来る途中にローレッタ平原がある。
魔人キュルプクスがローレッタ平原を迂回していなければ、馬で一日足らずで平原で対面する事が出来る。ローレッタ平原は何もない平原で激しい戦闘が起きてもギルバインの街への被害もない。
迎え撃つには理想的な場所と言える。
集った冒険者には憲兵団が用意した馬が割り当てられ、それぞれに騎乗し足早に出発準備を整えていた。
「ジャック元気でねえ」
「寝ぼけた声を出すな。それよりも聞いたぞ、何故お前は部隊に参加しない。お前の魔術があれば心強いのだが」
眠い目をこすりながらシャルロットが騎乗しているジャックに話しかけた。
「私は行きたいって言ったんだけどね。私は万が一の可能性も踏まえてギルバインの街で待機よ。フィリザートの指示でね」
「策士フィリザードか。ふん、戦いなんてどっちが強いかだろうが」
フィリザード、ギルバイン冒険者ギルドAランク冒険者で策士フィリザードの異名を持つ。戦闘能力は低いがどの依頼もその優れた策により依頼達成率は最も高いと言われるエルフである。
「ふふふ、噂をすればご登場よ」
策士フィリザード、細身で長身、一見するとただの優男だが鋭い眼光が光るエルフが二人に近づいてきた。
「ジャック、よろしくお願い致します。あなたがこの部隊の指示をとってください。あなたの武力は信用しておりますが、なにぶんBランク冒険者ばかりです。無茶な命令で死者を増やす事はお控えください。間もなくバルザックが避難命令を各地に出します」
「心配ならお前が指揮すればいいだろ。たまには自分でも動けよ」
「私が動いても何の役にも立たないのは、あなたもご存じの事でしょう。私は稚拙な愚策しか生み出せません」
ジャックも嫌味を言いつつも心の中ではわかっていた、彼が動いても何の役にも立たない。三人はギルバイン冒険者ギルドでも付き合いは長い、何度と命のやり取りを潜り抜けて来た猛者。
フィリザードは自らが動くのではなく、誰かを動かす事に長けている。
「太陽神ソラールの加護がありますように」
フィリザードが祈りを送った。
ジャックは呼吸を整え、周囲に居る冒険者たちを鼓舞する。
「行くぞ、野郎ども! 俺たちの街は俺たちが守る。魔人だがなんだか知らねえが俺たちを甘く見た事を後悔させてやる!」
冒険者たちがそれぞれに声をあげる。自分を鼓舞し血を高める。
その声は雄叫びに変わった。
「俺に続け!」
ジャックが手綱を引き、彼が乗る馬は嘶く。
ジャックが馬で駆けようとしたその時、一人の男が平原から歩いてくる。
男は黒いローブを纏い、フードを被っている。
その姿を見えた、刹那その男が全速力でこちらへ走ってきた。
「誰だ?こんな朝早く。まさか憲兵団の人間か」
冒険者たちの目線がその男に集まった。
男は信じられない程の速度でこちらに近づき、背中の剣を抜いた。
「なんだ! 全員、抜刀!」
ジャックがただならぬ雰囲気を察し、冒険者全員に武器を抜刀するように命じた。
しかしその声が聞いた一人の冒険者の首が空に舞った。
「て、てめえ!」
ジャックが激高し、謎の男に剣を抜き馬上から剣戟を加える。
男はそれを容易く躱し、ジャックの背後にまわり再び剣を振り下ろした。
ジャックは馬を蹴り上げ宙を舞いその剣を躱す。男の振り下ろした剣は馬を両断し、あたりに血が飛び散った。
突然の襲撃に驚く冒険者たち、それを察してフィリザードが声をあげた。
「皆、距離を取れ! 一撃でやられるぞ!」
フィリザートの声にジャックも反応し、後ろへ少し下がる。周りで同様していた冒険者たちもそれぞれ男と距離取った。
「何者だ。我らがギルバイン冒険者と知っての事か」
男は馬を両断した剣を肩に構え、もう背負っていた剣を抜いた。
「ふざけんな!」
ジャックが抑えきれず、男に斬りかかる。
「やめろジャック!」
フィリザートの声も空しくジャックの曲刀が男を捉える。
しかし男はそれを剣でガードし、反動を利用し後ろへ撥ねた。
「てめえ……。何してんのかわかってんだろうな!」
「ジャック!」
ジャックは躱された攻撃の手を休めない、曲刀を構え男に突進していく。
再び男はそれを躱しジャックの背後を取る。
「なかなかやるじゃないか、ギルバインの冒険者は」
「ちっ!」
背後を取られたジャックは円を描くように斬撃を放つ、それを再び男は剣でガードした。
「よせ!彼らは今からギルバインの街に向かってくる魔人の侵攻を食い止めるために出るのだ!」
フィリザードが男に向かって言う。
「ははは、魔人がそんなに怖いか。俺は街を明け渡せと言ったはずだ」
「何?」
男はフード脱ぎ、冒険者たちにその顔を現した。
「俺の名は魔王軍四天王レーデン。この街を貰いに来た」
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